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パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件  作者: 羽黒楓


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第58話 歪んだ十字架

 零那(れいな)彩華(あやか)と別れ、地上に帰還したあと。

 山田トメは、連泊しているホテルに戻ってきた。

 新潟市内にある、沼垂ダンジョンにほど近いホテルである。

 このホテルは最上階が大浴場になっている。

 しかもそのお湯は近辺の天然温泉からタンクローリーで運んできているのである。

 トメは温泉好きなので、このホテルが最高にお気に入りだった。


 真っ黒なニンジャ装束のまま、大浴場の更衣室に入る。

 ほかのお客がびっくりした目で見てくるが、「ふふふ、このかっこいい私にみんな注目しているな」と思って少し誇らしい。

 ニンジャ装束を脱ぐと、ロングタオルで身体を隠しつつ浴場へ。

 人と比べて少し……いやかなり胸が小さい気がするので、そこだけは恥ずかしくて隠してしまうのだ。

 裸になってしまうと、さっきと違う意味で注目を浴びている気になる。

 実際、浴びていた。

 なぜなら、トメの身体は、あまりに美しく鍛え抜かれていたからだ。

 身長162センチ、しなやかな筋肉をうっすらと脂肪が覆っているその身体は、素人からでも一目でただものではないとわかるほどの肉体美だった。


 前の方はタオルで隠しているが、その後ろ姿が織りなすアウトラインの美麗は素晴らしいものだった。

 臀部はきゅっと引き締まり、細い腰、発達した肩の三角筋。

 過剰でない程度の筋肉が、完璧なまでの曲線を描いている。

 それも当然である。

 トメは日本に10人しかいないS級探索者のうちの一人なのだ。

 一流アスリートの身体を間近で見る機会などあまりない一般人の視線を集めるのも仕方がないことだった。


 トメはカランの前に座り、持ってきていたお気に入りのシャンプーで髪を洗おうとしてふと鏡を見た。


「ん? なんだこれ……?」


 左の鎖骨の下あたり、なにかアザのようなものがあった。


「うーん、どっかでぶつけたかな……」


 ダンジョンの中でモンスターと闘い続ける探索者にとって、身体にアザがつくのはいつものことである。

 だが、なんだか違和感がある。

 そのアザは妙なかたちをしていた。

 直径10センチの円形をしていて、中にはなにか……なんだこれ、象形文字のようなもの。歪んだ十字架のようなものも描かれている気がする。

 これは普通のアザではない、とトメはすぐに気が付いた。


「まずいな……どこかで呪いでも受けたか?」


 S級探索者としての直観がトメの脳内に警鐘を鳴らす。

 ダンジョンの探索中に、モンスターから呪いを受けることはよくある。

 軽いものならトメ自身で解呪できるが、強いモンスターの呪いとなると、専門のクレリック職や解呪師の手を借りなければ解呪できない。


「ちっ、このあたりの解呪師なんて知らないぞ……」


 トメは新潟をホームタウンとしていない。

 普段は静岡の実家に住んでいるので、そこの近くにあるダンジョンに潜ることが多く、人脈も静岡周辺に限られている。


 今回は虹子の遭難事故を知り、特SSS級だという山伏(やまぶし)女にも興味が湧いたので、久しぶりに新潟へ来たのだ。

 具体的には、つららとのことがあった二年ぶりである。


 新潟周辺といえば、虹子のホームタウンである。


「虹子に頼るしかないか……」


 虹子とは特に仲が良いというわけではないし、頼むのは気が重いが、呪いをそのままにはしておけない。

 それに、あの女山伏(やまぶし)も、なにか解呪の方法を知っているかもしれない。

 あとは……。


 朱雀院(すざくいん)彩華(あやか)の顔を思い浮かべる。

 彩華はSS級の探索者であり、修道女でもある。

 きっと解呪の方法も知っているだろうが、トメは彩華(あやか)ともそんなに知り合いではないし、どこかつかみどころのないやつだから、借りは作りたくない。


 どうせ借りをつくるなら、単純な性格の虹子の方がまだマシな気がする。


「はあ……めんどくさいな」


 焦っても仕方がない。

 人間はダンジョンの中でしか特殊能力を使えない。

 解呪にしても同じだ。

 だから、今すぐにどうこうはできない。

 

 S級探索者らしい落ち着きで、トメはゆっくりと温泉を楽しんだ。


     ★


 トメが借りている部屋は大きめのツインルーム。

 もちろん、誰かと泊まっているわけではない。

 荷物が多いので、広い部屋にしているのだ。

 というわけでもう一つのベッドは荷物置き場にしている。

 風呂上がりのトメは大きなキャリーバッグの中から、細長いものを取り出す。

 サイクロン式のスティック型掃除機だ。

 以前使っていたものだが、念のため予備に持ってきていたのである。

 

 300万円した目立製の特注掃除機は壊されてしまったので、今後はこれを使うしかない。

 パワーは劣るし、本体とノズルが一体化しているタイプなので取り回しも良くない。

 

 

「まあ……こいつでもなんとかなるだろ」


 そう呟いて、トメは掃除機にサイクロンのカプセルを取り付けた。

 その時。

 震動とともに、テーブルの上に置いてあったトメのyPhoneが鳴った。

 


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