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12.貧乏の集い

 街に来たら最初にすべきことは何か?


 答えは簡単。百合探しです。これ以外有り得ない。

 地面に耳を当てて、地脈の流れに身を委ね、そこから百合の足音を探る。百合とは華。つまり大地から咲く。それを知るための儀式。


「ヴィヴィさん、一体何をしてまして?」


「百合の探求です」


「つまり修行の一貫ですの? 勉強になります」


 百合はどこかな~? 聞こえない……。


「ヴィヴィ、人目があるから節度と常識をもって欲しい」


「百合を探すのは常識です」


「花屋へ就職するのをおすすめする」


 乙女と毎日会話できるならそれもありかも。


 むむむ、これは感じる。感じます。百合の危機……!


 スナイパーライフルよ、具現化せよ。


 方角、北北西。百合カップルを発見。尊い。

 だけど、建物の屋上から植木鉢が落ちててぇてぇの危機。百合の邪魔をするな!

 ズドンと植木鉢を粉砕。百合カプは何事って感じで慌ててるけど負傷してる様子なし。OK!


「危険物の破壊に成功。百合カプの保護達成」


「珍しく善行したんだね」


「いつもの間違いでは?」


「言語の価値なんて所詮その程度」


 またフェネが意味不明なこと言ってる。とりあえず銃を片付けよう。でないと、またフェネから有難い法令ラッシュを聞かされる。


「まぁ……ヴィヴィさんは只者ではないと思っておりましたが、狙撃の技術までお持ちですの」


「当然です。百合を守るためには何でもできないとダメです」


「モノコ様、僭越ながら鵜呑みにすると馬鹿になりますよ」


 この私が馬鹿だと……?





 それから街を見て回っていたけれど、至極平和だった。いやーな守護天使の連中もいないし、百合に手を出す野郎もいない。その代わり百合も滅多にいない……。悲しい。


 近くで何やら良い匂いがします。どうやら屋台で串焼きを売っているみたい。一口サイズに切り分けたお肉に串を刺して、豪快にタレを付けて……あぁ、見てるだけでお腹が……。


「お昼にしましょう」


「食べたいだけでは?」


「食べたいです」


「欲望に正直すぎる」


 それが人というもの。屋台へ近づきましたがなぜかモノコは立ち呆けていた。あら?


「モノコ?」


「申し上げにくいのですが……」


「はい」


「お金を持ち合わせていないんですの……」


 その返答にフェネと思わず目を合わせてしまう。どゆこと?


「いやいや。ノワールの令嬢でしょ? お金ないなんてありえないでしょ」


「実はわたくし、屋敷を抜け出したんです」


「えっ。じゃああの時お金を恵んで欲しいって言ったのは結構切実だったの?」


 私よりフェネの方が驚いてるような。なんか新鮮。


「ギルド協会から依頼を受けて細々と生活をしていましたが、先日ついにお金が尽きてしまいまして……」


「そんな大変な状況なら協会に相談した方がいいと思うけど」


「協会に話せば必ず屋敷に戻らざる得なくなります。それだけは避けたいんです」


 その言葉が力強くて何かの誓いにすらも思えた。貴族の令嬢が屋敷を抜け出して生きてるとはなんて百合映えする……ごほごほ。真面目に聞かないと。


「とにかく皆で食べましょう。フェネ、お願いします」


「まぁ……いいけど」


 そうして人数分の串焼きを買ってモノコにも渡そうとしますが、なぜか受け取ってくれない。


「いいですの? わたくし、何もお返しができません」


「モノコのおかげで街に入れたんです。これはそのお礼です」


「まぁ。ヴィヴィさん、あなたに感謝を」


 静かに合掌されます。そこは祈りにして欲しかった、なんて言えないけど。


 串焼きを受け取ってくれたから、私も食べよ。わ、タレがほんのり甘くて美味しい。後からちょっとだけピリッとスパイスも効いてそれが癖になる。フェネは相変わらず時空間胃袋に転送されてる。


 モノコはというと……泣いてる?


「……お肉を食べたのなんて、何週間振りだったかしら……」


 分かる……。私も花食べてたから……。


「なんだか疑ってた私が馬鹿らしい。とりあえず悪い人じゃないかもね」


「だから私は最初から言ったです!」


「はいはい」


 フェネも少しだけ表情が柔らかくなってくれて嬉しい。やはり尊さこそがこの世には必要。


「モノコ様の事情が分かったところで提案がある。お金が必要だ」


「お金~?」


「ヴィヴィは金銭感覚が狂っているから敢えて言うけど、うちは貧乏令嬢を養える財力がない」


 ぐさーというフェネの正論パンチ。効いた。なぜか隣でモノコもダメージを受けてる。仲間だった。


「わ、わたくしなら平気ですけど……?」


「わ、私も余裕ですし……?」


「肉食べたくらいで感動して、花食ってる人の言い分は信用できない」


 ぐはー。だから正論やめてー。


「ヴィヴィのテテの救済も大事だけど、今後も考えて資金調達も必要。幸いモノコ様のおかげで通報されるリスクは減ったわけだし、街に来たら定期的にギルド協会で依頼を受けるべき」


「フェネの言い分はもっともです。でも、私の本懐は百合の救済。それ失くして何が人生でしょう」


「この際だからはっきり言うけど、どっちも何も考えてなさすぎ。モノコ様はそんな地位があるんだから事前に根回ししていればいくらでも生活に困ることはなかったはず。事情は知らないけど少なくとも計画性がないから貧乏になっているのは事実。ヴィヴィも同じ。実力はあるのに全財産をあげようとするくらい馬鹿だから花を食べるしかなくなる」


 あのー、フェネさん? 怒ってます? いつもより厳しくない? モノコを見たら何も反論できないみたいで縮こまってる。なんかかわいい……尊い。


「ヴィヴィ。人が真面目に話してるのに余所見とはいい度胸だね?」


「フェネ嫉妬なんですか!? 嫉妬なんですね! だから怒ってる!」


「だったらヴィヴィはどうすべきと思ってるの?」


「それはーそのー、百合の救済をー」


「言葉詰まってる時点で説得力なし」


 うぅ。フェネに論破されましたぁ……。


「わたくしはフェネさんの意見に反論ありません」


「ふぅん、意外だね。私の意見なんて拒否すると思ったけど?」


「自分の状況を鑑みれないほど愚かでもありません。それに元々ギルド協会で仕事を受けていましたから、特段おかしいとも思いませんの」


 それを聞いてフェネが小さく頷くと今度は私の方を見る。うわーすっごい睨んでるー。モノコが一緒になってからフェネご乱心じゃない? 気のせい?


「フェネの意見には賛成します。が!」


「が?」


「私は百合救済のために地上に来ています。いついかなる時も、どんな状況でも、てぇてぇが損失すると分かった時はどれほど大事な仕事でも放り出して救出に向かいます。これは絶対に譲れません」


 お金が必要なのは分かってる。生きるためにも、生活するためにも。でも私からしたらそんなの些細。百合が守れないならお金なんていくらあっても無意味。


 するとフェネが……笑った?


「ヴィヴィならそう言うと思ったよ。その辺は分かってる。これはあくまで日常的な話」


 さすがフェネ。ご理解が早い。


 どうなるかと思ったけど、案外丸くまとまりそうで一先ず安心、かな?

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