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17.やる気のない店主

 色々問題があったけど、何とか魔界都市に入るのに成功。無数のイルミネーション、カラフルに輝く看板、立体映像のホログラム、完璧に舗装された道路、高層の建物。


 街を角や羽のある人が歩いていたり、何なら空を飛んでる。空中に何か半透明の足場があってそこに立ってる人も。なにここ……異世界?


「相変わらず異常な発展速度ですの」


「根本的に頭の構造が違うんだろう。もはや驚くに値しない」


 私が原始人になったのかと思ったけど、2人も似た感想でよかった~。


 街を歩いていると、それはもう多くの魔人魔人魔人……うん。なんか浮いてるような?

 人間、天使、獣人って私達だけ? そのせいか変な目で見られてる時がある。


 あっ……! あの巻角のお姉さんかわいい~。


「本当に魔人しかいませんわ」


「常人にはこの発展速度についていけない。昨日の人気が今日の売れ残り。こんなところで商売するのは自殺行為だろう」


「昔、魔界にノワールのブランドを出張展開したことがありましたけど、一月と経たずに閉店になりました」


「彼らには愛着が薄い。だからブランドという概念もないだろうね。求めるのは常に新しい変化、いや混沌と呼ぶべきか」


 そういえば人界には獣人や天使がいたけど、魔人はいなかったなぁ。フェネのいう変わらない日常というのが嫌いだから? まぁでも、天界も空の上だから他の種族は不可侵だし人界が特別な気もするけど。


「こんなところにヴィヴィのテテとやらがあるとは思えないけどね」


「フェネそれは違います。愛着がないから愛がないなんて誰が決めるでもありません。むしろ叶わぬ愛だからこそ、百合は熱くなり燃え上がるのです」


「私は人語しか学んでないんだけど」


 むー。これはフェネみたいな人にこそ刺さると思ったのにー。尊語を勉強してもらうしかない。


 ぶらぶらと街を歩いてるけど、モノコやフェネが言ったみたいにすごく賑わってる店もあれば、客一人も入ってない店や閉店してるところもある。恐ろしい競争……。私がここで生活したら一生百合の花食べてそう。


 店を見ていると1つだけ真っ暗で飾り気のない、如何にもおんぼろって言ったら悪いけど、陰気臭い店がある。他の店はイルミネーションやハイライトで派手に飾ってるのにそこは光1つもなくて、暖簾やのぼり旗を立ててる。店は開放的で外から見えるけど、なんか古風な棚が並んでる。


「おいおい。まだここ潰れてなかったのかよ」

「先月の売り上げ銅貨1枚じゃね?」

「そんなにあるはずないだろ」

「言えてる。てかこんなガラクタ誰が買うんだっつーの」

「だよな。今のトレンドは魔法ペンだろ。ぎゃはは」


 なーんかチャラい野郎共が好き勝手言ってる。なんとなく店の奥を見るけど、カウンターには……おぉ、女の子だ! 紺色の長い髪をツーサイドアップにしてて、黒いワンピースがとってもキュート。ちっちゃい! しかも背中に生えてるのは……蝙蝠の羽? すっごいやる気なさそうな目でカウンターで頬杖ついてる。騒いでる野郎共にすら気にしてなさそう。


「こんなの金貰ってもいらねーわ!」

「だよなー」


 野郎共が店の雑貨を地面に叩きつけて、そのまま去ろうとした。なるほど、そうか。

 地面に叩きつけられた小物入れを拾って、野郎の肩を掴んだ。


「代金の支払いがまだなんだが?」


「は? ひっ……!」


 振り返ったから銃口突きつけた。


「買うか、臓器を売るか、選べ」


「な、なな。治安ギルド、よ、呼ぶぞ」


 反抗するとは度胸は認めてあげる。でも私は容赦なんて知らないけど?


 すると後ろから腕を掴まれた。フェネだった。


「別に呼んでいいよ。器物損壊で訴えられるのはそっちだ」


「先程の会話、録音しました。今なら支払えば大事にしなくてよ?」


 モノコがギルドカードを見せてます。そんな機能まであるんだ。すごい。


 すると野郎共は財布から金貨を投げ出して逃げて行った。本当の小物はそっちだったね。


 ともかく店に入って野郎からのお金をカウンターに置いた。女の子は相変わらず眠そうな顔して瞬きしてるだけ。


「さっきの人が商品を買ったのでそのお金です」


「……あー、うん。どうも」


 小さくて可愛い声~。癒される~。これは尊い……!


「どうもって、それだけ? 貴方、店の物を好きにされたのよ?」


「……売れないし価値ないし、別に、気にしてない」


 頬杖ついたままで、すごく無気力って感じがする。


「気にすべきです。それとも貴方は店の商品を全て壊されてもそこでボーっとしてますの?」


「モノコ、落ち着いて~」


 もしかして商会の人だから気になるのかもしれないけど、せめて言葉を~。


「ヴィヴィの言う通りだ。これ以上は私達に関係ない」


 フェネ、そこを断言すると少し寂しいです。


「わたくしだったら店の商品を好きにされて黙ってられません。貴方は物売りとして基本を知りませんの?」


「……うるさい。おまえ、嫌い。通報するよ?」


「わたくしに対してできるのに、あいつらにはしない。おかしな商人ですこと」


 わー、女の子が無言で立体映像出してるー。これ通報されるやつだー。


「わ、私達はもう行きます。あなたに百合の加護があらんことを! では!」


 とにかく無理矢理引っ張って店を後にした。


 それから例のサイレンはしないから通報はされてない、のかな? ほっ。


「モノコ、あれはてぇてぇとして危ないのです。デッドラインです。あのままだったら皆仲良く牢屋行きだったのです」


「都市に来て早々治安ギルドのお世話になった人が言うと説得力ある」


 フェネ、今その話はなしで!


「……どうしても納得できなかったんです」


「ま、まぁモノコはそっち関係の人だから分からなくもないですけど……」


「いいえ。わたくしが気に障ったのは、あれだけ言われても何一つ反論しなかったことです。ただ、流されるがままに見えて、それがどこか……」


 モノコが語気が弱くなっていく? もしかしてあの子が自分に見えた?


「失礼いたしました。もう失言は致しません」


「モノコ様まで問題を起こされたら敵わない。お願いするよ」


 ま、まるで私が問題児みたいに……いえ、金貨50枚失ったので何も言い返せない……。


「さてと。誰かさんのせいでお金がないからギルド協会へ行こうか」


「うぅ……はいぃ……」


 あの店から離れて行くたびに、どこか胸の奥が刺さるような……。モノコはああ言ったけど、本当にあの子はそうだったのかな。私にはとても寂しそうに見えた。あれは、乙女の顔だった。でもあの様子だったら事情なんて聞けないし……。


 とにかく今は百合救済……ではなく今日のご飯のために働く!

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