第67話 ヤミバイト
2018年9月2日、日曜日、午後二時。
私は新潟駅からすぐそばにあるファミレスの前に立っていた。
空を見上げると、重たそうな雲が広がっているのがビルの間から見える。
まだ残暑は続いていて、気温も湿度も高い。
汗のせいで着ているゴスロリ服に肌がペタペタくっつくような気がして少し気持ちが悪かった。
私は緊張していた。
すごく緊張していた。
これからバイトの面接なのだ。
人生初めてのバイト、その面接なんだから、まだ高校一年生の私が緊張するのも当たり前だ。
ゴスロリにぴったり合うお気に入りの痛バッグ(合成革、2980円)の中にはしっかりと履歴書も入っている。
バイトの面接でゴスってのもどうかなとは思ったけど、これは私のアイデンティティだから譲れない。
私は意を決してファミレスのドアを開けた。
入ってすぐに、異様な恰好をしている女性がいて、あ、この人だ、とすぐに分かった。
なにしろ彼女は真っ黒な修道服に身を包んでいたからだ。
頭までベールで覆っていて、顔の輪郭まで白い布で覆っている。
ザ・修道女、みたいな恰好だ。
そしてその向かいの席には、白いシャツにワイドパンツを履いた女性がもう一人。
長い黒髪のポニーテールで、すごくかっこいい顔をしている女の人だ。
修道女の方が、私を見るとニコッと優し気に笑って手招きした。
「こっちこっち。あなた、大平さんでしょ? あはは、ほんとにゴスなのねえ」
修道女は笑って言う。
「あのお……」
「座って座って。はい、じゃあ面接を始めます。でもその前に飲み物でもとってきましょう。ドリンクバー注文してあるから、私がとってくるわよお」
多分私が一番年下だから、それは私の仕事だろうな、と思った。おごってくれるという年上の人に飲み物を頼むわけにはいかない。
「いえ! 私が持ってきます。みなさん、何がいいですか?」
「じゃあ私、コーヒー」
修道女が優しい笑顔で答え、もう一人の女性はハスキーな声で、
「私もコーヒーで」
と言った。
★
「さて、飲み物が揃ったところで自己紹介しましょう。私は朱雀院彩華。見ての通り、修道女よ。S級探索者もやってるわ。スキルはもちろん回復系が得意だけど、案外接近戦のスキルももってるわあ。よろしくね」
次に私の隣に座っている黒髪ポニーテールの女性が、ハキハキした、でも女性にしては低い声で答える。
「美船藍里と言います。20歳です。B級の探索者やってます」
「よろしくね。で、あなたも自己紹介」
言われて私はビッと背すじを伸ばした。
「あの、私、大平深夜と言います! 15歳、高校生です!」
それを聞いて彩華さんはふふふ、と笑い出した。
「深夜ちゃんって言うの? あなたのトリッターのID、闇姫だったものね。そっか、深夜をひっくり返して闇姫なのねえ」
「はい! 月光に照らされ、闇に輝く王女、闇姫ですっ」
「ふふふ、かわいいと思うわあ」
彩華さんは笑っているけど、藍里さんの方は呆れた顔で私を見ていた。
いいの、そういう目にいちいち傷ついてたらゴス趣味なんてやってられないんだから!
と思ってたら、ポニテの藍里さんが彩華さんに聞いた。
「っていうか、いいんですか、修道女の方なのに、ゴスの人を雇うって……。ゴスって、なんか悪魔的なイメージが……」
「いいのよお。私、そんな敬虔なクリスチャンじゃないから」
敬虔なクリスチャンじゃない修道女なんているのかなあ?
まあいるのかもしれない。
なにしろ私は高校一年生で、世の中のことは何も知らないの。
これから学んでいくんだから!
「で、トリッターで募集したら藍里ちゃんと深夜ちゃんが応募してくれったってわけ。仕事は簡単よ。私、ダンジョン探索者のための塾をやってるんだけど、ちょっとそれの助手やってほしいの」




