第34話 三点バースト
必死の形相で逃げてくる幽霊少女。
それを追いかけてくるのは、異形のモンスターだった。
というよりも、機械的な姿をしているモンスター。
〈うわ、鋼鉄蜘蛛だ!〉
〈危険レベル4!〉
〈人類が勝てないレベルのモンスターだ〉
〈ニジー、無理しないでれいなちゃんに任せるんだ!〉
〈危険レベル4のモンスターを倒した人類はいないんだぞ〉
〈※ただし山伏は除く〉
そいつは、八本足の蜘蛛のような姿をした、多脚戦車だった。
モンスターと言っても、魔界から呼び出されたような悪魔や怪物ばかりではない。
このような、機械でできたモンスターも存在するのであった。
「うわー! ロボットだ! かっこいいー!」
零那はのんきにそう言う。
対して、アサルトライフルを構える虹子の額には汗が浮かぶ。
S級の虹子にとって、危険レベル4のモンスターとの戦闘はまさに生死を賭けたものだった。
その上、苦手にしている幽霊までこっちに向かってダッシュしてくる。
幽霊少女の表情といったら!
青白い肌色、目の下には小さな泣きぼくろが二つ、なびく編み込みサイドテールの先からは禍々しいオーラが放たれている。
虹子の全身から脂汗がタラタラ流れるのも無理はないのであった。
だが、今は幽霊どころではない。
この幽霊少女がただちに生命を脅かすものでないことは知っていた。
だから、アサルトライフルの照準を鋼鉄蜘蛛に向ける。
引き付けて、引き付けて――。
「今だ! 虹色魔弾!!」
引き金を引く。
タタタン!
銃声が三発、連続で発射された。
三点バーストと呼ばれる打ち方である。
アサルトライフルは何十連射もできるのだが、そうすると弾丸の威力で銃身が跳ねてしまい、狙ったところに当たらなくなる。
だから、三連射をワンセットとして射撃するのが基本のひとつなのだ。
虹色の軌跡を残しながら、発射された弾丸が鋼鉄蜘蛛の胴体にあたる。
そこは鋼鉄に見える装甲で覆われていて、弾丸をすべて弾いてしまった。
八本の脚をシャカシャカ動かしてこちらに向かってくる鋼鉄蜘蛛。
その上、幽霊少女が前と同じように虹子の背後にぴたっとくっついて、
「ぎゃーっ! 怪物が! 私を食べようとしてるー! 助けてー!」
と叫ぶ。
虹子の耳がキーンとなった。
「うるさーい! ちょっと黙ってて!」
思わず叫び返した。
「虹子さん、脚狙おうよ、脚! 関節のとこ! 装甲がないわよ!」
零那のアドバイスに従って、鋼鉄蜘蛛の脚関節を狙う。
タタタン! タタタン! タタタン!
三点バーストが当たる。
ガキン! と鋼鉄蜘蛛の脚が一本、折れた。
「よし、三点バーストでいける!」
「三店方式!?」
「お姉さまも黙ってて!」
さらに射撃を続ける。
そのたびに虹子の体内から魔力が消費され、力が抜けていく。
だが、相手は危険レベル4のモンスターなのだ。
魔力をすべて焼き尽くしてでも攻撃しなければならない。
なにより、自分がきちんと戦力になることを零那と羽衣に見せたかった。
今のままじゃ、戦闘においてはただのお荷物にすぎない。
それは、いやだ。
「行けぇ! 虹色の魔弾!!!!」
タタタン! タタタン! タタタン!
虹色の弾丸が鋼鉄蜘蛛の脚に命中していく。
もう一本、脚が関節部分から弾丸にふっとばされた。
だが、まだ六本の脚が残っている。
「もっと、もっと……虹色の魔弾!!!!!!! うおあああああああああああっ!」
虹子は咆哮をあげる。
気合を入れてさらに魔力を弾丸に込める。
脳みそから酸素がなくなった感覚。
ふわっと意識が飛びそうになるのをなんとか抑えて、
「行けぇぇぇぇっっ!」
鋼鉄蜘蛛はもう虹子の眼前にいた。
命の危機を感じて、ゾッと震えが背中に走る。
だが逆に、この近さなら三点バーストなんて必要ない。
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!」
虹子は叫びながら引き金を引きっぱなしにする。
タタタタタタタタタタタタタタタタタ!
弾丸が連続発射され、それは鋼鉄蜘蛛の脚に当たるたびに小爆発を起こした。
ついに、鋼鉄蜘蛛の三本目の脚が吹っ飛んだ。
だが、そこまでだった。
残り五本の脚でこともなげに接近してきて、残ったその長い脚を振り上げ、虹子に向けて振り下ろしてきた。
もう、虹子に魔力は残っていない。
危険レベル4のモンスターをここまで破壊できた事自体は、褒めるべきことだった。
なにしろ、人類はいまだ、このレベルのモンスターを倒したことがないのだから。
そう。
ただ一人、零那を除いて。
だが。
人類史に残る、二人目の危険レベル4モンスター討伐が、いまカメラの前でなされようとしていた。
ふわふわな髪の毛をしたちっちゃくて小柄な女の子の山伏が叫んだのだ。
「臨兵闘者皆陣烈在前!」
羽衣だった。




