第57話 ポイント
「教え子って?」
零那が聞くと、彩華が答えてくれる。
「うん、私ねえ、十年くらい前から探索者塾やってるんだよお。探索者になりたい子を募集して、基本から教えてあげるわけ。ほら、私は見ての通り聖職者系の回復魔法や浄化魔法を得意にしてるんだけど、基本ならいろんなスキルを教えられるから」
「十年前からですか。あの、失礼なことを聞くかもしれませんけど、彩華さんって今、おいくつですか?」
「15歳!」
「いや真面目に」
「女の子に年を聞いちゃ駄目だよお」
そこにトメがポツリと言った。
「アラサーだろう……25歳過ぎて自分を女の子呼ばわりする女って私は好きじゃないな」
虹子が呆れた顔をする。
「そんなこと言って……。だいたい、山田さん、あんた今いくつだっけ」
「苗字で呼ぶな! 幻影の掃除人だ! 人は私をそう呼ぶ」
〈誰かそんな呼び方している奴いたっけ?〉
〈いないぞ〉
〈自分で言ってるだけ〉
〈山田トメなんだからいいじゃん〉
〈トメってかっこいい名前だよ〉
〈小顔で透明感のある美人なのに名前がトメってとこに萌える〉
コメントを聞いて、虹子が自分を指さす。
「あれ? 私も透明感あると思うけど」
〈ニジーも美人だけど透明感はない〉
〈むしろあるのは存在感〉
「ふふふ、存在感のある美人……それはそれで悪くないね! で、山田さんっていくつなんだっけ?」
「幻影の掃除人だ! 私は24歳だから、まだ女の子」
「来年になったら25歳なら女の子でOKと言い出すに2000ポイント賭けるよ」
「そのポイントってなんのポイントだ」
「ニジーポイント。十万ポイント貯めると私に似顔絵描いてもらえる権利がもらえます。ほら、これ、さっきの幽霊ちゃんを描いた絵」
さきほど描いた少女漫画風のイラストを見せる虹子。
それを見てトメは少し目を細め、
「……かわいい……少し、欲しい……十万ポイントだな? 約束だぞ」
そんな会話を聞いて、零那は少しあきれてため息をつく。
「話題がずれちゃってるわよ……。それで、その幽霊の子なんだけど……。彩華さんは知っているんですか?」
「ええ、わからないけど、多分。ほら、この泣きぼくろ、珍しいじゃない?」
彩華はイラストを指さす。
たしかに、ヤミの左目の下に、小さなほくろが二つあった。
羽衣が描いた似顔絵にもそれは描かれている。
大きな特徴ではあった。
「じゃあ、彩華さんならどこの誰かわかるんですね!?」
「まあ、たくさんの生徒がいたからねえ。ちゃんとは覚えていないけど。ノートPCにデータ入ってるけど、今は持ってないよお? いったん地上に帰らなきゃ」
「わかったら、ぜひ教えて下さい! 連絡先教えるんで!」
「うん、いいわよお。それにしても虹子、そんな手にひっかかって死にかけたのねえ。ぷぷぷ、ちょっとおまぬけさん」
少し馬鹿にしたように彩華が言うと、虹子が口をとがらせて反論した。
「だって! CUREMAZE社だよ!? まさか地図アプリがハッキングされてるなんて思うわけないじゃん!」
「ぷぷぷ。そんなアプリになんか頼っているからいつまでもS級なんだよお? はやく私と同じSS級にあがってきなさいよ? 私が教えてあげようかしらあ?」
「いらない! お姉さまに教えてもらうから!」
いやまあそう言われても山伏の技術と、虹子が扱っている魔導銃の技術は別ものだしなあ、と零那は思う。
いや待てよ、あれをこうしてああすれば、もう少し虹子さんもパワーアップできるかも?
「まあいいわあ。虹子の顔も見れたし、今日のところは私も地上に帰ることにするわあ。通信で教えている子の中に新潟の子もいるから、ついでに稽古つけてやることにするかなあ」
零那たちにとっても、ヤミの姿を模写するという目的は果たせている。
「そうね。虹子さん、私たちも帰ろう。さっきのコメントの人、虹子さんにDMよろしくね!」




