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21.日頃の行い

 長い長い街道。代わり映えしない景色。女の子ともすれ違わず、いるのは野良の魔物ばかり。まぁどいつも近付いてくる様子はないけど。


「ここで大事なお知らせがあります」


 結構真面目な声で言ったのに誰一人振り返ってくれない。うん、これは由々しき問題。


「百合信仰旅団に仲間が増えていくのは大変喜ばしいです。しかしここで私は宣言しておきます。この旅団のリーダーは私です」


 こんなに必死に訴えてるのに誰も足を止めないー! そういうとこー!

 羽ばたいて先頭に立った。


「お願いですから話を聞いて!」


「いや、聞いてるけど」


 フェネの言葉に相槌打つみたいにモノコとラプちゃんも頷いてる。


「この際だから言います。最近私の扱いが雑すぎます。ちゃんとリーダーとして扱ってください」


 このままだと百合信仰旅団は淫らな集まりとなって、それはもう大量の百合カプを生み出す集まりになってしまう。……待てよ、それもいいかもしれない。むしろ大量のてぇてぇを間近で拝めるのならあり……。でもでも、百合とは強制されるものじゃないし、自分で選ぶのが尊いというかぁ。いやーでも百合は多ければ多いほどいいし。


「ニヤニヤしてまたいつもの妄想?」


 フェネに言われてハッとする。意識が百合の楽園に飛んでいた。


「……で?」


 そこには容赦ない無垢なる眼差しがあった。


「ラプ、ちゃん?」


「……リーダーになってまで何が欲しいの?」


 無論百合! 


「ラプスさん。組織というのは常に責任が求められますの。不祥事や問題が起きた時、誰かが責任を負わなくてはなりません。ヴィヴィさんはそれを率先して負うと言っているんです。なんて尊いのかしら」


 モノコー、尊いの意味まちがってまーす。私が責任取るのは百合だけです。


「……そう。ヴィって真面目なんだね」


 うっ。そんな純粋な目で見られると撤回できない……。


「そ、そうですよ……? もっと敬ってくれていいんですよ……?」


 言い訳も思いつかないし、もうどうにでもなれー。


「前に百合信仰旅団はゆるゆるのテテを目指してるとか言ってなかったっけ?」


 さすがフェネ……! ここで助け舟を出してくれるのはやはり頼れる参謀です。


「そうでした~。ゆるゆるのてぇてぇの雰囲気作りが大事なのです。なのでそこ勘違いしないでください」


 これで完璧……!


 ……あれ、私なんの話してたんだっけ?


「……わたしが思うにフェーの方がリーダー向いてると思う」


 ぐはー。ラプちゃーん、それは殺生です~。


「私は上に立つ資質じゃない。トップに必要なのは圧倒的カリスマ」


「あら。だったらわたくしが立候補しましょうか?」


 うぅ。確かにモノコは毅然としてるのでリーダー向きかもです。もしかして私が一番リーダー適正低い?


「ヴィヴィ、いつまで落ち込んでるの。誰もヴィヴィがリーダーなのを否定していない。そもそもここにいる全員はヴィヴィに付いてきてるんだから、不満があるはずないでしょ」


 ふぇ、フェネー!? あなたはいつからそんなに尊い子に育っていたのですか。感極まって泣きそう。飛び込みハグしてモフろうとしたら、露骨に避けられた。悲しい。


「さすがはフェネです。長年の相棒は違います」


「数日を年換算にするとは恐れ入った」


 私の心の尊いの年月が時間という概念を破壊したのです。


「そういえばフェネさんはどうしてヴィヴィさんに付いているのです?」


「……わたしも、気になる」


「わたくしはヴィヴィさんにご指導してもらうため、ラプスさんは店がああなったので止む無しですが、貴方もそう言った理由が?」


 それに関しては私も分かっていない。なんとなく百合布教して手を引っ張ったけど、あの時私の手を取った本当の理由がなんだったのか。フェネはというと明後日の方を見て黄昏てるだけ。


「フェネは私が雇った秘書なのです。地上のことを教えてもらってサポートしてもらってる感じです」


 咄嗟に思い付いたフォロー。我ながら完璧。フェネがこっちを見たので軽くウィンク。何となく触れられたくない気がしたので! さっきのお礼です!


「……それなら、納得、かな?」


「確かにいつもヴィヴィさんの面倒を見ている気がしますの」


 咄嗟に出た嘘だったけど本当にそんな目で見られてた!? なんて複雑な心境……。


「リーダーはヴィヴィしかいないよ。話は終わりだ。行こう」


 フェネが先先と歩いて行ってしまいます。少し見えた横顔が笑っていたように見えたのは気のせいかな。あっ、耳が少し動いてる! 尊っ!





 道のりを歩いた先に分かれ道。どっちも同じ道にしか見えない。標識もないし、これは困る。


「ヴィヴィ、どっちへ行くの?」


「街のある方です」


「漠然すぎる」


「えっと、じゃあ百合のある方で」


「いつも思うけどわざとじゃないよね?」


 フェネー。まるで私がボケてるだけの天使みたいに言わないでください。これでも真剣に考えてるんです。主に百合など!


「……わたし、魔界に帰っていい?」


 ええ!? まだ旅して一日も経ってないのに!


「ラプスさん。人生とは枝分かれの連続ですの。時には望まぬ道を選ばざるを得ない時があります」


「……えっ、もしかして、わたしがおかしいの?」


「ラプス。君は何も間違っていない。ただこの世界には常識という概念が全く通用しない人がいるんだ」


「……やっぱり帰っていい?」


 ラプちゃんが回れ右しようとしたので腕を掴みました。


「ラプちゃん。常識なんてものに囚われていけません。それに囚われた結果があの天使たちです。あなたは尊いを知り、その壁を壊すべきです」


「まぁ、ヴィヴィさん。なんて良い事を言うのかしら。あの者にも聞かせてやりたいです」


 さすがモノコ。尊いにもっとも近い人です。うれしい!


「……話に全くついていけない」


「私は今、心底ホッとしているよ。これ以上おかしな人が増えたら理性を失った獣になっている」


「フェーがいなかったら絶対帰ってた」


 なにやら意気投合してます? ほほう、てぇてぇですね? オーケーです。百合団長として認めましょう。

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