13.三者三様
フェネがギルド協会で依頼を受けて、街の外の草原のどこかにあるワーラットの巣を見つけて駆除して欲しいというのが今回の依頼。というわけで街道へと戻っています。
「協会の依頼って魔物掃討がメインです?」
「色々ある。街を移動する人の護衛だったり、人手不足のお店の手伝い、街の掃除。私達の場合、なるべく人と関わらない方がいいから魔物討伐を受けてるだけ」
お店の手伝い……フェネの経験談? 街のカフェで接客するフェネ……笑顔で「いらっしゃいませ!」って言うフェネ。なにそれ、尊い……。すごく見たかった……。
「フェネ、制服はウェイトレスでしたか? それともメイド服ですか?」
「テレパシーで会話したいなら宇宙人として欲しい」
今日もフェネが冷たい……でもそれがいい……。
「わたくし、足手まといにならないでしょうか……」
少し後ろの方でモノコがトボトボ歩いています。
「モノコ、魔物なんて私が瞬殺します」
「これは嘘じゃないから安心していいよ」
フェネ、まるで私がいつも嘘吐いてるみたいな言い方やめて!?
「ゴブリンとの戦いを見ていたので察しています。ヴィヴィさん、どうかわたくしに戦いのご指導をお願いできません?」
弟子入りしたいと言っていたけど本気みたい。乙女の頼みとあらば聞くのが私。
「もちろんです。まず敵を見つけたら先手必勝で銃弾をぶち込みます。反応する前にやれば何も問題なしです」
「ヴィヴィ、それができたら誰も苦労しない。あとモノコ様は剣しかないから、銃での戦いを教えても無駄」
むむ、そうだった。魔法で剣を具現化させてみる。
「剣術にも心得があります。こう、シュババっと」
試しに近くの雑草を切り刻んで根すらも刈り取ってあげた。銃は点でしか攻撃できないけど、剣は線。だから甲殻がある敵にはこっちが便利だと思う。
「な、何も見えませんでしたの……」
「私も目で追うのがやっとのレベルだよ」
乙女からの賞賛。実に良き……。
「思ったんだけど天界は殺生禁止って前に言ってたよね? なんでそんなに戦闘経験豊富なの?」
「百合がピンチな時に指をくわえてるだけなんてありえません。だから、撃つしかない」
「本当に雲の上から見えてたの? いや、ヴィヴィならありえるか……」
フェネもようやく私を理解してくれたようです。
「うぅ……わたくしはヴィヴィさんのようになれるでしょうか」
「ヴィヴィが規格外だから気にしなくていい。それに剣術なら私も少しだけ心得がある。それ貸して」
フェネがモノコからレイピアを受け取って、それで構えてます。剣先を前に真っすぐ向けて、それでいて微動だにしない不動の佇まい。おぉ、様になる。
「戦いというのは基本受け身。敵を素早く倒そうなんて考えは身を滅ぼす。確実に反撃できそうな時にだけ攻撃するのが鉄則」
フェネー、私と考えが真逆ー。
「その理屈なら早く倒した方が安全ではなくて?」
「たとえば……これはレイピアだから本来ならありえないけど、こうやって剣を横に振る。そうしたらどうなると思う?」
なんか蚊帳の外にされてる感があるので挙手!
「はーい。お腹があきまーす」
「敵に攻撃される隙になってしまう。逆に言うと相手もそれは同じ。だから理性の低い魔物相手の場合は見切ってから攻撃すれば自身への被害がもっとも少なくなる」
露骨にスルーされた!?
「でも魔物なんて反応速度が高いからそう簡単ではないけどね。だから最初の内はこうやって剣を前に置いておくだけでいい」
「どうしてです?」
「はいはい! 牽制目的です!」
今度こそ!
「魔物からしたらこっちがどれくらいの技量か分からない。もしかしたら剣聖クラスかもしれないからね。それに剣先を突き出されていたら不用意に飛び出したくないのが動物の本能」
お願いだから無視しないでー。
「なるほど……勉強になりますの」
あれー? モノコって私に弟子入りしたんだよね? これじゃあフェネが師匠なのでは?
「とは言っても例外なんていくらでもあるけどね。複数相手だと牽制なんて意味ないし、他にも武器なんて相手に奪われるリスクがあるから、いかに近寄らせないかが大事だし。だから大抵の冒険者は武器を持たず魔法に頼る。そうでない場合は腕に相当自信があるってこと」
「フェネが言うと説得力あるのです」
なんでもいいから反応して欲しい。
「ま。最初はゆっくり学んでいけばいいと思うよ。ここに意味不明な強さの天使がいるから、余程でない限り身の危険はないだろうし」
フェネが剣を返してます。完全に私は空気です。空気の天使です。泣きます。
「本音を言えばあなたは冒険者に向いてないと思うけど……まぁ理由があるなら何も言わない」
「フェネ。今の尊いです。尊いポイント100点」
後ろから抱き付こうとしたら華麗に躱された。できる……!
「フェネさん……あの時はご無礼をしました。貴方は立派な志をお持ちですの」
「謝らなくていい。私は理解なんて求めない」
おぉ。なんかよく分からないけど、仲良くなれた? これはてぇてぇです。お花を空からばら撒きたい。手持ちに何もないから魔法で造った花びらを降らせる。演出完了。
なのに、誰も相手してくれない……。病んじゃいます。病み天使になりそう。
「ヴィヴィ、行くよ」
「フェネは私を無視しました。これは問題です」
「街に戻ったら食事に付き合うから」
やる気ふっかーつ! 病み天使完全回復! 魔物なんて数秒で退治する。
はい、宣言通り瞬殺した。空に飛べば魔物の巣なんてすぐに見つけられます。天使の目から逃げられると思わないこと。フェネがギルドカードでワーラットの死体を撮っています。
「やはりヴィヴィさんの戦いは勉強になります」
「存分に学んでください」
「ヴィヴィ、多分今のお世辞。常人には何が起きたか分からないから学ぶ要素なし」
えぇ? お嬢様ってそういうお世辞を言う習慣がありそうだけど、まさかここで?
「お世辞ではありません。本当に尊敬致します。私もいつか貴方のようになりたい」
そんな真剣な目を向けられると恥ずかしい……!
はっ……! 視線を感じる……!
振り返ったら草原の中を白い馬がこっちに向かっています。頭には大きな一角があり、昔古書で見たユニコーンという聖獣かも。
「まさかユニコーンがまだいたなんて。地上では個体数が激減して絶滅寸前なんて聞いたけど」
フェネは情報通。ユニコーンがこっちに来た。文献だとユニコーンは清き乙女にしか近付かないらしい。なるほど、てぇてぇを察知して来たのか。無粋め。銃を具現化させた。
「てめぇ、オスだな? てぇてぇに近付いていいのは乙女だけなんだが? てめぇの欲望に百合を利用するな」
「ヒヒン!?」
チャカを向けたらユニコーンが驚いてる。女に銃を向けられるのは初めてか?
「モノコ様……頭の病気に詳しい医者をご存知で?」
「えぇ、もちろんですの」
あっ、ユニコーンが後ずさって逃げた!
「ヴィヴィさん! ユニコーンの一本角は高値で売れますの! 安心してくださいませ。頭を治す医者はご存知ですの!」
「了解。吹っ飛ばします」
こら逃げるな! その角を百合に献上しろ。てぇてぇを愛するならそれくらい余裕でしょ!
「ダメだ……頭痛がしてきた」
「あらあら。フェネさんも医者を紹介します?」
「ここには言語を理解できる人がいないらしい」
ユニコーンの一本角ゲーット! 百合のために身を投げるとはすばらしい。流石は聖獣!




