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26.尻尾と誘惑

 体を清め、食事も済んでいざ就寝タイム。ランプの灯りを消したら真っ暗になった。私は目がいいのでこのくらい問題ではないです。お布団に入ったら目の前にフェネ。服が乾いていないのでまだバスタオル姿という絶景。最高か。目が合った~。えへへ~。


「ヴィヴィ、あっち向いて」


「え~。このベッド少し狭いですし、私の翼結構大きいのでフェネが寝苦しくなるかもです」


「こういう時だけ正論言うのはどうかと思う」


「フェネが寝返ってもいいんですよ?」


「絶対尻尾触るでしょ」


 な、なんのことですか……?


 それで互いに見つめ合った状態が続く。フェネとこんなに近くにいるのは初めてかも。尊い。百合神に感謝。


 フェネはプルプル震えてる。トイレ?


「ああもう、やっぱり無理! 私、床で寝る!」


 フェネの絶叫。


「フェネさん、お静かにしてください」


「……眠れない」


 モノコとラプちゃんからの素面の注意。これは本気で思ってるやつ。フェネは小さくため息吐いて瞼を閉じてた。


「フェネ。反対向いていいですよ。私、本気で嫌がることは絶対にしません。百合の神に誓います」


 そしたらフェネが何も言わず寝返りました。そしたら、目の前になんともふくよか真っ白もふもふな大きな尻尾が……! ふおぉぉぉぉ! これは国宝級のてぇてぇ……!


 触り、たい……。


 はっ、私は一体何を考えて……。だめだめ、さっき百合の神に誓ったばかりじゃない。

 でっ、でも間近で見たらこんなにふわふわしてるなんて……。普段見せないけど、これ絶対毎日手入れしてますよね? そうでないと、毛先がこんなに整うはずないもん。私には分かる。絶対そう。


 モフり、たい……。


 百合のドーパミンが覚醒する。少しだけ、少しだけなら、と頭の中の天使が囁く。で、でもこれ触ったら絶対嫌われる。さっきあんな宣言した手前だからフェネに絶交される可能性だってある。


 考えなさい、天使ヴィヴィエル。私は空から数多のてぇてぇを拝んできた者。この程度の困難何度も乗り越えてきた。頭が最大指数に働いて回転する。フェネに嫌われず、触る方法……。


 ピコーン!


 そうだ。だったら触らなければいいんだ。フェネは言った。触ったらダメだって。それは私から触らなければオーケーということ。つまり、この尻尾が動いて私の体の一部に接触した場合はそれはなんら問題ではない。だってこんな狭いベッドだし不可抗力が発生する。さすが私、天才だ。


 尻尾は微動だにしない。でも大丈夫。フェネは反対向いてるから私の接近には気付けない。私は隠密の天使。百合カプに気付かれずこっそり助けるのを何度してきたと思っている。


 よしよし、尻尾との距離およそ拳一個分。これならフェネが寝た時にいつか絶対動く。そしてその時こそが尊いの楽園への扉が開かれる。私こそが楽園の天使です。




 チュンチューン




 ……あ、れ。なんか小鳥が鳴いてるような。もしかしてもう朝……? 嘘、まだ尻尾モフモフしてないんだけど。ていうかまるで石化したみたいに全く動かなかった。まさか尻尾にも脳があって私の意識を察知していた……?


 まずいまずい。このままだとフェネが起きちゃう。こんなご褒美二度とないだろうし、ここしかチャンスはない。いっそ指で少しだけ触る……? だ、だめ。自ら触ればモフモフ不可侵条約を破ることになる。それは百合信仰に反する。


 するとフェネがガサゴソで動いてる。待って……! 尻尾モフってない……!


 フェネが起き上がろうとしたのと同時に無意識に飛び出した。そしたら、尻尾様が私の顎にクリーンヒット。


 なぁにこれぇ、ふわふわモフモフ~! 


 あまりの気持ちよさにノックバックして吹き飛んで床に転んだ。ドスーン


「……朝から騒がしい、ですわ」


「……んー。まだ寝たい……」


 はっ。2人の眠りを妨害している。フェネには無言で睨まれてる。お、怒ってる……?

 と、とにかく心の中で皆に謝罪します。ごめんなさい、ごめんなさい。






 全員が起きて宿屋をしゅっぱーつ。フェネの尻尾も触れたから最高の一日。やはり百合信仰すると救われる。これは断言できる。


「……うへへ……むふふ……」


 あの尻尾の感触を思い出すだけでニヤニヤが止まらない。これは一生の思い出になりそう。


「ヴィヴィさん、少しおかしくないです?」


「ヴィヴィはいつもおかしいから気にしなくていい。とりあえず今回の一件で分かったけど、着替えを買っておくべきだ。幸いラプスがいるからパンドラボックスに収納しておける」


「……激しく同感。まさかいきなりバスタオルで一夜を過ごさせられるとは思わなかった」


 なぜか私に視線が集まってます? 服を買いに行くのはもちろんオッケーなので親指立てます。皆ため息吐いてるけど眠れなかったのかな? 私も一睡してないから仲間だ~。


「ラプスさんはどんな服がいいですの?」


「……地味なやつがいい。目立つの嫌だし」


「せっかく良い見た目なのですからもっと飾ってもいいと思いますの」


 モノコとラプちゃんが前を歩いてるのでそーっとフェネのポンチョを引っ張ります。


「フェネ~、今朝はごめんなさいです」


 あっちに聞こえないように小声で。


「宣言通り触らなかったのは褒めてあげるよ」


 え……気付いてた!?


「本当なら見られるのも嫌だったし、あんなことなったら普通なら二度とその人と関わらない」


 やはり相当お怒りで……? 百合天使土下座準備用意……!


「まぁ今回は許す。ヴィヴィじゃなかったら燃やしてただろうけど」


 そっ、それはどういう意味ですか、フェネさん!? ドキドキ……!


「つ、つまり今後は自由に触ってもいいってことですか?」


「天使の翼ってよく燃えるのかな」


「はい、ごめんなさい。冗談です」


 やはり調子に乗ってはいけない。これは百合の教訓。

 なんとなくフェネを見たらいつもよりロングスカートがふっくらしてるように見えたのは気のせいでしょうか。

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