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図書館の天才少女〜本好きの新人官吏は膨大な知識で国を救います!〜  作者: 蒼井美紗
第11章 霊峰探索編

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206、困惑と帰還

 ラクサリア王国の王都では、遠くの空に巨大な飛行生物がいるという緊急事態に大騒ぎとなっていた。それは王宮でも同じことで、慌てて騎士団が迎え撃つために準備を進めている。


 また守るべき者たちは一ヶ所に集まるべきということで、慌ただしく各国の代表者たちが大ホールに集められていた。


「巨大な飛行生物って、まさか竜ではないの!?」

「それもあり得るか……」

「もし竜を起こしてしまったとしたら、私たちは終わりではないでしょうか」

「なんで、なんでこうなってしまったのかしら」

「霊峰探索軍から連絡は来ていないのか!?」

「もし連絡を送っていたとしても、着くまでに時間がかかるでしょう。それに竜が目を覚ましたのならば、霊峰探索軍が無事かどうか……」

 

 様々な憶測や不安、怒りの声が飛び交う中に、ラクサリア国王も顔を出す。国王の瞳は、すでに覚悟を決めているようだった。


「ラクサリア王国として、できる限りの撃退指示はした。しかし本当に竜であるならば、討伐は難しいだろう。そこで皆とも協力したい。あの竜だと思われる飛行生物がここに来るまでに何をしてきたのか分からないが、まだ無事な国もあるはずだ。こうしてすぐに話し合いができる環境だったことは幸運であった」


 ラクサリア国王のその言葉に、ざわざわとしていた室内が真剣な雰囲気に変わる。


「確かにそうね。とにかく竜ならば、討伐できなければそれは死を意味するわ。今まで以上に協力しましょう」

「賛成だ。しかし竜がどのように動くのか予想をしなければ……」


 大ホール内で真剣な議論が始まった直後、転がるようにして一人の騎士が室内に足を踏み入れた。


「ご、ご、ご報告です! 竜らしき飛行生物の背中にハルカ様がいらっしゃいます! さらにソフィアン殿下やマルティナ殿の顔も……!」


 竜による被害報告かと身構えていたのだろう各国の代表者たちは、面食らったような表情で固まった。しばらくして、数人がやっと口を開く。


「ど、どういうことだ? 竜に捕らえられているということか?」

「いえ、手を振っておられます!」

「――意味が分からない」

「どういうことだ? 竜ではないのか?」


 理解できない状況にしばらく話し合っていたが、一人の王女が実際に見にいこうと提案したことで、各国の代表者たちは騎士の案内で竜の姿が見えるところに向かった。


「どうやら竜は、騎士団の訓練場に降り立とうとしているようでして……」


 そうして騎士団の訓練場に着いた時には、信じられない威圧感を放つ竜が訓練場のど真ん中に鎮座していて、その背中では――マルティナたちがガヤガヤと騒がしく話をしていた。



 ♢ ♢ ♢



 サディール王国でソフィアンを乗せた時の騒動で薄々予想していたが、竜の姿であるディアスが街に近づくと、街では大騒動が起きているのがすぐに分かった。


 そこでマルティナはできる限り騒ぎが大きくならないようにと、背中から身を乗り出す準備をする。


「もしかしたら騎士の方たちが迎え討とうと攻撃してくるかもしれないので、それを防ぐために頑張りましょう」

「そうだね。とにかく危険がないと分かってもらうことが大切だ」


 ソフィアンの賛同もあり、マルティナとハルカ、それからソフィアンというこの場にいる中でも特に重要人物である三人が顔を出して、他の三人が支える役をすることになった。


 そうしてディアスが降りる場所と定めた訓練場の上空に着いたところで、マルティナたちは必死に身を乗り出して手を振る。


 するとやはり撃退準備をしていたらしい騎士たちが、愕然とした様子で上を見上げているのが分かった。その様子で、とりあえず作戦は成功だとマルティナは考える。


「攻撃されることはなさそうですね。良かったです」

「そこはとりあえず良かったかもしれないが、これ相当な騒動になってないか……?」


 遠い目をして呟いたロランに、マルティナは苦笑を浮かべるしかできない。


「もう、仕方ないですよね」


 そんな話をしているうちに、ディアスは地面に着地していた。そこでマルティナたちは順に降りることにする。


『早く降りてくれ。そうでないと我が人の姿に戻れん。早く研究を確認したいのだ』


 帰還の魔法陣がよほど気になっているらしいディアスの言葉に、マルティナたちは急いだ。もちろんマルティナは一人で降りることができないので、ロランやサシャに抱き上げられる形だが。


 そんなマルティナたちの会話を聞き、ディアスは告げた。


『マルティナはもっと鍛えるべきではないのか?』


 その言葉に、マルティナはディアスに鍛えることを強制されたら大変だと考え、慌てて首を横に振る。


『そ、そんなことないです! 生まれ持った性質上、これが最高というか、これ以上は難しいというか』


 主にマルティナが慌てながら、全員がディアスの背中から降りたところで、マルティナたちは各国の代表者たちが集まってきていたことに気づいた。


「何が、あったのだろうか」


 最初に口を開いたのは、ラクサリア国王だ。


「国王陛下、ただいま戻りました。とてもたくさんのことがあったのですが……」


 マルティナが説明を始めようとしたところで、後ろからマルティナの肩を掴む存在が現れる。


 それはもちろん――ディアスである。


『おい、話の前に帰還の魔法陣研究の概要を見せろ』

『そうですよね……了解です。ちょっとだけ待ってください』


 それからマルティナは大変申し訳ないと思いつつ、説明役をソフィアンに任せた。何度も頭を下げながら、ディアスに半ば引きずられるように王宮へと向かうマルティナにロランとサシャが続く。そしてハルカもディアスに呼ばれて、フローランと共に足早にその場を離れた。


 ソフィアンがディアスのことを、竜であるが仲直りをした。マルティナはその子孫かもしれないらしい。などと説明をして、それに各国の代表者たちが驚いている声を遠くに聞きながら、マルティナたちは王宮に入る。


 ディアスは、ワクワクが隠せていないような表情を浮かべていた。故郷に帰れるかもしれない可能性が嬉しいのだろう。


『どっちに行けばいい?』

『まずはこの廊下をずっとまっすぐです』

『了解した』


 先頭でずんずん進んでいくディアスの後ろを、やっと腕を離してもらえたマルティナは必死に追いかけた。追いかけながら、マルティナの隣にいたロランがポツリと呟く。


「マルティナ、これからは今まで以上に重要人物となること間違いなしだな」


 その言葉はマルティナの胸に深く刺さった。


「うっ……やっぱり、そうですよね」


 マルティナもその予感を覚えつつ、考えないようにしていたのだ。


「ああ、要するにディアス様との仲を友好的に保つのに必要不可欠な人材って感じだろ?」

「そんな感じに、なってしまいましたよね……」


 マルティナはただ本が読みたかっただけなのだが、なぜこんなことになっているのかと少し落ち込んだ。


(平和にずっと本を読みたい……!)


 そんなマルティナの内心の叫びを知ってか知らずか、ロランはマルティナの背中を軽く叩く。


「まあ、変わらず俺たちが守るから安心しろよ」

「そうっすよ!」


 サシャもロランの言葉に賛同してくれて、マルティナは頼もしい二人の存在に頬を緩めながら、目の前にあったディアスの広い背中を見つめた。


 それから少しして、王宮図書館に辿り着く。その扉を開けて中に入るディアスに続き、マルティナも入ろうとしたところで……後ろにいたハルカを振り返った。


「ハルカ、ついに帰還の魔法陣が完成するかもしれないね。私、全力で頑張るからね」

「うん、ありがとう。わたしもできる限り協力するね。これからは時間が余るかもしれないから、一緒に研究もできるかも」


 そんなハルカの言葉に二人は笑い合い、マルティナは僅かな寂しさを誤魔化すようにハルカの手を取った。


「行こっか」


 マルティナが手を引いて、二人は共に王宮図書館に入る。そんな二人を待ち構えていたように、ディアスが口を開いた。


『どこにも研究の形跡がないぞ?』

『奥の書庫の中なんです。案内するのでちょっと待ってくださ……』

『あそこだな!』

『あっ、急に開けないで!』


 バタンッ。


「だ、誰だ!」

『お、お前たちも研究者なのか?』


 ラフォレたちの困惑の声を聞きながら、マルティナはハルカやロラン、サシャと共に書庫へと急いだ。


 これからはディアスがいることで、騒がしく大変な日々になることは想像に難くない。しかしマルティナはそんな予感にも少しの楽しさを感じてしまい、自然と頬を緩めた。


 そしてそんなマルティナの隣には、同じく楽しそうなハルカがいた。

『図書館の天才少女』書籍4巻、本日発売です!


ついに発売日となりました……!

皆様ぜひご購入ください。書籍でしか読めない書き下ろしエピソードもがっつりありますので、楽しんでいただけたら嬉しいです!

特典などの情報は活動報告にまとめています。


そしてweb更新についてですが、明日からはまたしばらくお休みさせていただきます。必ず再開しますので少しお待ちください。

web更新がない間は、書籍でマルティナの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです!


書籍版『図書館の天才少女』もよろしくお願いいたします。まだ書籍は読んだことがないという方は、毎回書き下ろしのエピソードもありますので、この機会に一気読みもぜひ!


蒼井美紗

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