第47話 スケッチブック
零那はスケッチブックを開く。
そして、幽霊少女、ヤミを見た。
目が合うと、ニコッと笑うヤミ。
うーん、かわいらしい顔をしているわね。
手の込んだ編み込みのツインテール、大きい目に小さな鼻、唇は少し薄くて、まさに薄幸の美人、って感じだ。
まあ死んでいるんだから薄幸には違いないけど……。
黒を基調としたゴスロリ衣装も似合っていて、正直、部屋に飾っておきたいほどだ。
「じゃあ描くわよ」
零那と同時に、虹子と羽衣もさらさらと鉛筆を走らせ始める。
〈れいなちゃんの絵楽しみ〉
〈ニジーも絵に自信ネキみたいだしな〉
〈いや、ういちゃんが一番うまいと予想〉
〈みんなで見比べられるように、インサタとZにアップされてるゴスロリ自撮りを自動収集するプログラム組んでる〉
「助かるわ」
★
そして三十分がたった。
ヤミはモデルをやるのに飽きたのか、今はもう地面にぺったりと座り込んであくびなどしている。
幽霊でも眠くなるんだろうか?
「さあて! みんなできたぁ?」
虹子の言葉に零那と羽衣はうなずく。
「じゃ、ひとりずつ見せてもらいましょう! だれから行く? お姉さまは?」
「うん、うまくかけたと思うわよ」
「どれどれ……うっ!」
零那の描いた絵。
それはとても、……微妙だった。
鉛筆で描かれたサイドポニーのゴスロリ少女。
それはそうなのだが……。
「悪くない……けど……」
虹子も顔をしかめる。
〈うーん、下手ではない……けどなんか人を不安にさせる絵柄だな〉
〈左右の目の高さが絶妙にずれてる〉
〈あれだ、技術はあるんだけどセンスがないというか〉
ヤミもその絵をちらっと覗き込む。
「……えー。まあ、下手じゃないけど……。私、こんな顔してるかなあ? もう少しこう、かわいげがあるはずだけど……。いや、下手じゃないけど」
零那はがっくりと肩を落とした。
幽霊にまで気を遣わせてる……。
自分の絵とヤミを見比べると……。
まあ悪くないけど、似顔絵としてはたしかにちょっと……。
これで同定は難しいだろう。
「うーん、もっとうまく描けると思ったんだけどなあ……。じゃあ、次は虹子さん見せてよ」
「うん! まあまかせて! 私はプロ級だよ!」
その虹子の人物画は、確かにプロ級だった。
見事なものであった。
〈うまい〉
〈まじか〉
〈ニジーってこんなに絵がうまかったの!?〉
「ふふーん」
得意げな顔をしている虹子。
確かに、その絵はみごとなものであった。
完全にプロ級であった。
いますぐに少女漫画誌で連載を持てるほどの画力だった。
だけど。
「でも虹子さん、これって……」
羽衣がおずおずと言う。
〈うめー!〉
〈うまい〉
〈まじでプロなんじゃない!?〉
〈でもさ、これ……〉
〈絵柄が一昔前の少女漫画w〉
〈ちゃおじゃん!〉
〈目がでけー!〉
そう、完全に幼女向け少女漫画の絵柄であった。
目の大きさが顔の半分ほどを占めている。
うまいのだけれど、どう見ても記号化された女の子。
「いやいや虹子さん、うまい! うまいけど、これ、似顔絵じゃないですよね」
「えー? いいじゃん、うまく描けたと思うけど」
「いや、うまく描けてますけど、絵柄がちゃおなんですよ……。このイラストをもとにして人を探せと言われても……」
零那も呆れて言う。
「いや、これ漫画のキャラじゃん。そんなに特徴とらえてないし……。上手なんだけど、なんか方向性が違うというか……」
ちなみに、幽霊少女ヤミはその絵を見て、
「きゃー! かわいい! 私、この絵好き!」
などと言っている。
「うーん、私のも駄目かー。じゃ、最後の希望は羽衣ちゃんの絵だね!」
虹子はそう言って、羽衣の持っているスケッチブックを受け取ると、それを開いた。
「これは……! 羽衣、あんたって……」
零那は驚いて声を上げた。




