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5.獣人と野宿

 荒野の街を出て、渓流へとやってきた。日はすっかり暮れて、空は真っ暗。動物や魔物の鳴き声は静かで、川が流れる音が薄っすら聞こえるくらい。百合の音もまだ聞こえない。


「暗くなるって分かってるのにどうして街を出たの? 宿に泊まっていけばいいのに」


「色々と問題があるのです」


「ああ。お金とか?」


「それもありますけど、あんな治安の悪い街で寝泊まりしたら万一寝込みを襲う輩がいたら面倒です。仲間を呼んで報復に来る可能性もあります。私は危険を察知できますけど、フェネに被害がいくと大変です」


「一応報復を気にする程度には暴力行為を認識してるんだ」


 目には目を百合には華を。これが私の信念。


「もしかしてフェネは野宿になるよりお布団がよかったです?」


 私は翼があるから最悪はこれで身を包めば最低限の暖にはなる。でも地上の人は違うかも。


「別に。野宿は慣れてる」


 旅も慣れてるって言ってたので、野宿も経験があるのかな。フェネを知るたびに芸達者というか、文武両道というか、只者じゃないって感じがする。


「さっきの街でもギルド法令について語ってましたし、フェネは学もよさそうです」


 だんだんと獣道になってきたので魔法で蔦や雑草を吹き飛ばそう。


「力だけだとさっきの街の連中みたいになってしまう。だからといって知識だけあってもそれを活かせなければ意味がない。力と知識、その二つが揃って、初めて何かを成せる」


「なるほど……確かに百合は一人だと成立しません。もう一つ華があってこそ、百合へと昇華します。そんな感じですか」


「……今まではそう思ってたけど、ヴィヴィを見たら少し考えが変わった。どうやら圧倒的な力の前では全てが無力らしい」


「つまり百合に感化された?」


「私は今、天界の教育制度が本気で心配になってる」


「あー分かります。あそこには偏屈な人しかいません」


 フェネがため息吐いてる。歩き通しでお疲れなのかな。


 それにしても歩きにくい道だなぁ。もう飛んでいこうかなぁ。


「そういえばフェネも魔法使えたりする?」


 使ってるところは見たことないけど、こんなに賢いなら普通に使えそう。


「まぁ一応」


「えー見たいです」


「私はヴィヴィと違って無駄なエネルギーを消費しないタイプ」


「まるで私が無駄に魔法を使ってるみたいです。私が魔法を使う時は乙女を守る時です。決して無駄ではありません」


「今は?」


「フェネという乙女を守っています。主に雑草から」


 葉っぱって案外鋭いのでフェネの綺麗な足に擦ろうものなら、傷になってしまう。それは断固拒否!





 それから歩き通したものの、渓流はまだまだ抜けられそうにない。やはりここで野宿するしかない。幸いちょっと広いとこに出て、大樹もあるなら周囲を見張るには丁度いいかも。


「今日はここで夜を過ごすです」


「了解。じゃ準備する」


 そしたらフェネはてきぱきと枝や枯れ葉を集めてきた。手慣れている。


 フェネは枯れ葉の上に手を添えて、ボッと火を灯してました。焚火の完成。手際よすぎてびっくり。


「ほわ。フェネの初魔法です」


「ただの炎魔法。こんなの子供でもできる。そうだ、少し待ってて」


 どこかへ行ったと思ったら、数分で戻ってきました。手には枝に刺された魚を持ってる。それを焚火の近くに地面に立てて、細かくひっくり返しながら両面を焼いていました。なんかいい匂い〜。


 そうしたらこんがり焼けたお魚さんの完成です。


「何も食べてないでしょ。あーでも、天界だと肉や魚は食べないんだっけ?」


 私が言ったことをちゃんと覚えていて思わず涙が出そう。尊い……。


「いいえ。確かに天界では殺生行為は禁止されていますが、命を頂くのはそれとは別です。なにより私のために動いてくれたフェネの尊さを無碍にするのは私の信仰に反します」


「後半何言ってるか分からないけど、食べてくれるならよかった」


 早速枝を受け取って……わ、熱い。これは手に防護魔法をかけておこう。フェネはよくこんな熱いのを平気で触ってるなぁ。魔法を使ってるのかな。ともかく、実食。


 パク……


「ほわ……おいしい……こんなの初めてです」


「そんなに美味しい? 調味料なにも使ってないし、焼いただけだし。私としてはもう少しスパイスあった方がいいと思うけど」


「とても美味です。私は今、感動しています」


 命がこんなにも美味しいものだったなんて……。天界にいたら絶対に分からない味だ。あー、ホクホク~。おいしい~。でも骨がちょっと邪魔かも……。


「そんな顔で食べるなら嘘じゃないんだろうけど。これもヴィヴィの言う尊いってやつ?」


「厳密には違います。フェネが私の為に用意した、という部分が尊いのであって、魚のおいしさが尊いのではないのです」


「結構難しいんだね」


「フェネもいずれ分かる日が来ます」


 だってもう尊いの実践できているので、あとはそれに気づいてくれるだけ。





「ご馳走様でした」


 命を頂き終わり、空は真っ暗。焚火の炎だけがぱちぱちと燃えている。


「見張りは私がしましょう。こう見えて夜は強いんです」


「別にいいよ。私、数日寝なくても平気だし」


「だったら私の翼の中で寝ますか? これ、結構ふわふわしてて気持ちいいんです」


「場所が悪いから寝ないって意味じゃないんだけど」


 むむ、そうだったのか〜。


「それに別に気遣ってくれなくて平気。私ってアレだから寒さには強い」


「実は私もアレなので寒さには強いです」


「え? ヴィヴィもアレなの?」


「そうそう。アレなんです」


 こういうのはノリで乗っかるもの。


「はぁ。なんでもいいけど。ていうか気付いてわざと言ってるだろうし」


「フェネは獣人ですね?」


「まぁね。別に隠してるわけじゃないけど、獣人を便利屋みたいに思ってる人が面倒なだけ。力仕事とかそういうの押し付けてくるんだよね」


 だから尻尾もロングスカートで隠しているのかな。見たことないけど、きっと可愛いというのは分かる。


「ご安心を。私のそばにいる限りはフェネの尊いは絶対に侵させません。そんな連中はぶっ飛ばします」


「ヴィヴィなら本気でやりかねないから遠慮しておく。まだ指名手配はされたくない」


 ガーン!


 私ってフェネからそんな風に思われていたのでしょうか……。


「まぁでも、ありがと……」


 そう微笑んでくれた時、私の尊いセンサーは爆散して意識が吹き飛んだのだった。

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