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パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件  作者: 羽黒楓


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第63話 死体が四つ

「話を聞くと、ずいぶん危険な賭けをすることになる。山伏女、お前が私や虹子のためにそんな危険な橋を渡る必要はないさ」

「でも、死んじゃうんですよ!?」


 羽衣(うい)がふわふわの髪の毛を振り乱して叫んだ。


「大丈夫です、私とお姉ちゃんががんばってきっと助けてみせます!」


 羽衣(うい)の決心の言葉に、トメは静かに笑う。


「妹山伏(やまぶし)、お前、今いくつだ?」

「え? 16歳ですけど」

「ふん。子供だからそんな簡単に言うんだ。ヒロイックな行動に出る自分に酔ってるだけさ。このままほっとけば死体は二つ。私と虹子。だが、お前らが無謀な戦いに赴けば、死体が四つになるだけだ。地下二十階? そこで神の座にある存在を倒す? 無理な話だ」


 確かに、可能性が低い賭けであった。

 特SSS級の零那(れいな)と言っても、地下十六階までしか潜ったことがない。

 それでも、人類の記録に残っている最高記録が地下十二階。それも、透明化と俊足のスキルを持つものが準備に準備を重ねたうえで、一切モンスターと闘わず、逃げに徹して打ち立てた記録である。

 まともにモンスターと闘いながら地下十六階まで潜れた零那(れいな)羽衣(うい)は規格外の能力ではあるのだが。

 それでも、地下二十階まで到達し、そこにいる神を倒すなど、おおよそ現実的な話ではなかった。


 トメは、まだ煙を立てている鍋を見ながら、ふっと諦めの表情で笑う。


「私には大事な家族がいる。大好きなお父さんとお母さん、それにお兄ちゃんとお姉ちゃんたち。あと、妹……。もう会えないのは悲しい。だが、私を助けるために他人が犠牲になったら、私の家族たちはもっと悲しむだろう。私が探索者の道を選んだ時、家族もそれなりの覚悟を持ったはずだ。まあ、できるところまで抗ってやろうとは思うがな」


 虹子は脱いでいた防刃チョッキを身に着け始める。


「はあ……。地下二十階かあ……。想像もできないよ。私、地下六階で死にかけたんだよ? それを、地下二十階とか、絶対無理だよ。さすがのお姉さまでも……無理だと思う」

「でも、虹子さんを見捨てるなんて私には絶対無理よ!」


 伊良太加念珠(いらたかねんじゅ)を手が痛くなるほど握りしめて零那(れいな)は叫んだ。


「できる! 私と羽衣(うい)が力を合わせて、絶対に地下二十階まで連れていく!」

「そうしてもらえたら嬉しいよ、お姉さま。でも……私、地下六階でアルマードベアを見たとき、すごかったの。絶対かなわないって一目見て分かって、もう怖くて怖くて……。今も思い出すと身の毛がよだつくらいだよ。もっと深い階層に行けば、もっともっと怖いモンスターがいるんでしょ? 私……死ぬのも怖いけど……でも地下二十階まで潜って神様と闘うなんて……ははは、無理だよぉ……。うう……怖いよぉ……」


 虹子は目頭を押さえる。

 零れ落ちる涙を押しとどめようとしているのだ。

 ダンジョンの壁がほのかに放つ弱い光が、虹子のさらさらなショートボブを照らしている。

 その髪の毛は、震える虹子の身体に合わせて細かく揺れていた。


「もー! なんで私の人生、こうなんだろ……。私はさ、トメさんと違って、父親は最初からいなかったし、母親は男から男へ遊び歩いていてさ。私なんかずっとほっとかれて……。給食費も出してくれないから、給食の時間肩身が狭くてさあ。へへへ。で、生きていくために、身体を売るか命を賭けるかを天秤にかけて、命を賭ける道に進んだんだ。普通の感覚じゃダンジョンの探索者になろうとか思わないもんね。死亡率が一番高い職業だから。生命保険にもまともに入れないんだよ。ま、私が死んだって残す相手もいないけど」


 そこにトメが横やりを入れた。


「郵便局のかんぽ生命なら入れるぞ。私は満額2000万円入ってる」

「まじで!? 私も入っておけばよかったな。へへへ、お姉さま、だからね、私、ずっと頼れるお姉さまがいたらなあ、って思ってんだよ。初めて探索者になったとき、すっごく尊敬している先輩がいたんだけど、その人もモンスターにやられて……命は無事だったけど、探索者としては再起不能のケガをして引退しちゃった」


 それを聞いてトメがピクッと身体を反応させたが、何も言わず黙っている。

 虹子は続ける。


「もう連絡もとってないなあ。どうしてるかなあ。で、お姉さまと出会って……すごく嬉しくて……私の人生これからだ、なんて思ったんだけどなあ。ここで終わりかあ。ふーーーー……。ね、お姉さま」


 虹子は涙を拭いて笑顔を見せる。


「私たちのかたきをとって。状況証拠からすると、私たちに呪いをかけたのは彩華(あやか)さんかもしれないけど、確たる証拠もないし、そうじゃないかもしれない。それを調べて。きっと、私たちを……殺したやつを……見つけ出して、やっつけて……」


 そのときだった。

 零那(れいな)たちがいる小部屋の扉が、きしむ音を立てながらゆっくりと開いた。


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