25.女4人、宿屋にて
ラプちゃんのバザーは大盛況で終わって、日も暗くなったので今日は街でお泊り決定。
宿屋もどこも満室だったけど、なんとか一室空いてるところを見つけて部屋にまでやってきた。
特に大きな物もなく大きなベッドが2つ。トイレとシャワーも完備してるらしい。有能。
「ベッドが2つか……」
フェネが考え込んでる。そう、これはつまり百合カプ……ではなく組を分けないとダメ。
「はーい。私ラプちゃんと一緒がいいです」
こういうのは早いもの勝ち……!
「……えぇ」
物凄く嫌そうな顔をされた。そ、そこまで露骨にしなくても……。
「ヴィヴィとラプスは別々にした方がいいかもね。どっちも翼と羽があるから」
「フェネ~。一緒に寝たいならそう言ってくれたらいいのに~」
わざわざ私とラプちゃんを離そうとするってそれしか考えられない。
「ならわたくしはラプスさんと一緒に寝ます」
「……異論なし」
「えっ、ちょっ」
よっしゃぁぁぁぁ! フェネの隣ゲットォォォォ!
今日こそモフモフしてみせる!
「い、いや。そもそも私はベッドじゃなくて床で寝るから……」
「フェネさん、そんな切ないことを言わなくていいですのよ。わたくし達同じ百合信仰の仲間じゃない」
「……フェーだけ除け者にしてるみたいで心苦しい」
さすがはてぇてぇ集団! 分かってます!
「他人事になったら人なんてこんなもんだよ」
すっごい虚ろな目になってます。お腹空いたのでしょうか。
「シャワーが完備してるのは嬉しいのですが、やはり服を洗えないのが辛いですの」
モノコがベッドに座って言った。そういえば私も地上に下りてから結構日が経つけど、臭う……? ずっと旅をしてたら身支度周りが雑になるのを痛感する。
「フェネは旅をして長いんですよね。普段はどうしてます?」
「定期的に新しい服を買ってる。洗ってる暇があるなら依頼でも受けた方がお金になるし」
つまりそのポンチョやロングスカートはフェネの趣味。ほう。
「やはりそうなりますわよね。わたくしも初めはそうしていたのですが、資金が尽きて買い替えができなくなりました」
モノコが辛そうに言ってる。服なんて毎日洗うのが普通だもんね。
「そうだ。ラプちゃんの魔法なら服も洗えるのでは?」
前に食器を洗っていたので、理屈上は服も洗えるはず。
「……水でボトボトになる」
「そこはフェネの炎で乾かせば問題なし」
私は魔法で色々具現化できるだけなのでそうしたことが一切できない。
「他人任せがすぎる」
「でもフェネだってその服お気に入りなんでしょう? 捨てるには勿体ないです」
「そんな話をした覚えはないんだけど」
百合センサーで察したので!
「……モノが辛いならやってみるけど」
さすがはラプちゃん、分かってます。
「まぁ、清潔感は大事か」
フェネの同意も得たところでレッツ洗濯。なんですが、誰も動かない。とりあえずモノコを見た。
「えっ、ここで脱ぎますの?」
「脱がないと洗濯できなくない?」
「そ、それはつまり裸になれと仰りますの……?」
まぁ下着も洗わないとだし、そうなるよね。
モノコは顔を真っ赤にしてる。
「そ、そんな恥ずかしい真似できません……!」
私達全員女なんだけどなぁ。フェネも温泉一緒に行こうって誘っても躊躇ったし、同性でも裸見せるの嫌な人が多いのかな。
ならば百合団長として先陣を切るしかない。バサッとケープを脱ぎ捨てます。
「じゃあ私からお願いします。羞恥なんて一瞬ですよ」
「とか言いつつ翼で隠してない?」
い、いや~。だって体の凹凸をジロジロ見られるのはやっぱりね~。
ラプちゃんがバスタオルを貸してくれたのでそれで身を隠します。
それで私のシスター服一式はラプちゃんの水玉に包まれて、フェネの火の玉で温められました。ある程度乾いたら後は干しておけば問題なし。
服の匂いを嗅いだらやはり結構溜まってたようでそれはもう清潔感マックスです。やはり洗濯大事。
「すごいです。クリーンになりました。これはもう洗うしか選択肢がありません。さぁ、洗濯の時間です」
「……わたしも? まだ少しだしいけると思うけど」
ラプちゃんが自分の服の匂いを嗅いでてかわいい。
「ラプちゃんさっき言いましたよね? 除け者にするのはダメだって。私もそう思います」
ラプちゃんの顔が青ざめた。フェネがダッシュして扉に走る。逃がさない! 結界展開!
ふふふ、これでもうあのドアノブに触れることすら敵わない。やはり魔法こそ正義。
というわけで、バスタオル姿で一室で溜まる乙女集団が完成しました。なんとも眼福……。
フェネはあの大きな白くて丸い尻尾を隠せていませんし、モノコも想像以上にふくよかな物をお持ちだし、ラプちゃんはすべすべな素肌が見えて、これはもう尊いと言わざるを得ない。
「……フェーって獣人だったんだ」
ラプちゃんが驚いてた。そういえばギルドカード見せてないからパッと見で分からなかったのかな。私は気付いたけどね!
「あまり見ないで欲しい」
切実に訴えてます。
「わたくし、獣人とは取引で結構関わりましたけど、耳や尻尾を隠してる方はいませんでした。むしろ堂々としている方が多い印象でしたわ」
つまり獣界に行けば、もふもふてぇてぇを拝み放題!?
「そういうことは聞かないで欲しい」
震える子犬みたいに言ってるので本当に見られたくないのかも。皆察して視線を外してます。
「それにしても皆さん魔法を扱えて羨ましい限りです。わたくしも魔法が扱えればもっとお役に立てたのでしょうけれど」
「モノコの家って魔法学も勉強してそうなイメージあったけど違うのです?」
「もちろん、あらゆる勉学は一通り学んでおります。けれどわたくしには魔力がほとんどないので才能がなかったのです」
それは辛い。魔法なんて誰でも使えるものだとばかり思ってた。
「魔法には適正属性も存在するし、それに人間という種族は魔力が少ないのもあるから仕方ない」
これはフェネさんの解説講座です。
「獣人、天使、魔人は魔力がある分、それだけ思想も強くて対立も激しかった。けど、そうした対立を収めて和平交渉に持ち込んだのが人間だ。彼らは魔力が少ない分そうした外交手腕によって敵意を見せないことで生き残ってきた。実際、人間のおかげで今では四界連盟まで発足して大きな抗争もなくなっている」
「……勉強になる」
フェネ先生ですからね~。
「他種族への偏見も少ないから自国で居場所がなくなった人にとっても人界はありがたい場所だよ」
言われてみれば天界にも、それに魔界にも他の種族はいない。獣界は行ったことないけど、ここも似た感じなのかな。でも、フェネの今の言い方はちょっと引っかかるような……。
「けれどお父様はいつも口をこぼしていました。他の種族をまとめるのは一筋縄ではいかない、と」
「だろうね。特にトップなんて思想の塊みたいなものだ。そう易々と頷いてくれないだろう」
それについては分かる。天界のお偉いさんなんて「百合禁止ー」とか言い出す無能集団だもん。
「……生きるって大変なんだね」
「そうでもないよ。ここに自国のトップに喧嘩売っておきながら、今はタオル一枚で呑気に過ごしてるくらいだし」
それは誰のことかな~?
「そっ、それと話が変わりますけど、寝る時にフェネの尻尾触っても……」
「触ったら殺す」
殺意が高すぎて何も言い返せなかった……。




