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18.魔人と廃棄物

「はぁ。なんでわたくしがこんな……」


「冒険者なんて汚れ仕事させられるのが世の常」


「わたくしは理想と現実の差に悲しいです」


 後ろからフェネとモノコの話し声が聞こえる。モノコは今回の依頼が本当に嫌そうにしてた。というのも、フェネが引き受けたのは魔界都市にあるごみ処理の手伝い。つまり文字通りの汚れ仕事。正直私も嫌。でもフェネ曰く、誰もやりたがらないから報酬がそれなりにいいみたい。


 それで到着したのは……うわー、なにここー。ゴミの山って言うけど、本当にそう。捨てられたガラクタがそれはもうお山を作れそうなほどに積まれてる。


「ここがダストエリアらしい。都市の人が使わなくなった物を投棄している。今回はこのゴミを焼却エリアに運んで処分するのが仕事」


「この量を!?」


 モノコが悲鳴みたいな絶叫あげてる。なるほどー、確かにこれは誰も受けたがらないねー。


 とりあえずゴミの山に近付いた。でも遠くからだと何とも思わなかったけど、近くで見たらこれって本当にゴミ……? なんとなく拾ってみるけど、この懐中時計なんてまだ動いてるし、この服なんて新品同然だし、どれもがゴミというにはいささか疑問に思う物ばかり。


「フェネ。本当にここであってるです?」


 フリーマーケットでも開いたら一儲けできそう。


「あってる。魔界の変化は本当に激しいんだ。少し前までの人気が今日の古いになっている。だからこそ、魔人は常に新しい物を造り続ける。それは経済を発展させる反面、こうして多くのゴミも同時に生んでる」


 そういえばあの蝙蝠の子の店に来てた野郎が、あの子の店の物が古臭いって言ってた。それだけ流行り廃りが早いのかな……。


「本当もったいないですの。まだ使えるのに売れないから、価値がないから捨てるなんて」


「合理的ではあるよ。進化とは競争の中で生まれる。彼らは過酷な競争社会で生きてるから都市もここまで発展している」


 うーん。私には分からない世界だなぁ。てぇてぇが欲しいなぁ。


 と思ったらゴミの山に誰かが上ってる? 背が小さくて、黒いワンピースで紺色のツーサイドで蝙蝠の羽……あれ、見覚えあるような?


「あの時の店員さん?」


 声をかけたけど無視される。悲しい。


「おや。あなた方が今回の依頼主ですか?」


 後ろから声をかけられた。そこには、うげ、野郎か。2本角の魔人。虹色のスーツがダサすぎって思ったけど、それが魔界都市のトレンド? 一周回って迷走してない?


 フェネは律儀にギルドカード見せて確認させてる。偉いなぁ。私だったら一秒でも関わりたくない。


「おまえ……また来ていたのか。何度言えば分かる。ここは無関係の者が来ていい場所ではない。即刻立ち去れ」


 虹魔人の野郎が厳しく言ってる。蝙蝠の女の子はゴミの山を下りてた。相変わらず無表情で何を考えてるか分からない。分からないけど、私の百合センサーが言ってる。このままにしてはいけないと。


「あー。実はその子も今回の依頼主でーす」


「なに?」


 虹魔人もだけど、なにより蝙蝠の子が驚いてる。


「本当か?」


 そしたらギルドカード見せてた。


「む……いいだろう。くれぐれも余計な真似はするな」


 虹魔人はそう言ってどこかへ行った。はいはい、邪魔だから早く消えろ。しっし。


「ヴィヴィ……」


 フェネが何か言いたそうにこっち見てきます。これはあれだ、珍しく機転が利いたねってやつですね。はい。


 蝙蝠の子はもう動いてゴミの山にまた上って漁ってます。うーん、幼女が健気に頑張ってる姿はいいです。尊い。


「ヴィヴィさん、どうしてあのような嘘を?」


「尊いの声に従ったのです」


「えっ?」


「いつもの病気でしょ」


 だったらフェネのそれも病気ですー。


 翼で飛んで蝙蝠の子の近くに行ってみる。相変わらず長い髪~。でも屈んでるせいで物に触れてます。これは信者として髪をそうっと上げて……。


「不審者がいる」


「えっ、どこにです?」


 こんな乙女の聖域にいるとはけしからん。フェネがため息。またいつものです。

 蝙蝠の子は私が髪を触っても気にせず漁ってます。それで小物やらを抱えてる。


「店の商品はここで集めていたんです?」


 他愛なく聞いてみる。返事なし。泣きたい。


「リサイクル、かしら。不愛想に見えて案外いい思想をお持ちじゃない」


 モノコが人を褒めた!?


「……まだ、価値がある。直せば、使える」


 そして私には無反応なのにそっちには反応。号泣したい。


「古い物を新品に、か。そういう店は知ってるけど、魔界に至っては反響が薄いだろうね」


「……それでも、捨てたら無価値になる」


 あれ? 私だけ無視されてます? これ本気で泣いていいです?


「このゴブリンのおもちゃなんてどうです! 可愛いです!?」


 ちらっと見てすぐに視線外された……。私だって幼女とお喋りしたいのに……。


「ヴィヴィ、ほら仕事。ヴィヴィだったらすぐでしょ」


「うぅ。私はゴミの天使なんです。私こそがゴミです」


 このままゴミの山と同化しようかな。


 すると肩をポンと叩かれた。


「……ゴミじゃない、よ」


 声をかけてくれた。私のモチベーションは今フルパワーになりました。

 こんなゴミの山一撃です。軽量化魔法でぜーんぶフワフワにすれば問題なし。

 まさに浮かぶガラクタ。


「相変わらずとんでもないですの……」


「これは例外だから自分の基準にしない方が身のためだよ。私はそうしてる」


 後ろからなにやら声が? ともかくこれを焼却エリアに処分すれば依頼完了。なんて簡単なお仕事。






 というわけでごみ処理場へとやってきて、目の前に巨大な大穴がある。きっとここが焼却炉なのかな。すると工場内にさっきの虹魔人がやってきた。


「この穴に捨てたらいいですかー」


 我ながらの棒読み。


「お……おぉ。お願いします」


 何をビビってるんだろう。ともかくガラクタの山をぽーいと投げ込んだ。すごい轟音が鳴り響いててうるさい。まぁこれで終わりかな。


「これで終わりですね」


 フェネが確認してくれる。助かる。私は話したくないから。


「いいや。まだある」


 虹魔人が歩く。その先は蝙蝠の子……。なにを? するとこいつはその子が集めた物を全部奪い取って穴の中に捨てた。


「価値なきゴミは全て処分すべきだ」


 こいつは何を言ってるんだろう? 蝙蝠の子は何が起こったか分からずポカンとしてる。でもその瞳がどこか潤んでるように見えて。


 咄嗟に羽ばたいて大穴に飛び込んだ。


 後ろからフェネとモノコが叫んでたけど気にしない。


 焼却炉の中はメラメラと燃え上がって次々と燃やし尽くしてる。けど私は百合守護者。この程度の熱さ平気なのです。というのは嘘で、防護魔法で耐える。


 それよりあの子の物は……。


 あった。これと、これと、あと……。やば、転がっていってる。自身に軽量化! シュバっと回収してそのまま飛翔。業火から無事脱出。翼が少し焦げたけど、多分大丈夫。多分。


「ヴィヴィ!」


 フェネが心配そうにかけつけてくれる。色々言ってくるけどフェネのそういうところが尊いのです。


 蝙蝠の子にさっきの物を返します。


「これで全部ですね?」


「……う、うん」


 戸惑ってる様子がかわ……じゃなくて尊い。はい、尊いです。


 ともあれ虹魔人の方だ。ショットガン武装完了。


「で、何がゴミだって? おまえの脳みその方がゴミなんじゃないの? スクラップして直すか?」


「ひっ……」


「人の所有物を勝手に捨てるのは違法ですわ。でも、わたくし達はことを荒立てる気はないですの。すこーし報酬を上乗せしてくれるだけで目を瞑ってあげます」


「そ、そんなの聞いていない!」


「ヴィヴィさん、やってお終い」


「了解です」


 ショットガンを向けたら虹魔人は両手をあげた。


「わ、わかった! 報酬を1割増やす!」


「それがあなたの誠意ですの? スクラップにされて燃える方がマシ?」


「2……いや、3割でどうだ!?」


「ふふ、あなたにも誠意があると信じていました」


 モノコがにっこり笑う。思わずハイタッチ。


「私、もう帰りたい……」


 フェネから沈んだ声が……。確かにこんな所からは帰りたいです。さっさと撤収しましょう。


「……だったら、家、来る?」


 まさかの蝙蝠ちゃんからのお誘い!? これは断る方が失礼。絶対そう。


「では伺いましょう。今すぐに」


「その前にギルド協会が先」


「いいえ。家に行くのが先です」


「最近自分の倫理観がおかしいのか分からなくなってる」


 つまりオーケーですね? フェネは話せば分かる子。やったー。

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