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20.百合信仰旅団

 ラプちゃんが仲間になって、早速出発……というわけにはいかず、店仕舞いのための片づけや整理中。倒れた棚とかは魔法で元に戻せるけど、壊れた物はどうにもならない。ラプちゃんはそうした物を拾い上げては……んん? なんか変な空間に投げ込んでる? 青くて四角いコンテナみたいな所に物を入れたら……消えた!?


「な、ななんですかこれは!?」


 物が消える魔法なんて何かの手品!?


「驚いた。これはパンドラボックスだね。なんでも収納できる魔道具だ」


 さすがフェネ。何でも知ってる。


「こんな便利な物があるなんて私も欲しいです!」


 魔力なら百合パワーで無限にあるし、これがあったら何でも保管できて超便利!


「そうもいかない。パンドラボックスの使用は厳しく制限されている。その資格を得るのは難しい」


「ただ物を入れるだけなのに?」


「皆がヴィヴィみたいに馬鹿だったらいいんだけど、中には密輸や死体隠蔽に使う輩がいるんだ。それで一時期大問題になって大きく規制されている」


 わざわざ馬鹿なんて言わなくてもいいじゃないですか~。フェネは構って欲しいのかな~?


「ノワール商会の中にもパンドラボックスを使える人が多くいましたが、例の法改正でその殆どが資格を失ったのを知っています」


「だろうね。資格取得にはギルドランクがB、そして商い経験が5年必要となる」


「それってどれくらい厳しいんです?」


 説明は嬉しいけどそもそもギルドランク云々もよく分かっていませーん。


「ギルドランクは依頼を受けていれば少しずつ上がっていくよ。依頼達成時に報酬とは別にポイントが付与されてそれが一定に達するとランクがあがる」


「なるほど。つまり依頼を沢山受ければいいと」


「なんて考えの人がいるから当然制限がある。このポイントは毎月で上限値が定められているから短期的に一気に稼げない」


 まるで私が浅はかみたいに言うのやめてー。


「継続的な貢献が必要。それがギルド協会の考えです」


「ギルドランクBにするには最低5年以上はかかる。おまけに依頼をこなすのと並行して商いするのはほぼ不可能。だからパンドラボックスの資格には最低でも10年以上は必要。私も欲しかったけど流石に5年商売して時間を棒にしてまで使いたいとは思わなかった」


 ほうほう、なるほど~。つまりラプちゃんは尊く真面目だと。


 でもこの説明を聞いたら、フェネのランクAっていうのも相当難しそうに思える。ハイスペックなのは知ってたけど、これはとんでもない努力家……。

 おまけにモノコは権力者の娘だし。あれ、百合信仰旅団は有能の集まりなのでは?

 やはりてぇてぇを信仰する者は報われる。


 こんな会話をしててもラプちゃんは黙々と物を詰め込んでるだけ。それで店の中の物がほぼなくなった。とんでもない収納量。これは百合の花を密輸したくなるのも分かる。


 ラプちゃんは瑠璃色のブローチを掌に置いて、そしたらパンドラボックスが消えた。わー、本当に完全収納されるんだ。ブローチを服に留めて、お洒落機能も完備とは。これを開発した人は百合信者だったに違いない。ラプちゃんは黒い帽子を被って店を出た。


 真っ暗なお店にシャッターを下ろして閉店……。うーん、でもやっぱりこのお店は他と味が違いますね。


「ラプちゃん、あなたのてぇてぇはこれから始まります」


 何となく手を差し出してみます。ずっとお店を見ていましたが振り返ってくれた。少しだけ笑ってる……? いや、本当に極々わずかに口角があがった、気がする。きっとそう。


「……行こう」


 帽子を深く被って照れ隠しかな~。やはり尊い。


 というわけで今度こそ百合信仰旅団出発。





 魔界都市を出るゲート前。色々考えたけど、やっぱり魔界のてぇてぇ布教はもう少し先にした方がいいと思う。これは少し早かった。反省。


 今度はちゃんとお支払いを済ませてゲートを潜る。銀貨1枚。うん、無駄に金貨50枚も取られたのが悲しくなってきた。


 全員が出たけど、ラプちゃんだけがゲートの前で立ち止まっています。ここを出たら魔界から出る。まだ気持ちに整理についていないのかな。


 だったら、その手を引っ張って連れ出します。


「ほら、何も怖くないでしょう?」


「……自分の足で越えたかった」


 えっ、嘘!? そんな情緒があって?


「じゃ、じゃあ戻ってやり直します? あっ、支払いは私がするので」


「……今更戻る気なんてないよ」


 ああ。なんかさっきよりも冷たいような……次からはちゃんと機嫌を取らないと。





 魔界の街道とお別れして、人界へと戻って来ました。やはり緑豊かなこの風景が落ち着きます。軽く深呼吸してお日様パワーならぬ百合パワー補充。なぜなら私が擦ってる空気と乙女が擦ってる空気が共有されてるのです。これを尊いと呼ばずにして何と言うのか。


「あれ。モノコは?」


 フェネとラプちゃんはいるのに、視界に見当たらない。後ろを見たら剣を杖変わりにしてよぼよぼ歩いてる乙女が1人……。倒れたー! 救護班ー!


「ヴィヴィの例の魔法で軽くしてあげたら?」


「それではモノコの夢を叶えてあげられません。百合信者として全て手助けするのは違うと思うのです」


「珍しくまともだ。魔界の空気はそんなに不味かったのか」


「フェネなら鍛えてあげられるのでは? 壁走ったりできるじゃないですか」


 頑張れば誰でもできるって言ったのを忘れてません。


「獣人と人間だと基盤が違う。ヴィヴィは私に空を飛べって言える?」


「フェネ、空を飛びたかったんですか。そう言ってくれたら乗せるのに~」


「人界の空気も毒か」


 えっ、ここの空気って毒なの。さっき思いっきり吸ったのに。色々話してる間にラプちゃんがモノコの傍に行ってます。それでパンドラボックスから、湯呑みを取り出して、あとあれはやかん? あ、お水だ。


「ありがとうございます、ラプスさん。助かりました」


「……補給は大事」


 なにあれ、てぇてぇですか? てぇてぇですね? これは祈りを捧げる。今日も神に感謝します。乙女は幸せです。


 待って。冷静に考えたらこれって疲れたらラプちゃんが奉仕してくれるのでは?


 つまり……。


「ぐはー。私ももう動けませーん。魔力切れー」


 道端に派手に転んでみる。チラッ。


 おぉ、ラプちゃんが来た。私にも水をください。正確には尊いですが!


「……いつもこんな茶番してるの?」


 グサー!


「これでも本人は至って大真面目なんだ。こういう生物だと割り切っておくと今後の旅も少しは楽になる」


「……ふーん?」


 ちょっとフェネー。そこはもう少し加減して尊い教えてあげて。そもそも私は百合信仰旅団のリーダーなのにあまりに酷い仕打ちです。


「わたくしはふざけてなどいません!」


「私だってふざけてないです。百合信仰を前にしてどうしてふざけられるのでしょうか」


 そこを勘違いされたままだと本当に大変なので早いうちから訂正しておかないと!


「そのうち慣れる。郷に入って郷に従えだ」


「……えー。慣れたくないなぁ」


 な、なんかラプちゃんが思ったイメージとかけ離れていく……。ていうか私だけ露骨に避けられてるような……。


 また祈りの時間が増えそう……。




余談ですが今回登場したチート魔道具のパンドラボックスについて。フェネが色々説明しましたが他にも面倒な決まり事がいくつかあります。ギルドランク関係についても細かい取り決めがありますが、本編において重要な設定でもないので割愛します。規制が厳しいんだなくらいの認識で構いません。現実にあったらいくらでも悪用できそうと思って考えていただけなので。


さてさて、これで旅の主要キャラが全員揃いました。推せる子が一人でもいたら嬉しいです。ここからさらにカオスになっていくのでお楽しみください。

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