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14 狩猟祭①

 教会での四人暮らしが始まって、もうすぐ二ヶ月という頃。


「すげぇ人だかりだな!」

「おいしそうなにおいがする……」

「毎年お祭りになると、これくらい人が集まるのよ」


 秋のよく晴れた日に、リザはカイリーとロスを連れてファウルズの街に降りていた。

 日常の買い出しの際などは紺色のワンピースを着ているリザだが、今は神官の制服ではない普通のブラウスと足首丈のロングスカートを穿いているし、チャコールグレーの髪もいつもよりちょっとおしゃれにまとめていた。


 いつもは少々にぎやかな程度のファウルズの町の広場は、いつになく大勢の人で溢れていた。

 出店が並び昼食になる料理を売っているので、ロスの言うようににぎやかなだけでなく腹の虫を刺激するような芳香があちこちから漂っている。


 今日は、ファウルズの町で年に一度開かれる狩猟祭の日だった。


 狩猟祭では、狩りが得意な者たちが弓矢を手に馬に乗り、丘陵地帯の奥にある森に行って獲物を仕留める。

 この時季の森にはよく肥えたシカやウサギ、ハトなどが大量に棲んでおり、それらを仕留めて獲物の軽重を競い、また加工した肉を保存食にして寒い冬に備えるという目的もあった。


 この狩猟祭に狩人としてエントリーするのは主に、ギルドに登録する傭兵たちだ。

 どうやら密かに賭けごともされているようで、誰が一位になるかを予測しているという。ただ、金を賭けると賭博扱いになり注意を受けるので、賭けるのは肉や嗜好品などだという。


 広場には、エントリーした狩人の名前が書かれたボードが立てられている。名前は去年の順位が反映されているようで、賭けをする人はこれを見つつ勝敗予想するそうだ。


 ……そして一覧の欄外である新規参入者の枠に、アーチボルドの名があった。


「あいつ、目立つのはあんまし好きじゃないっぽいけど、ギルドの仲間かなんかに無理矢理ペンを持たされて名前を書かされたらしいな」


 ボードを見上げながらカイリーが楽しそうに言うので、リザは苦笑した。


「そのわりには、朝からやる気に満ちていたわね」

「売られた喧嘩は買うし、やるならところんやるタイプだからな。おれならアーティに賭けるよ」

「賭けごとはだめよ?」

「分かってるっての」


 へへっ、と笑うカイリーは、最近リザへの態度も丸くなった。

 それはそれでいいことだと思いつつ、いつまでカイリーのアーチボルドへの甘え状態が続くのだろうかというのは、リザの中での密かな疑問の一つだった。









 狩猟祭のメインイベントである狩猟ゲームは昼過ぎから始まるので、リザたちは屋台を回って焼き鳥やバンズを買って腹ごしらえして、「ゲームはこちらで行われます!」という案内の声を聞いてぞろぞろと町民たちの流れに乗るように移動した。


 ロスは途中で脚が疲れたと言うので、リザが抱っこしてあげた。……普段アーチボルドはロスはおろかカイリーさえ片腕で抱き上げるが、リザでは四歳のロスを両腕で抱えるのが精一杯だった。


 丘を越えた先には観覧用のシートが敷かれた場所があり、好きなところに座って見学できるようになっていた。

 そして森の入り口にはゲームの参加者たちがおり、アーチボルドの姿もまたそこにあった。


「おーい、アーティ! 頑張れよ!」


 恥じらいがない年頃のカイリーは大声で呼び、ロスも「アーティ!」と呼んで両手を振った。

 すると、馬の鞍の確認をしていたアーチボルドが振り返ってこちらを見てきた。


 今日の彼は鎧を着ておらず、革製のジャケットと乗馬用ブーツを身につけていた。

 いつもは腰のベルトにナイフや剣などを提げているが、ゲームの規定で狩猟用の弓矢以外の武器を持ち込めないので、腰回りはすっきりしていた。


 ハニーブロンドの髪は、獲物を狩る際に邪魔にならないように後頭部でざっと結わえている。前髪も上げているおかげでいつもより彼の顔がよく見え、こちらを見ると表情を少し緩ませて手を振った。


 カイリーとロスがぶんぶんと手を振り返すが、ロスを抱っこしているリザでは手を振れない。

 だが一瞬でもと思ってロスを支える左手をさっと離してその隙に素早く振ると、アーチボルドは一瞬動きを止めたがこちらにも振ってくれた。


 参加者が馬に矢筒を付けて弓を手に鞍にまたがったので、リザたちは空いているシートに座り、開始を待つことになった。


 ゲーム参加者は全員男性で、二十名ほどいた。その中でもアーチボルドは体格に恵まれている方のようで、その姿は遠くからでもよく見えたし、危なげなく馬にまたがる姿は凜としていた。


 ドン、と太鼓の音が鳴り響き、参加者が一斉に馬の腹を蹴る。すぐに皆の姿はスタート地点から消え、森の中に消えていった。


 森といっても、馬で走れないほどうっそうとした場所ではない。タイミングがよければリザたちがいる場所からも、矢を射る姿が見えるそうだ。


「……馬に乗って矢を射るのって、難しそうだわ。アーティはそういう経験もあるの?」

「分かんね。でもあいつ乗馬も得意らしいし、ボウガンも普段からよく使ってた。なんとかなるんじゃないの?」


 そう言うカイリーはのんきなもので、隣のロスも「アーティならだいじょうぶ!」と謎の太鼓判を押している。もうこの二人の中では、アーチボルドが勝利することが確定しているようだ。


 ……だが、子どもたちの勘は馬鹿にできないものだとリザはすぐに悟ることになる。

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