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第二十六話 灼熱の料理バトル!!

次回は1月21日に投稿するでチュー!!


 速人はラッキーたちに事の重要さを伝える為、丁寧な説明をすることにした。

 

 「結論から言うとアルフォンスがアトリたちに頼んでしまったから、本来はあり得ないはずの取引が成立してしまった。さらにここでもう一つ、厄介な問題が生じている。アルフォンスが前金として100万QP受け取ってしまったことだ」

 

 ラッキーたちの反応は相変わらす芳しくない。

 速人はここで一つ、ある結論に達する。ラッキーはアルフォンスの作った借金がすぐに返済可能な額だと思っているのではないか、という話だ。

 

 その後、速人の予想は見事に的中することになる。

 「速人君。ウチの店も経営が楽とは言えないがアルフォンスが使い込んだ20万QPくらいなら支払うことも可能だぞ。まあ先方さんの信頼を失うことは心苦しいが」


 ラッキーはがっしりとした太い腕を組んだ。年少者を心配させまいとする虚勢もあってのことだろう。

 

 ラッキーたちはゼロに近い状態から大市場を盛り立ててきた苦労人であるがゆえに客からの信頼を失うことを何よりも恐れているのだ。

 ここでハッキリとした意思表示をして、アトリたちオーク族への心証も悪くしたくない。


 ラッキーたちが交渉事に強く出られない理由だった。

 

 無論、速人もラッキーの心構えは立派なことだと思っている。

 だが今回に限っては些か見当はずれな意見であった。


 「違うんだ、ラッキーさん。俺が言っているのはアトリさんたちが支払った金額、いや金券についての話なんだ。多分アトリさんたちがアルフォンスに支払ったのは上層で取引の時に使われている有償通貨のことだ」


 「有償通貨?私はあまり聞いたことがないな」


 ラッキーは相変わらず話の要領が見えてこないという感じで首を傾げている。

 速人もナインスリーブスの通貨に関しては正確に理解しているわけではないので、今ひとつ伝わり難くなっているのかもしれない。

 だが実際は知らなかったでは済まされないことばかりなので話を続けることにした。


 「普通のQPは宝石や国外の通貨を買うことは出来るけど、換金することは出来ない。しかし上層の有償通貨はそれが出来ることからプラチナチケットと呼ばれているんだ。今はPQPなんて呼ばれ方をしているんだけど」


 QPクォリティポイントは都市同盟という自治体で使われている通貨である。大まかに説明するとダナン帝国では龍王貨とも呼ばれるDCドラゴンコイン、レッド同盟では聖賢の書とも呼ばれるRLレッドリーブスという通貨が存在する。

 ダナン帝国、レッド同盟、自由都市の三大勢力の中で最弱である自由都市の通貨QPは一番価値が低いものとされている。

 ゆえにQPを自由都市以外の場所に持って行ってもまともな取引は成立しない。

 そこで三大勢力の経済的な衝突を回避する為に用意されたのがプラチナチケット、PQPという特殊な貨幣である。

 この貨幣は精製された魔晶石で作られている為に宝石同様、PQPそのものに価値があるのである。

 使用方によっては武器にもなり得る為に取り扱いが難しく下層では滅多に使用されることのない代物なのだ。


 (いや、しかし。ラッキーさんは戦後は勲章をいくつも貰った軍人だってベックさんから聞いているんだがな)


 余談になるが、有事の報奨はPQPで支払われるのが通例である。


 「プラチナチケットか。ううむ、尚更聞いたことも見たこともないな」


 ラッキーは悪びれもなく豪快に笑った。

 速人はこの時ラッキーが勲章や報奨の類を全て議会に返してしまったという話をベックがしていたことを思い出した。


 (心、大らかでよく働く無欲な男か。人が集まるわけだ)


 速人は、このよく笑う禿頭の大男に半ば呆れながらも尊敬の眼差しで見つめていた。

 そしてまた速人は、ラッキーの傍らで瞳に深い闇を映しているアルフォンスの存在にも気にしていた。


 「ああ、そうか。俺にも正確なことはわからないけど1PQPは下層で使われているQPの百倍の価値で取引されているんだ」


 仕方ないので速人はストレートに金銭面での問題をぶつけることにした。


 2000万QPという言葉を聞いた途端にラッキーの目が点になる。


 「ああ!なるほど!じゃあアルフォンスは200万QPの借金を背負い込んだって話か!はっはっは!納得だよ!」


 その時のラッキーの顔は笑っていたが、目は笑ってはいなかった。

 ラッキーは巨体に似合わぬ速度で追撃し、縄を解かれた後に逃げようとしていたアルフォンスを背後から捕まえた。

 

 その後アルフォンスは速人によって荒縄を使って2倍強の力で縛られ、再び吊るされることになった。


 今度はアルフォンスに同情する者は誰もいなかった。


 「さて。そっちの話もまとまったってことで、この落とし前どうしてくれるつもりなんだ?」


 頃合いを見てアトリは話の輪の中に入ってくる。

 彼女の自信に満ちた表情から察するに、ラッキーとアルフォンスのたちの抱える事情についてもある程度は知ってのことだったのだろう。


 速人は得体のしれない居心地の悪さを感じていた。


 「ところで速人。俺の住んでた村ってお金を使うことが無いから実感が湧かないんだけど、2000万QPってどれくらいすごいお金なの?」


 ディーの故郷は山間に在り、さらに山を隔てた外界との交流がほとんどない場所だと以前から聞かされていた。

 雪近もその辺りの事情が上手く飲み込めていない様子である。

 速人は情けない気持ちになりながら質問に答えてやることにした。


 「ラッキーさんのお店の一年分の収入くらいだ。一人で返金するなら、相当の苦労を強いられることになるだろう」

 桁外れな金額と間抜けすぎる話を聞いた後に、ディーと雪近の目は点になってしまった。

 

 結局ラッキーは他の仲間に事情を説明し、分割でアルフォンスが使ってしまった分のお金を肉屋仲間と協力して払うことになった。

 アトリの方も死者に鞭を打つような真似はせず、話が一応の決着を迎えると当初の決定通りにラッキーたちの店から商品を運び込むことに没頭する。


 しばらくして、ドレスデ商会から出向してきた男たちが商品移送の作業がほぼ終了したことを伝えにアトリたちのところにやってきた。

 その頃にはラッキー精肉店の内部は文字通り、ガラガラになっていたことは言うまでもない。


 「アトリお嬢様。これで商品の運搬はほぼ完了いたしました」


 スーツ姿の大男が主人に対して礼をする。

 大男たちは姿どころか顔つきまで似ているので、どれがヘムレンだかわからないような状況だった。


 「了解。で、フランシス。ほぼってどういうことだ?」


 フランシスは他の男たちに指示を下し、店の中に残っていた細切れ肉と小さな塊肉の入った箱をアトリたちに見せる。

 

「くっせえな!何だ、その肉は!」


 アトリがあまりにも大げさに反応したので、男は「もうしわけありません。アトリお嬢様」と言った後すぐに箱の蓋を閉じてしまった。


 その時、速人の双眸が妖しく輝いた。


 「これはすね肉、すじ肉と呼ばれる部位の肉でございまして、歯ごたえが悪い上に筋張っているせいで非常に食べにくい肉質となっております。そして他には精肉作業に入る時に出来てしまった切り落としと呼ばれる種類の肉でございます。あまり高値のつく商品にはなり得ませんが、いかがいたしましょうか?」


 男はダイヤモンドの原石にもなり得る細切れ肉とすじ肉たちを露骨に卑下するように説明した。


 速人の全身の血液が沸騰し、マグマのそれに変わっていく。


 さらに追い打ちをかけるようにアトリは嫌なものを遠ざけるような仕草をしながらフランシスに命じた。


 「そんなものは要らねー。店に戻しておけよ。ああ、そうだ。このクズ肉はお前らにくれてやるよ。貧乏人は貧乏人らしく、野良犬みたいにクズ肉を漁ってろってんだ。アハハッ!」


 怒り大爆発ッ!!


 その時、速人の中でビッグバンにも匹敵するような大爆発が起こった。

 速人は右手の中指と人差し指を開き、ピースサインを作った。

 そして、土煙を上げながらアトリに接近し!!


 ズッッ!!ボォッッ!!


 アトリの小さな鼻の穴に突っ込んでやった!!


 「ぎょわあああああああああああああ!!」


 アトリはたまらず悲鳴をあげる。

 だが速人はまだ突っ込んだ二本の指を鼻の穴から抜かない!!


 「Dio!君が泣くまで!僕は殴るのを止めない!」の精神である。


 (私の反応を巧く外してきたか。やるな。おめでたい顔のやつ)


 カトリは形のよい顎に手を当て、冷静の観察していた。


 他人事だから。


 「小娘が、人がおとなしくしていればくず肉くず肉と無礼千万をぬかしやがって!もう許さんっ!味将軍グループみたいなことばっかしやがって!俺と料理で勝負しやがれ!!」


 そう言ってから速人は、すぽんっとアトリの鼻の孔から指を引っこ抜いた。


 あまりの衝撃的な出来事に、アトリは瞳に涙を浮かべている。

 絶句しているアトリと速人の間にスーツ姿の男たちが集合して”人の壁”を作った。

 速人との距離が隔てられたことにより自我を取り戻したアトリはまだヒリヒリしている鼻に手を当てながら叫んだ。


 「てめえッ!!よくもアタイの(鼻の)穴を問答無用で拡張してやがって!!おめでたい顔をしてるからって、もう許さねえぞ!!」


 アトリの怒りに呼応して、スーツ姿の男たちも一斉に身構える。

 彼らはドレスデ商会お抱えの使用人であり、警護役でもあるのだ。

 男たちが各々の隠し持った武器を解禁しようとした瞬間それまで奥にいたはずのカトリが一歩、前に現れる。


 カトリは軽く息を吸い込んだ後に。


 「そこまでだ。武器を収めろ、愚か者どもが。アトリ、お前もだ。天下のドレスデ商会ゆかりの者が往来で武器を出すとは何事だ。しかも相手は丸腰の子供、恥を知れ」


 カトリは大声で叫んだわけではなかったが、その声を耳にした大市場を行き交う人々は誰もがカトリの姿を見た。

 そして、カトリは細い肩に背丈ほどもある長矛を軽々と担いだ。


 (ねーちん。いっつも武器、持ってるし…)


 アトリが疑念に満ちた目でカトリを見つめてる。


 「うおっほん!!」カトリは故意に大げさな咳払いをして、これを制した。


 「ところで小僧、お前の名は何と言ったか?」


 カトリは速人に視線を移した。速人は跳躍して月面宙返りを決める。

 速人は寸胴のような体型の上に手足が短いので、どうにもコミカルな動作になってしまうのが玉に瑕である。


 パチパチパチパチ…、


 速人が着地した後にはカトリとアトリ、そしてラッキーたちから拍手をもらった。


 「俺の名は、宇宙美少年チャンピオン最有力候補!!不破速人だッ!!!趣味は料理。そしてヌンチャクは俺の青春だ!!」( ← 言ったもん勝ち )


 カトリはどう答えてよいかわからず黙ったままになっている。

 しかし、妹のアトリはすぐに突っ込んで来た。


 「馬鹿野郎が!!おめーが宇宙美少年何たらなら、アタイらは美少女姉妹か、コラ!!」


 アトリは赤面しながら真っ向から反論した。

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