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16.魔界都市

 魔界……そこは混沌渦巻き、枯れた木々が生い茂り、血で汚れた不浄の地……なんて想像してたんだけど、なにこれ。道は凹凸がないくらい完璧に舗装されてて、しかもカラフルに輝く仕様。時々空中に立体ホログラムみたいなのが浮かんで行先を丁寧に教えてくれる。


 道も並木道りみたいになっていて、おっきな木がいくつもある。木と木の間にはフラッグガーランドがいくつも繋がってて、まるでお祭りのよう。枯れた木も血で汚れた大地もまるでない。


「ここが魔界です?」


 昔天界で観測した時ってこんなだっけ? イメージと違い過ぎるような。


「魔人は停滞を嫌う種族。常に変化を求め続けている。だから人界(じんかい)獣界(けものかい)魔界(まかい)天界(てんかい)の四大国家の中でも一番発展してると言われている。その成長はめまぐるしいほどにね」


 確かに魔法で立体映像生み出してるなんて相当高度な技術に思えます。はっ、つまりこれで女の子を……? なんてうらやま……。


「私はもっと血で汚れた戦闘狂の世界だって思ったのです」


「実際数十年前まではそういう感じだったらしいけどね。ただ全世界に掲げられてるギルド法定によって規制が厳しくなって彼らはその力を経済へと向けた」


「なるほど……やはり種族に偏見を持つのはいけませんね」


「そうだね。私もついこの間までは天使なんて礼儀正しくて清楚なイメージあったから」


 そのイメージはほとんど合ってるのでは? よほど変な天使に会ったのでしょうか。


「正直わたくしには分かりかねます。確かに見栄えはよろしいですけど、その実態は偏屈ばかりですの。ノワールのブランドを……ごふっ」


 モノコが倒れたー! 救護班ー!


「モノコ、まさか魔界にトラウマがあって……」


「いやどう見てもヴィヴィのペースについて行けなかっただけでしょ」


 はっ。また私は無意識に早く進んでいたようです。


「わ、わたくしは大丈夫です。この程度で根を上げては冒険者の名が廃ります」


「足震えてるよ、モノコ様」


 やはりモノコに長旅は酷のようです。


「では私の背中に乗ってください」


「結構です。ノワールとしてそんなところを誰かに見られたくありません」


「ならお姫様抱っこは?」


「話聞いてます?」


 前に汚れるからって言われたから、それなら両手なら大丈夫と思ったけど、やはり乙女心は難しい。


「ヴィヴィはいつもそうだよ」


「え……? フェネさんはいつもお姫様抱っこされてますの?」


「こいつらの頭どうなってんの」


 ほほう。まさかフェネにもそうした願望があったとは。これはてぇてぇです。


 ともかく抱っこが嫌らしいので、ここは1つ魔法に変えよう。軽量化魔法をモノコに使ってみた。


「急に何だか体が軽くなりました」


「体をフワッとさせる魔法です」


 天使は長時間空を飛べないから、軽量化の魔法でそれを補ってるのだー。これ必須科目。


「これなら問題ありませんの。ヴィヴィさん、ありがとうございます」


 乙女にお礼を言われるのは何度聞いても心が浄化される……。


「そんな便利な魔法あるなら最初から使ってあげたらよかったのに」


「冒険者志望と聞いて嫌かなって思ったので」


「無知のスパルタほど怖いものはない」


 スパルタ? 私は女の子には飴しかあげません。






 舗装された道を進んだ先になんとも大きな高層の建物が見えてきた! 無数のハイライトに照らされて、色とりどりの光が街を照らしている。近くに行けば行くほどその高さは目を疑う。天界の建築物もかなり高いけど、それは翼があるから地面より高いところの方が入りやすいって理由がある。うーん、魔人恐るべし。


 都市に近付くと巨大なゲートが見えてきた。重厚な鉄の造りだけど、時々ポップに虹色の輝くのが何ともギャップある。近くに行くと立体魔法が出現。


『ギルドカードを提示してください』


 機械的な音声が響く。そこは可愛い女の子の声にすべきでしょ、常識。


 フェネとモノコはギルドカードをホログラムにかざしてると許可されてゲートを潜ってます。あれ、私ギルドカードなんて持ってなーい。


 でもそのまま潜ったら絶対何かありそうだし。待てよ……。このゲート高さはあるけど、それでも完全じゃない。つまり上から飛び越えたら入れるのでは?


「ヴィヴィ……」


 地上からフェネが聞こえたけど問題なし。このまま飛び越えちゃえ。



 ブーブー!



 都市に入った瞬間なんか警告音鳴った!? 地面に下りたのと同時に何か強面の野郎に囲まれる。魔人だからか頭に一角が生えてた。とりあえずショットガンを構えたけど、フェネがものすっごく大きなため息吐いてる。


「ヴィヴィ、それ消して。すぐに」


 フェネがいつもより口調が厳しいー。なんか怖いから従っておこ……。


「魔界都市に無断で侵入とは何事だ」


「すみません。彼女は見ての通り天使でして、まだ地上のルールには詳しくないんです」


「ふん……。そんな言い訳で釈明できると思わないことだ。これだから外の人間は好かぬ」


 なんだとおまえ。撃つぞ?


「だからヴィヴィやめて」


「ギルド法令に従って罰金を支払ってもらう。金貨50枚だ」


 金貨50!? この前稼いだ取り分ほぼ全部なんだけど!


 でもフェネは黙って革袋を出して渡していた。角魔人はそれをしっかり勘定して確認すると頷いてる。


「確認した。今後はこのようなことがないように気を付けろ」


 めっちゃ睨まれたんだけど。むー、おまえは強欲魔人だ。私の血と汗の結晶返せー。


「ヴィヴィ。普通に通行料払っていたらこんなに取られることもなかった」


「え、本当?」


「ギルドカード発行してない人も多いんだから当然でしょ」


 じゃああの時フェネが声をかけたのはそういうことだったのかぁ。これはやらかしました。はい。


「テテの救済に関しては少しは目をつぶるけど、今後は私の指示に従ってもらう。ヴィヴィは馬鹿なんだから」


 馬鹿、の部分を強調しなくても! いや、でも今のは本当に反省してます。


「ヴィヴィさん、元気出してくださって。わたくしがお金を持っていますので食事くらいはご馳走します」


「モノコ、ありがとうございます~」


 やはり持つべきは百合だ、乙女だ。百合信仰すばらしい……!


「あら、フェネさんは頭を下げなくていいですの? 空腹はお辛いでしょう?」


「己の信条を捨てるくらいなら花でも食った方がマシ」


 そ、それは私みたいになりたいってこと!?


「余計なプライドは人生において損しかないですわよ?」


「他者に媚び売る人生はさぞ愉快だろうね」


 隙あらばピリつくのやめてー。


「それ以上は百合条例違反なので私が認めません。喧嘩はダメです」


 すると2人が首を傾げてこっちを見てる。私、変なこと言った?


「喧嘩した覚えはないけど」


「ええ。ただの雑談です」


 えぇ……? もしかしてそういう会話が普通なの? この2人は一体どんな人生を歩んできたのか本気で気になってきたんだけど。で、でも喧嘩じゃないなら、いいの、かな?

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