表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に向って撃て!!~頼みの綱は6連発~  作者: 秋津モトノブ
駆け出し冒険者ウエストウッド
80/80

80話 ゆらり馬車の道行、そして同郷の思い出話。

「なぁるほど、一般兵用の馬車だな」


 寝転がった視界の隅を、雲が流れていく。

うーん、今日もいい天気だ。


「ウッドウッド、大丈夫か?気持ち悪い事あれへんか?」


 ひょいっとマギやんが顔を覗き込んできた。


「ああ、すこぶる快調だぜ。むしろ起きてえんだがよ」


「アカーン!」


「さいですか」


 諦めて、枕に頭を預ける。

はあ、元気なんだがな……気持ち的には。


「駄目。説明したでしょ、魔法と護符でなんとか健康体にしてるって……変に動くと腱と骨がぐしゃってなるよ」


「うへぇ」


 マギやんの横に座っているララの声。

専門家の指示には従いましょうか……



 朝になるなり、俺は騎士の皆さんに担架で馬車に運び込まれた。

簡素で、荷台に半分幌のかかった馬車だった。

 同乗者はマギやん、ララ、そして俺。

御者以外の騎士サマは、馬車の周囲で徒歩の護衛だ。

至れり尽くせりとはこのことだろう。

世話になったヴェンデッタにも挨拶したかったが……正直、見分けがつかん。

全員身長2メーターオーバーで、なおかつ全身鎧。

某ファミレスの間違い探しよりも難しいぜ。



「マギやん、水のスキットル取ってくれ。酒の方は飲んでいいぜ」


「ほいほい、コレやな。そんならウチも~!」


 スキットルを受け取り、飲む。

ふう、水がうめえ。


「マギカちゃん、そのお酒おいしい?ウッド、私も飲みたい」


「別にいいけど……悪酔いするなよ?マギやん、背嚢を……」


「ほいほい」


 マギやんの持ってきた背嚢に手を突っ込む。

念じると、コップの手応え。


「ホレ、大丈夫か?」


「私を舐めない方がいい。ゾロルッドのドワーフに『ウワバミ』と呼ばれた私のことを」


「うせやろ!?あの地獄のんべの連中に!?」


 マギやんが驚愕している。

ザルのドワーフにウワバミ呼ばわりされるんだから、相当のモンなんだろうさ。

ゾロルッドとやらのことはわからんがね。


「んじゃあララはん、かんぱ~い!」「かんぱーい」


 2人がスキットルとコップを打ち合わせて煽る。

今更だが、ストレートのウイスキー(の偽物)をゴクゴクいくんじゃねえよ。

スポーツドリンクじゃねえんだぞ。


「っか~!最高やなァ!」


「美味し、なにこれ。火酒にちょっと似てるけど、味の丸みが全然違う……!!」


 ララも気に入ったようだ。

いつもより言葉に力が籠っている。


「『ういすきー』っちゅう酒ですねん!(『チキュウ』産の酒らしいですわ)」


 マギやんが周囲を窺うような気配を見せ……小声で告げた。

そっか、周囲には騎士サマが散ってるんだよな。

御者もいるし。


「ウッド」


「う、お!?」


 目の前に、ララの顔が出た。

人形みてえに整っているが、目が爛々と輝いている。


「アンファンに戻ったらこのお酒について話がある(チキュウ……モリシタサンの故郷のお酒、これが……)」


「あ、ああ……りょ、了解」


 そんなに気に入ったのか、ウイスキー。

俺の想像力も馬鹿にできねえなあ。


「……そういえば、『モリシタサン』ってどんな人だったんだ」


「あ!ウチも聞きたい聞きたい!」


 今名前を聞いて思い出した。

どう考えても同郷だしな。

これなら、周囲の騎士サマに聞こえても大丈夫な話題だろう。


「『タダオ・モリシタ』さんっていう名前。『チュウゴクチホウ』の『ヒロシマ』に住んでたって言ってた」


 森下タダオさん、か、広島出身かァ。

大学の同級生に招待されて行ったなあ、宮島。

穴子飯とお好み焼きが美味かったなァ……


「私がまだ15の頃にフラッと村に来た。手先が器用な人で、故郷では『イタマエ』って仕事をしてたって」


 板前か。

料理人だな。

……ああ、なるほど。

ララがビーフシチューを食わせてもらったって言ってたのはソレか。


「とっても料理が上手だった。『娘に似てる』って、可愛がってくれた」


 ……森下さん、どえらい美人の娘がいたんだな。


「へえ、じゃあずっと村にいたのかよ?」


「うん、気に入ったって言って……村長もみんなも、モリシタサンの料理に夢中だったからすぐに家を建てた」


 気に入り過ぎだろ。

森下さんの加護、絶対料理関係だったんだろうなあ……


「優しくて、とってもいい人だった。もう亡くなっちゃったけどね」


「ありゃあ……そら、悲しいでんな」


 まあ、100歳越えのララが子供の頃の人だもんな。

ただの人間だし、そりゃあそうだろ。


「エルフの霊薬があっても、人族だからね。享年158歳、若すぎる」


「若くねえ!?」


 ギネス記録更新してるじゃねえかそれ!?

エルフの薬すっげェ!?


「今でも村にはモリシタサンの店が残ってる。エルフのお弟子さんがいっぱいいるから……また食べたいな、『オコノミヤキ』」


 板前じゃねえのモリシタサン!?

なんでお好み焼きを!?

……あ、広島県民!!お好み焼き大好きだもんな、あっこも。

同級生に『広島風お好み焼き』って言ったら、


『あれがオーソドックスなお好み焼きじゃ!関西のは偽モンじゃけえ!!』


って言われたっけなァ。

俺も、関西のより焼きそば入りの方が好きだけどよ。


「『サシミ』っていう、切った生魚を喜んで食べる以外はとってもいい人だった」


「うへえ、生ァ!?」


 マギやんがドン引きしている。

……まあ、そりゃ、なあ?

食う文化がねえとなあ?


「……『ミディアノ』ではそういう食い方もよくしたぜ。脂ののってる魚なんかだとむっちゃ美味ぇんだぜ?酒にもよく合ってよ」


「……普通なの?『ミディアノ』では」「うせやろ……」


 ニホンって言うわけにはいかないが、2人とも空気を読んで合わせてくれた。

刺身食いてえな……もしくは海鮮丼か寿司。

まあ、まずは米がねえんだが。


「(ちょっと待って、ウッド……オコノミヤキ知ってる?)」


 今その可能性に気付いたようで、またララが目を輝かせている。

頷くと、その輝きが一層強くなった。


「『ソレ』、作れる!?」


「……材料があれば、そう難しい料理じゃねえ。ただソースがな……(この世界の材料には無知すぎるんだ、どうやったら作れるか見当もつかねえ)」


「それでもいい!お金は払うから作って!!」


 圧がすげえ。

お好み焼きが好きなエルフ……ちょいとユニーク過ぎるだろ。


「ウチもウチも!!」


「はいはい、体が治ったらな……あ、オレってアンファンに帰ったら『青き湖畔亭』で養生すりゃいいんだよな?」


 向こうでも入院とかは嫌だね。

前回と同じところは居心地が悪ぃからな。


「ありゃ、言わんかったっけ?アンタはしばらくヤンヤ婆ちゃんとこに行くんやで」


「婆さんのォ!?おい、おい待て、じゃああの罰ゲーム飲料もまだ飲まなきゃいけねえのか!?」


 もう嫌だ!あの激臭は!!

俺がカワイイ犬っころだったら臭いだけで死んじまうぞ!!


「ワガママは駄目、ウッド」


「せやせや!婆ちゃんとこは貴族も通うくらいの評判なんやで!中々予約も取れへんのや!」


 が、どうやら俺の危惧した通りになりそうだ。

く、くそう……

ありがてえよ、ありがてえが……アレはもう嫌だァ!!


「むぐぐぐ……!!」


「諦めや、ウッド」


 ――頼れる相棒は、とっても無慈悲だった。



・・☆・・



「クワッ!クワ~!!」


「おう、久しぶりだなキケロ。おめえも元気そうで何よりあばばばばばば」

  

 護衛付きの馬車は、何事もなくアンファンに帰還。

そのまま、ヤンヤ婆さんの家らしき場所に到着した。


「キケロも心配しとるで~♪」


「あばばばば」


 懐かしい顔に再会したと思ったら、ノーモーションで舐め回されている。

青臭ェ!!牧草の匂いがする!!


「はいはい、いらっしゃいウッドちゃん」


「あばばばば」


 婆さんが来たようだが、視界はキケロのベロで埋め尽くされている。

コイツ……動けねえから逃げることも出来ねえ!!


「キケロ、ウッドちゃんが窒息しちまうよ」


「クワ……」


 やっと視界がクリアになった。

病院前で死ぬかと思ったぜ。


「ヤンヤ殿、よろしくお願いいたします。ウエストウッドさんの経過はこちらの手帳に」


「はいはい、ありがとうねヴェンデッタちゃん。……おやまあ、さすがだねェ」


 たぶんヴェンデッタが、婆さんに手帳を渡している。

鎧姿だからわかんねえ。


「ふむ、護符の等級が凄いね。氷姫様はかなり張り込んだようだ……これなら1週間で普通に動けるようにはなるよォ、ウッドちゃん」


「そいつはありがてえな……その、世話になっていいのか?」


 さっきマギやんが言ってたけど、ここに入院すんのってかなり大変なんだろ?


「気にしなさんな、『大きい家』からしっかり頂いてるからねェ」


「……そ、そうか」


 氷姫サマよ、一体いくら払ったんだ……?

気になるが、恐ろしいぜ……


「見舞いに来るさかいな!おとなしゅうしとくんやで!」


「ん。いい子にしておくこと」


「はい……」


 ともかく、しばらくはここに厄介になりそうだ。

腹、括るかねェ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
新しい話追加して… 続きめっちゃ気になるんだよぉ… 頼むよぉ…秋津さぁん…
[良い点] 関西j帝国ドワーフに粉もんが知られる! [一言] 自分も焼そば入りがいいなぁ(・∀・*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ