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23.普通の旅

 夜が明けて、朝日が森の中に差し込んできます。テントからラプちゃんとモノコが起きてくる様子はなさそう。ラプちゃんが一緒に寝てもいいと言ってくれたのに、結局翼が邪魔と追い出されて泣きそう。またしても乙女の寝顔を拝めず。


 とりあえず朝の祈り。今日も乙女に尊いの加護があらんことを……。

 あと、できたら百合を拝みたい……。あとハグしてたら最高……。うへへ……。


 さて、祈り終わったので羽ばたいて大樹の上まで飛んだ。太い枝に白くてかわいい獣人様が座っておられます。


「おはようございます。見張り番お疲れ様です」


「……ん」


 素気なーい。近くに行って隣に座ろうとしたら露骨に離れられた。まだまだフェネには尊いの理解が遠いみたいです。


「こうして2人でお話するのは久しぶりですね」


「……天使って短命だったりする?」


「普通に長生きですよ?」


「私の記憶では2人で旅してからまだ2日くらいしか経ってない」


 もう2日も経っていたんですね~。地上に来てから時間の流れが早い~。


「フェネにはいつも助けられています。ありがとうございます」


「そう思うなら少しは自重して欲しいけどね」


 そこは百合信仰との板挟みなので無理!


「ずっと同行してくれて助かっていますけど、フェネは私と来て本当にいいんです?」


「よくなかったら来ないって前に言ったはず」


 それは覚えてる。でもそうやって毎回肝心なところをはぐらかされてる気がする。最初はなんとも思わなかったけどギルドランクAにする難易度や法令の知識。これって普通の冒険者が得るにはあまりに膨大にも思える。何か大きな目的がないとここまでしないような。


「やりたいことがあるなら言ってください。ここは百合信仰旅団なので誰かが我慢する必要はありません」


「やりたいこと、ね。そんなのとうの昔に諦めた」


「フェネ?」


「結局私は力や知に逃げてるだけだ。逆らう勇気もない。でも、そんな現実を破壊してくれる人がいるなら……」


 そこまで言ってフェネは口を閉ざして立ち上がった。


「2人が起きたみたいだ。お喋りはお終い」


 いいところだったのにフェネは飛び降りてしまった~。結局一番聞きたい部分は教えてくれないみたい。でも、やっぱりフェネにも何かあるっていうのは分かった。そのために私に付いてきてくれてる……って考えはさすがにポジティブすぎる?






 森を抜けて街だー! レンガの建物に馬車が走るのんびりとしたところ。魔界の超発展したとこもいいけど、やっぱりこういう素朴な感じもいいよね。


 小さな街のせいか、番人はいない。そもそも壁にも囲まれてないし無防備な感じもするけど、安全なところ、なのかなぁ。


 ともあれ、街に来たらすることは決まってる。風に身を委ねて、耳を澄ませて、心に尊いを預ける。すると、ほら、沢山のてぇてぇが聞こえる。跪いて祈りましょう。


「……ヴィは何をしてるの?」


「あらゆる宗教は通例となる儀式が必要なんだ。彼女はそれを重んじている」


「……百合信仰って実在するんだね」


「おそらく入信者は片手にも満たないだろうけど」


 後ろでラプちゃんとフェネが百合について語ってます!?


 ピコン!


 これは乙女が助けを求めているサイン! 行かなくては!


 シュバッ!


 すると先の広場には大勢の人が行き交っています。そんな中に、あれは……。


「ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」


 でかい声の野郎の声が聞こえた。その先には純真そうな少女が一人。


「えっと……」


 少女は周りをチラチラ見ながら戸惑っている。なるほど、そういうことか。

 すぐに近づいた。


「2人にいい場所をご案内しましょう」


 間に割り込む。百合の間には絶対入らないけどね。


「誰だ!?」


「黙って付いて来い」


 チャカ見せたら何度も頷いてる。それで人気のない路地裏まで連れてきた。周りには誰もいない。


「はい、どうぞ」


 少女の背中を押します。


「あの。ずっと前から迷惑でした。二度と関わらないでください」


 野郎は凍り付いたみたいに立ち呆けてる。だと思った。


「だ、そうだ。さっさと消えたら?」


 そしたら男は情けなく走り去っていった。ご愁傷様~。


「天使さん、ありがとうございます」


「いえいえ。ああいう大衆の前で告白するのは相手に断らせない心理目的があるので正解です」


 結局自分のことしか考えてない奴なんててぇてぇの欠片もない。


「あなたに百合の導きがあらんことを」


「ゆ、ゆり?」


 えっ、知らない? むむ、こんなことなら教典を用意しておくべきだった。少女はお辞儀をして去っていく。どうか乙女と幸せになって。


 すると後ろからパチパチと拍手が聞こえる。


「すばらしいです、ヴィヴィさん。わたくし、今までにないくらい感激しています。やはり貴方という方はこの世界に必要な人間です。ああ、どうして貴方がこのような末端な地位なのか甚だ疑問しかありません」


 モノコは両手を握ってきた~。顔も近い近い。


「わたくし、もっと早く貴方に出会えていたらと思って仕方ありません」


 そっ、そこまで!? すっごく嬉しいけど、そんなに褒められると照れる~。


「この世界には百合信仰が必要だと痛感致しました。わたくし、ヴィヴィさんに絶対ついていきます」


 告白現場を止めたのがそんなに響いたのかな。でもこれは百合信者として大変嬉しい。


「モノコもようやくてぇてぇを理解してくれたのですね。私も感動です」


「はい、てぇてぇです。てぇてぇですわ」


「てぇてぇしか勝ちませんよね」


 気付けば両手を合わせていました。こんなに意気投合できたのは天界でもなかった……!

 やっぱり百合信仰間違ってないんだ……!


「……フェー、いつもこんなヤバいことしてるの?」


「ラプス。君はこれからそのヤバいが普通に感じるようになっていくんだ」


「……私はもっと普通の旅を想像していたんだけど」


「安心するといい。これは至極普通の旅だ」


「……嘘だと言って欲しい」


 後ろから冷めた声が聞こえます。どうやらてぇてぇ布教がまだ足りていない様子。ならば分かってくれるまで布教あるのみ!

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