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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第三章

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第25話 本性 3


 俺の言葉に、憑虎君は首を傾げて眉をひそめた。


「ほう、運び屋である貴様が挑んでくるか?」

「ああ。挑むさ」

「竜騎士ではなくなった貴様を犠牲に後ろを逃がす算段かな? それはそれで良いとは思うが。あのプラークタイガーから逃げ切れるならな」

「そうじゃないさ。憑虎君ベイン。俺が、やると決めただけだ」


 その言葉に、憑虎君は頬を膨らませて笑う。


「ははは、良いのか、こんな、手と足の力が多少強いだけの、少し早いだけの運び屋一人に任せて。全員で掛かって来ても構わんのだぞ」


 挑発なのか、見下しなのか。

 どちらかは分からないが、正直、もはや、どうでもよかった。


 そんな思いを抱く俺の横に、サキが来る。

 

「アクセル……私も……」


 戦うというのだろう。

 けれど、その必要はない。だから、


「良いんだ。サキ……。俺は目的を定めたから。君は、バーゼリア達を頼む」

「……分かりました」


 背後の守りを頼むと、サキは笑顔の消えた真剣な表情になって頷きを返してきた。

 これならば、確実に、バーゼリアたちを守ってくれるだろう。

 そう思っていると再び笑い声が聞こえた。 

 

「くく……本当に一人で来させるつもりか。良いのかな、魔術の勇者よ、自殺を認めても」

「良いんです。貴方はもう、死神に魅入られましたから」


 そんな憑虎君の言葉にサキは冷たい視線と共にそう答えた。


「ふむ? 神頼みかな? まあ、いずれ神は全て滅ぼすからどうでもいいが。……そんな御託はいいから、さっさと来るといい、運び屋アクセル。先ほどからずっとこちらを見ているから、来たいのだろう? 貴様にそんな勇気があるのならな」

「そうだな。……じゃあ、やろうか、憑虎君」


 言いながら俺は今の職業の力で、少しだけ過去を運ぶ。

 

 ただし、運ぶのは力だけじゃない。


 以前の精神性を運んで来て思い出す。

 魔人を相手していた時の精神も、動きも、感情も、全てを過去から運び出して心にセットする。

 今までの俺は運び屋だった。職業とやる事は変わらない。

 ――けれど、今だけは、その精神性だけは過去のそれと同じで挑もう。 


 歯が軋むほどの食いしばりで、少しだけ平静さを取り戻したあと、俺は右手に剣を、左手に槍を構える。それは昔も行っていた戦闘の型で、


「……ああ。かつての竜騎士アクセルとして、お前にを運びに行くぞ、憑虎君ベイン……!」




「……ッ」


 目の前からアクセルから発せられる殺気が、より濃密になった事に、サキは即座に気付いた。


「やっぱり、こうなりましたか。まずいですね、本当に……」

「た、確かに、あの憑虎君の強さはまずいです」


 こちらの言葉にシドニウスも同意しようとしてくるが、意味合いが違う。

 自分が言っているのは憑虎君の力の方ではない。


「そちらではありません。アクセルの方です」

「え?」

「久々に怒っていますからね、あれ……」 


 そんな自分の言葉に同意したのは、倒れ伏しているバーゼリアだ。

 彼女も、あの、アクセルを知っている。


「……う……ん。凄く怖い頃のご主人だ……」

「ああなっては、止まりませんね」

「と、止まらないとは……」

「言葉通りですよ。目的を果たすまで、……勝つまで、動き続けるということです。死ぬまでね」「なん、ですと」


 こちらの言葉に相当驚いたのか、シドニウスは数秒、口をパクパクとさせた。

 そして、ようやく出た声のは、


「それは、無謀だ……」


 呆気にとられたような、そんな言葉だった。


「今の彼は竜騎士じゃ、ないんでしょう……。いくら何でも古代種と混じった魔人の相手に勝利できるなんて……」


 シドニウスはアクセルの職業について知っている。前職の強さも知っているから、そんな言葉が出るのだろう。

 サキとしては、彼の言いたい事も分かる。けれど、


「勝つよ……ご主人は……」

「そうだな……。親友なら、やるだろうな」


 バーゼリアと、デイジーにとっては違った。無論自分にとっても違うのだが。


「ば、バーゼリア殿? デイジー殿? な、何を根拠にそんな事を……!」


 目を見開きながらのシドニウスの問いに、バーゼリアは弱弱しい声で、しかし確信をもって告げる。


「根拠は、あるよ。ボクは、ご主人の相棒だもん……。ご主人の力は知っているもん……!」

「ああ、俺もアクセルの親友だ。親友だからこそ、アイツの何が何でも進む力は知っている……!!」


 デイジーも同じだ。


「それは……感情です。理由になっていません……! そんな理由では、彼を死なせることに……!」


 シドニウスは彼女たちの言葉に逆らうように声を荒げる。

 勝算が無いのに挑ませようとしているように見えたからだろうか。言葉尻を捉えればそうかもしれないが、


「はいはい。かなり瀕死なんですから、言い合いはそこまでですよ、皆さん」


 ぱんぱんと拍手しながらサキは言った。

 ここまでだ。これ以上は、話をするだけでは意味がない。実物を見なければ、分からないことだってあるのだ。だから、


「ハイドラもコスモスも、騎士団長さんも。貴方達は、毒を喰らってるんですから。アクセルがアレを倒すまで、体中に必要以上に回さない事と、体力を回復させることに集中しなさい」

「サキ殿……」

「ま、私としては、傷ついてもらうのが嫌なので、まずいと言いましたけどね。アクセルがやると決めたのですし、私の夫が勝つのは当然なのですから、私は心配などしてもいませんが。根拠など、それで充分と言って置きましょう」


 などといって、興奮しつつある毒を瀕死者たちを諫めていると、

  

「グル……」

 

 アクセルから距離を取っていたプラークタイガーが、改めてこちらに来た。

 こちらを包囲しようとする動きで、ぐるりと囲んでいる。


「さて、そうですね。……アクセルがどんな怪我で帰って来ても迎え入れられるように、ここはしっかり守りましょうか」


 と、サキが氷の鎧靴を装備していると、


「むううう……ボクも……やる……」


 バーゼリアが腕に炎を灯し、無理やり立ち上がろうとしていた。

 しかしその炎はとても弱弱しく、今にも消えそうな物で、


「動かないで下さい、ハイドラ。毒が回りますし、それでは戦えないでしょう」

「で、でも……」

「満足に動けないんだから、寝ていなさい。周りの事は、私が何とかします」


 と、サキは優しくバーゼリアの額に触れ、体を横に倒した。


「まあ、帰る場所を守るのも妻の仕事ですからね。この位は余裕ですとも」


 言いながら、サキの眼光は鋭いモノへと変化する。

 張り付いた笑顔すら消える、そんな表情に。


「とはいえ、ここから言う事は、妻としての活動とは別ですが……」


 サキは周囲を見た。

 周りから接近しつつあるプラークタイガーは多い。

 

 どれも、弱っているバーゼリアやデイジーたちを狙っているのはよく分かる。

 だから、サキは立ち上がり、くるりと身を一回、片足を伸ばした状態で回した。


 それだけで、彼女たちを囲うようにして、氷で円形の線を引かれた。

 半径十何メートルかはあるその線を指さし、サキは言う。


「……そのラインを越えられると思わない事です」


 そんな言葉も気にせず、一匹が氷の線を踏んだ。その瞬間、

 

 ――パキン

 

 と、その一匹が凍り付いた。

 完全に氷付き、もはや動かなくなる。

 

 それを見て、僅かに怖気づいたのかプラークタイガーは数歩たじろぐが、

 

「……!」


 お互いに顔を見合わせ、こちらの背後にいる二人を見て舌なめずりした後、再び来ようとする。 近寄って来て、再び数匹が凍るが、その者の体を乗り越えてでも、入ってこようとする。


「言葉は分かるくらいの知能はある筈ですが。なるほど、挑みに来ますか。……良い度胸だ」

 

 それを見たサキの周囲に黒い冷気が生まれていき、その表情も更に変わる。

 怒りの熱すら見える眼光をたたえたモノに。


 当然だ。友を傷つけられて怒りを抱いているのは、アクセルだけではないのだから。


「――これ以上、私の友人達に触れられると思うな、下郎ども……!」


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