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11.令嬢の権威

 どういうわけか、モノコは私に弟子入りしたいそうです。無論、それを断る理由が全くない。


「もちろんです。私の百合パワーを知ればモノコはもっと高みへ行けるでしょう」


「ヴィヴィさん、ありがとうございます。わたくしもゆりぱわーを学ばせて頂きます」


 というわけで握手。わぁ、傷一つなくてすっごい綺麗な手。しかもサラサラしててやわらか~。えへへ~。


「ヴィヴィ、私は反対だよ。ただでさえ天界に目を付けられてるのに、そこにノワールの令嬢を連れてるなんて知られたら、拉致誘拐を疑われると思う」


 尊いを摂取してる隣でフェネが言います。もう承諾しちゃったんだけどなぁ。


「あら。ヴィヴィさんは同行の許可を認めてくれました。嫌なら貴方が抜けたらいいのではなくて?」


「私を嫌うのは別にいい。でもね、言わせてもらうけど、剣なんか持ってる人は今時見たことない。剣を使うくらいなら弓か銃の方がはるかにマシ。その様子からして魔法も使えないんでしょ。さっきの戦いからして戦闘経験も皆無。だからギルドランクがE」


 フェネー。仮に事実だったとしても初対面の人にそれは言いすぎー。でもモノコは臆する様子なくフェネの前に立ってる。


「ご忠告ありがとうございます。でもわたくしはヴィヴィさんに弟子入りしたのであって、貴方には一切興味がありませんの。ですから今の言葉は胸の奥底にしまっておきます」


 モノコもモノコですっごい刺のある言い方ー。


「そうやって自惚れてる人ほど魔物に殺されやすいんだよ。モノコ様?」


「なら自惚れていない貴方はさぞお強いのでしょうね。フェネさん?」


 いやーもうなにこれ? 仲が悪いってレベルじゃないー。これは百合信者として由々しき事態。なんとかせねば。


 手を叩いて注目を向かせてみる。


「はい、ストップストーップ。それ以上の口論は百合信仰として許しませーん」


 仲裁したら2人は距離を置いて一旦は口を閉ざしてくれた。


「フェネ、あなたの知識はすばらしいですが、もう少し相手を思いやる気持ちが必要です。てぇてぇ不足です」


「どうでも。それよりヴィヴィ分かってるの? さっきも言ったけど彼女を連れるのはリスクがある」


「もちろんです。でもそのリスクを差し引いても問題ありません。私を間近で見てたフェネなら分かるでしょう?」


 そう言ったらフェネは反論せずに黙りました。何も言わないなら納得してくれたって解釈するよ?


「モノコ、ごめんなさい。フェネも悪気はないのです。まだ尊いの勉強中で時々お花が枯れちゃうんです」


「お気遣い感謝します。これくらい全然気にしておりませんので。妄言ばかり吐くあの者に比べれば、あの程度ゴブリンの鳴き声にしか思いません」


 うーん? なんかよく分からないけど、気にしてないならよかった。







 そんなこんなで旅の面子が増えて再開。長い街道を……皆バラバラに歩いてる。うん、これは尊いからほど遠い……。


「そういえばさっきお金を要求してたけど、あれにはどんな意味が?」


 フェネー。お願いだから相手の地雷を踏むような真似はしないで。案の定、モノコは不機嫌そうな顔……には見えないけど毒のある笑顔を見せてる。


「貴方に話す義理あります?」


「ある。旅の同行者に不審な行動をしている人がいれば、それが原因で全員の命を危険にするリスクがある。最低限の説明責任は必要」


 なんか耳が痛い話。私の事、じゃないよね?


 でもモノコは答える様子がなさそう。フェネの目が鋭い……。


「フェネ。誰にだって言えない事情はあります」


「ヴィヴィは甘すぎる」


「だってフェネにも話せないことあるでしょう? 私に言えない何かがありますね?」


「……っ!」


 一緒にいて数日しか経ってないけど、それでも会話の節々でフェネが何かを背負っているのは分かる。これは乙女の勘。それに今、フェネが言葉を詰まらせたから十中八九になった。


「私は話せないならそれでいいと思います。話したいと思うなら話す、それが百合信仰です」


「すばらしい信仰です。わたくし、ヴィヴィさんに感銘を受けてばかりですの」


 ふっふ、てぇてぇの教えは最強。フェネもようやく納得したみたいでそれ以上モノコに追及しなくなった。





 街道を真っすぐ歩いていたら壁に囲まれた街を発見。最初の街もそうだったけど、こういう街が多いのかな。魔物の侵入対策なんだろうけど。でも翼のある私からしたら空ががら空きなのが不可解。


 大きな門の前には近衛兵らしき騎士の人が立っている。でも、私を見たら急に身構えられた。


「お、おい。あのピンクの髪に黒い翼って……」


「あぁ。例の情報と一致している……」


 前の守護天使がもう手を打ったのかなぁ。はぁ、めんどくさー。私はなーんにも悪いことしてないのに。


 するとモノコが騎士の前に歩いて行った。


「彼女は私の護衛の天使です。悪人ではありません」


「あなたはもしやノワールのご令嬢様!? なぜこのような場所に……」


「仕事の関係です。フェネさん、ギルドカードを」


 フェネが黙ってギルドカードを騎士に渡してます。


「ギルドランク……A! 本物の護衛だ!」


「分かって頂けましたか? 門を開けてくださります?」


「ははっ!」


 そうして何とも呆気なく街の中に入れました。なにか凄い物を見てしまった気がする。


「モノコってもしかしてかなり偉い地位だったり?」


 フェネは知ってるみたいだけど、話してくれなさそうだし。


 けれどモノコは軽くため息を吐いていた。


「とにかくありがとうございます」


「お役に立てたなら光栄です」


 さっきまで以上に素っ気ない返事に感じる。


「それと~、さっきのでお気づきかもしれませんが、実は私天界から目を付けられていて、その~、ちょっと色々と揉めてたりして、モノコは本当に大丈夫です?」


 すっごく言うのが遅くなってしまった。最初に言うべきだった。こうだと知ったらモノコも引き返すかも……。でも私の予想を裏切ってモノコは目を輝かせて手を握ってきました。

 ふえっ!?


「その気持ち分かります。わたくしも同じでしたから。やはりヴィヴィさんは(まこと)尊いお方だったのですね。これは運命です」


 はわわわ、街中でそんな告白を……!


「でもご安心くださいませ。悪評などわたくしが消し去ってくれましょう」


 ああ、尊敬という意味での尊いでしたか……。また勘違いするところだった……あぶないあぶない。


「だ、そうです。フェネ、これはリスクよりもリターンでは?」


「ただの馬鹿じゃないというのは確かかもね」


 さっきの門番相手の機転はすごかった。きっと私とフェネだけだったら追い払われるか捕まるかの2択です。


 あれ、もしかして私とんでもない子を味方にしたのでは?

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