第49話 羽衣の戦闘
そのとき。
羽衣はあることに気が付いた。
「あれ? お姉ちゃんがいなくなった……」
あたりを見回す。
さっきまでいたはずの零那、虹子、それにヤミの姿がない。
そのかわりに、三匹の妖怪がそこにいた。
巨大なカブトムシ、それにカマキリ。
さらには。
地面から半身を出してゆらゆらと揺れている細長い魚みたいなのもいる。
「これ……チンアナゴ……?」
とはいってもその全長は150センチほどもあって、チンアナゴとしては超巨大だ。
ここはダンジョンの地下四階、海の底でもないのになぜチンアナゴが?
どう考えても妖怪の類だろう、と思った。
でも、お姉ちゃんたちはどこに行ったんだろう?
「お姉ちゃーん! 虹子さーん! どこー?」
叫んでみる。
「ギャシャシャ」
巨大なカブトムシが、カブトムシのくせに二足歩行し、身体の裏を見せながら不快な声をだした。
「オロローン、オロロロローン」
チンアナゴもうなる。
「キャシャキャシャキャシャ!」
巨大カマキリも声を出す。
そして、カマキリがそのカマ……カマでいいのかな、蟷螂之斧とかいうし、斧なのかな、とにかくそれを構えながらゆっくりと羽衣に近づいてきて、羽衣の肩を斬り付けるつもりなのか、ゆっくりとそれを振り下ろしてきて……。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
とっさに羽衣は九字を切った。
持っていた錫杖を掲げる。
錫杖の頭部に光り輝く五芒星が浮かび上がった。
「セーマン!」
羽衣が叫ぶと、五芒星は弾かれたように発射され、カマキリに襲い掛かる。
「キシャァ!」
カマキリはなんと、その五芒星をカマで叩き落した。
五芒星は床に突き刺さり、ブシュッ! という音とともに消え去る。
この攻撃を真正面から跳ね返すなんて。
そんじょそこらの妖怪じゃない。
これは、本気をださなきゃいけない、と羽衣は思った。
カブトムシはいきなりの攻撃にびっくりしたみたいで、二足歩行のまま壁際に後退する。
チンアナゴはカマキリの背に隠れるように動いた。
あれ、チンアナゴって下半身が床に埋もれていると思ってたけど、動けるのか。
まあいいよ、とにかくこいつらを倒してお姉ちゃんと合流しないと!
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
羽衣は再び九字を切る。
「オン マユラ キランデイ ソワカ!」
羽衣は叫ぶ。
すると、錫杖の頭部分に青い光の球が現れ出る。
「おいで、アルフス!」
羽衣の言葉に反応するように青い光の球が美しい孔雀へと姿を変えた。
「この妖怪どもをやっつけて!」
「ニャオ?」
孔雀のアルフスは困惑したようにカマキリを見、そして振り返って羽衣を見る。
「なにしてんの、アルフス! 行けっ!」




