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パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件  作者: 羽黒楓


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第48話 羽衣の画力

 羽衣(うい)の描いた絵は、すばらしいものだった。


「おお……わが妹ながら……うまい」


 思わず零那(れいな)は呟いた。

 人物のデッサン、という枠にはとてもじゃないがあてはまらないレベルだった。

 微細な鉛筆のタッチ、立体感があってまさにリアルそのものだった。

 ただリアルなだけではない。

 丁寧に描かれたその絵は、どこかもの悲しげな、それでいてとても気味の悪い印象を与えてくる。

 見ているだけで零那(れいな)の肌がぞわぞわっと粟立つ。

 虹子もその絵を見て、自分の肩を抱いた。


「なにこれ……すごい……まるで絵じゃなくてここに実際にいるみたい……」


〈やばい、うまい〉

〈妹ちゃんすげえ! プロ並みの絵だ〉

〈ってか俺等には見えてないけど、これがみんなには見えてるってこと?〉


 幽霊少女、ヤミも興味津々なようすでその絵を覗き込む。

 そして叫んだ。


「キャーーーーーーーーーーーッ!!」


 そこに描いてあったのは……。


「なにこれ! 私じゃないじゃない! これ、これ……虫? カブトムシ? しかも裏から見たカブトムシ! キモイキモイキモイ無理無理無理無理ヤバいヤバいヤバい無理無理!」


 羽衣(うい)は自分の描いた絵とヤミを見比べる。



「え? けっこう上手く描けたと思うんだけど……それなりにそっくりだし」

「そっくりじゃないよ! 私カブトムシじゃないし! しかもオスだし! 私はメスだから!」


 すかさず虹子が突っ込む。


「いやいや女の子って言いなさい。メスってそんな言葉つかうもんじゃありません」


 零那(れいな)は絵をじっくりと見る。

 マジでどっからどう見てもカブトムシ(裏)である。

 キモすぎて鳥肌が立つ。

 

「せめて上から見た絵にしてほしかったわ……羽衣(うい)、これ、どういうこと?」

「どういうこともなにも……ヤミちゃんの似顔絵だけど」


〈うっそだろ〉

〈え、もしかしてこれ人間の顔を描いたつもりなの?〉

〈妹ちゃんってもしかして脳のどこかがアレしちゃってる系?〉


「いやいやもう、羽衣(うい)ちゃんったら。絵がうまいのはわかったから、ちゃんとこの子を描いて!」


 虹子が言うと、羽衣(うい)はキョトンとした顔で、


「え。だから、ちゃんと描きましたけど」

「……もしかして、本気で言ってる?」

「はい」

「ちょっと待って、ちょっと待って。じゃあ、こっちが私の描いた絵ね。で、こっちが羽衣(うい)ちゃんが描いた絵。まあ私もうまい方だと思うけど、上手い下手は別にして。上手いとか下手とかじゃなくて、どっちがヤミちゃんを描いた絵としてふさわしいと思う?」


 虹子が自分の描いた少女漫画チックな女の子の絵と、羽衣(うい)が描いたカブトムシ(裏)の絵を並べる。


 すると羽衣(うい)は、うーん、と唸って、


「虹子さんの絵もすごく上手いとは思いますけど……。でもほら、漫画チックだから……。うーん、でも私の描いたヤミちゃんの絵も、それなりに漫画的な要素いれてるんじゃないですか。あ、でも顎のあたりとかもっとうまく描けたかな」


 ヤミが地面をだんだんと踏み鳴らした。


「顎! アゴ!? ど、どこがアゴなの、このカブトムシのどこがアゴなの!?」

「ほらここ」

「そこは腹! カブトムシの腹! じゃ、じゃあこの、このトゲトゲの足は!?」

「あ、これだけじゃちょっとさみしいと思って猫ちゃんのヒゲを書き足してみたんです。いいでしょ、かわいいでしょ?」


 零那(れいな)と虹子、ヤミの三人は黙って顔を見合わせた。


「……ねえ、お姉さま。羽衣(うい)ちゃんって心に闇を抱えてる? もしくは病み。小さい頃に頭を打ったとか」

「ないと思うけど……。姉としても、これはショックだわ……。一度お医者の先生に見てもらったほうがいいかも……」

「……お姉さま、ちょっともういちど試してみようよ。ね、羽衣(うい)ちゃん」


 虹子はスマホを取り出して適当なファッションモデルの写真を羽衣(うい)に見せた。


「この人描いてみて」

「……? はい、いいですけど?」


 さらさらと鉛筆を走らせる羽衣(うい)

 できあがったのは、普通にうまい人物画だった。


「……写真だとちゃんと描けるのね」


 零那(れいな)が言う。

 虹子は今度は自分の顔を指差して、


「じゃあ、私の顔も描いて!」


 描かれたのは、ちゃんとした虹子の似顔絵だった。

 ツヤツヤのショートボブ、虹子のクリクリとした大きな瞳。

 特徴を捉えていて、そっくりだった。


「どういうこと……?」

 

 その時、零那(れいな)はあることに気がついた。

 なるほど、と思った。

 まったく、羽衣(うい)はまだまだ修行不足だからなあ。


 そして首にかけていた法螺貝を口に当てると、思い切り吹いた。


 プオオオオーーーーンツ!

 プオオオオオーーーーーーンッ!


「な、なに急にどうしたのお姉さま?」

「妖怪よ。近くにいるはず」



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