27.魔人とライフライン
「今日の依頼の受注に行こう」
フェネがいつものように言ってきます。また魔物退治かなぁ。嫌だなぁ、面倒くさいなぁ。お金のためって分かっていてもやはり女の子を拝めないのは辛い。もちろん3人の乙女がそばにいるから苦じゃないけど、毎回こればっかりするのは疲れる。精神的に。
「なんかこう、ドカンと稼げる方法がないです?」
「その方法を実践してるのが一部の富裕層だろう」
フェネは今日も冷たい。
「ですがヴィヴィさんの言う通りです。旅の人数も増えて報酬の取り分も減っています。なんらかの方法を模索すべきだと思います」
さすがモノコ~、分かってる~。
「ラプちゃんもそう思いますよね~」
「……資本主義には屈しない」
「ほら、ラプちゃんもこう言ってます」
「ヴィヴィ。意味分かってる?」
「はい。四本、つまり百合の本数ですね。百合主義です」
「頭おかしい」
最近フェネが直接悪口言ってくる気がするんだけど気のせい?
「理想を語るのは自由だけど、現実を見なければただの机上の空論だ」
「その点に関してわたくしから案があります」
モノコ様が挙手しております。これは期待できそう。
「昨夜、ラプスさんとフェネさんが行った洗濯、あれを商売に使えるかと存じます。フェネさんが言ったように人界では魔法を扱える人は多くありません。ですから洗濯するのも時間を要します。そうした時間削減のためにわたくし達が代わりに洗濯を素早くして差し上げればお金を払ってでもお願いする方はいると思います」
ほほう、確かに。昨日してくれたのは衣服類だけだったけど、カーテンやシーツ、クッションみたいに洗濯するのも少し大変なのも含めたら結構反響があるかも?
「でもそれだとラプちゃんとフェネの負担が大きすぎると思います。まるで奴隷です」
「昨日提案した人の発言とは思えない」
いや~、だって4人分の服と不特定多数だと全然違うだろうし。
「もちろん、その点は弁えています。ただ、せっかく魔法を扱えるならばそれを活かすといいと思っただけです」
でもモノコが言うと結構説得力ある感じがするなぁ。商才ありそうだし。
「これに関しては2人の意思が大事です。嫌ならやめるべきです」
「私は大して問題じゃない。負担が多いのはラプスだろう」
全員の視線が集まる。ラプちゃんの答えはいかに?
「……今回はやってみる」
妙に含みのある言い方だけど、どうやらオッケーみたい。よーし、じゃあ早速準備だ~。
なんということでしょう。一時間もしないうちに街で大行列ができちゃいました。大盛況ってレベルではありません。どうやら人界では洗濯するのがよほど面倒らしいです。
ラプちゃんがせっせと水魔法で選択して、それをフェネの炎魔法で遠くから乾かして、そして私の具現化魔法で日当たりや風通しのいいところに干します。いい感じに固定できるから、この魔法も案外便利かも。
モノコはいい感じに接客しています。営業スマイルばりの笑顔が眩しい。
「次のお客様は、上着一着とクッション一つですね。合計で銀貨5枚です」
「モノコ、待って! そこは乙女割が適用されます! 銀貨4枚です!」
可愛いお姉さんだったので!
「あら~。ありがとう~」
いえいえ~。モノコは不服そうにしてたけど、黙って銀貨4枚受け取ってる。
「次のお客様はカーテン類ですね。この量ですと銀貨8枚です」
「モノコ見て。女子2人です! つまりてぇてぇ割です! 銀貨5枚!」
カーテンを運んでる姿が何とも微笑ましい。これは祈りたい。モノコは何も言わなかった。理解が早い。
次は……野郎か。仕事に戻ろ。
私は今、目の前で起きている状況が理解できていない。夕暮れの荒地の中、テーブルを広げて皆と一緒に食事中。テーブルの上に置かれてるのは……茹でた豆? それだけがちょこんと置かれている。何が起こったんだろうか。少し整理してみよう。
確か資金が欲しいってなって、モノコの提案の元で洗濯事業を開いて見事大盛況したんだった。それはもうびっくりするくらいの売り上げだったはず。そこまではいい。
それで空もまだ明るいからってなって街を出たんだっけ。うんうん、普通普通。
とくに尊い展開もなく、荒地のところまで来た。ここもまだ問題ない。
そういえば会話をした。確か内容は……。
『すごい反響ありましたね。またお願いしたいって人も沢山いましたし』
『お金で代えられるなら楽したいというのが人の本音ですわ』
『もうこれは街に着いたら洗濯事業で荒稼ぎするのが正解です?』
『わたくしはそう思います』
こんな感じにモノコと会話していた気がする。
『……わたしは、洗い物がしたくて魔界を出たんじゃない』
思い出した。これでラプちゃんがキレた。というより不機嫌になった。
結果、夕飯には茹でた豆のみが出される。
スプーンで食べてみる。味も何もなく、ただの豆。お湯で茹でてそのまま出された。触感だけを楽しめる素晴らしい料理。
モノコは現状に絶望し、フェネとラプちゃんは黙々と食べてる。
というか今気づいたんだけど、食べ物やお金は全部ラプちゃんのパンドラボックスで管理してるから、これ大変な状況なのでは? ラプちゃんの機嫌次第で料理もお金も管理されている。百合信仰旅団のライフラインはたった一人の幼女が握っていた……!
「モノコ、これはかなりまずい状況ですよ」
「え、えぇ。まずいですわ」
小声で話し合う。
「……不味いなら食べなくていいよ」
ラプちゃーん。まずい違いですぅ!
「ラプちゃん、本当にごめんなさい! 百合信仰団長として乙女の尊厳を遵守できてませんでした!」
「わたくしからも謝罪します! ほとんど何もしていないのに浮かれておりました」
ふかーく頭を下げる。返事なし。終わったー……。
「ラプス。どの道お金は必要になるから無駄ではないよ。魔界を離れた今、物を造るのに原材料が必要になる」
「……なんかお金に振り回されてるみたいでヤダ」
ラプちゃんって商人なのに徹底的にお金稼ぎに否定的な感じがする。
「お金がなくなったら百合の花食べるしかなくなるけど、それでもいい?」
「元々小食だし、別に気にしないけど」
「奇遇だね。私もそんなに食べないから毎日これでもいいよ」
フェネ!? フォローしてくれてると思ったらそっちに流れます!?
「ラプぢゃーん。お願いしますぅ。全部私が悪かったんです」
豆生活は構わないけど、ラプちゃんに嫌われてしまったらもう百合信仰団長を辞任しないといけない。
「……だったら1つお願い言ってもいい?」
「なんでも聞きます!」
「……人界の火山地帯で希少な鉱石が採れるって聞いて、ちょっとだけ興味がある」
「行きます行きます! 今すぐ行きましょう!」
海の中でもマグマの中でも行ってあげます。
「旅団の真のリーダーはラプスさんになってきた説がありますわね……」
「ラプスのおかげで旅が楽になったのは事実だから仕方ない」
やはり幼女をリーダーにした方が流れがよくなる……。私の身長があと掌くらい小さければ……! ぐは




