接続出来ないの?
日が沈み始めた街中で、私は小さな溜息をついた。ダーツさんとは既に分かれて近くにはもう居ない為、今は一人だ。
「ダーツさんに恩返ししなきゃなぁ……」
ニュービーでは無くなった剣と、腰の後ろで交差させてある、新たに増えたふた振りの短剣に触れながら呟く。
これらは、私だけのお金で買った物では無い。
事は、ダーツさんに私がシキの妹だとバレた後まで遡る。
いくら身持ちを固くしようが、お馬鹿の所為で全くの無意味だった事に、私はその場で泣き崩れた。と言っても実際に泣いた訳じゃ無い。だけど塞ぎ込みはした。
そんな私にダーツさんは、凄く元気付けようとしてくれたのだ。
兄にリアル絡みの事はあまり言わない様忠告しとくとか、掲示板での騒ぎもなんとか落ち着かせるとか、何かあったら相談にのるとフレンド登録もした。
終いには、私が武具店にいた事を思い出して〈鑑定〉アビリティ持ちだからと買い物に付き合うと申し出た。
その時には持ち直してた私だったけど、〈鑑定〉アビリティに興味を惹かれてお願いした。でもそれが失敗だった。
なんて言うか、ダーツさんは初心者に色々手解きするタイプの人だったのだ。
所持金の問題でランクを落として武器を買おうとした私に、数ランク上の物を持ってきて「こっち買った方が当分買い替えなくて安く済むぞ」と足りない金額まで出し、「狼対策にサブ武器持ってた方がいいぞ」と左手がフリーなのも気付いて短剣をふた振りも購入。
防具まで買いだしそうになって慌てて止めに入った時も「売り物無くて金余りまくりだから気にするな」と、最初に声を掛けられた時に言っていた事なんかそっちのけで、無駄に高ランクな防具を買い揃えようとしたぐらいだ。
もし止めなかったら、私の出で立ちは今日始めた初心者とは思えない物になっていただろう。……武器は既にそんな気もするが。
ともかくそんな事があり、私はダーツさんに大きな借りを作ったのだ。
本人は貸しだとも思ってなさそうで気にするなとは言っていたけど、はいそうですかという気にはならなかった。
一応、お礼代わりにフードの下を見せてくれと言われたから見せて、なんか偉く納得気に満足してたけど、流石にそれで終わらすのはなぁ。
とはいえ、私がダーツさんのお礼に出来そうな事ってなんだろ……。
日が沈み始めてはいるがリアルの時間はまだ21時頃な為、メルトレレスの街中はプレイヤーでごった返していた。むしろフィールドにいた人達も街に戻り、日が昇っている時間帯より人が多い気がする。
そんな人が多い中で考え事をしながら歩くのは危ないかなと、私は往来の邪魔にならない様に石段の隅っこに座り込んだ。
パッと思い付く事はやっぱり、〈調合〉で回復アイテムを作って渡すってぐらいかな。でも、どれもアビリティレベルが1だし時間かかっちゃいそう。
コールでは無くモーションでメインメニューを呼び出し、アビリティウインドウを表示させる。
〈剣Lv3〉〈受けLv2〉〈疾駆Lv1〉〈潜伏Lv2〉〈感知Lv5〉〈探索Lv2〉〈識別Lv1〉〈採取Lv1〉〈調合Lv1〉〈抽出Lv1〉
あぁ……また感知が上がってる……。現状知った後だと素直に喜べない……。
意外なのは〈潜伏〉と〈探索〉が上がってる事だけど、〈調合〉とかはやっぱり1か。
明日はアイテム採取して調合を試してみようと予定を立てて、私はプレイヤー情報を表示しようと操作していく。
プレイヤー情報はステータス画面の様な物で、自身のステータスの他に称号、習得アビリティ、使用可能アーツの確認が出来る。
ただ、プレイヤー情報だけで色々確認出来るんだけど、アビリティレベルやアーツ熟練度が見れないのが不便な所だ。
ここら辺の不便さどうにかならないかなぁと、内心愚痴をこぼしながらプレイヤー情報に目を通し、私は訝し気に眉を寄せた。
《四季メグル
称号:駆け出し冒険者
Lv.1
HP100% MP100%
SP ──0
STR──3
VIT──3
INT──5
MND──4
DEX──58
AGI──27
称号:
[駆け出し冒険者] [注目の的] [歩む者]
サブ称号:
[アインツと友達の] [クリティカルを体験した]》
HPやMPってパーセンテージ表示なんだとか、称号の一部ちょっと待てとか突っ込みどころあるけど、一旦置いといて。ステータス、偏り過ぎじゃない?
確か平均数値は5で、DEXとAGIは個人だったはず。
そうなると私のステはほぼ平均以下って事になるけど、自分が平均より高いとは思って無かったからいい。
問題はDEXとAGIだ。特にDEXがダブルスコア並みに抜きん出てる訳だけど、平均がわからないから高いのかどうかもわからない。
今のところ、ダーツさんとの〈感知〉の話を元に、恐らく高いんだろうなぁぐらいの認識ではあるけど。
「wikiになんか乗ってないかな……」
とりあえずなにかしら情報を手に入れようと、外部リンクに接続しようとして───。
「ぇ、WAOって外部リンクに接続出来ないの?」
ポップしたヘルプを見て驚きに呟く。
どうやら運営としては、外部情報を使用せずに冒険して欲しい意向らしい。
接続出来るのは、運営が用意したゲーム掲示板とAuthorシステムである冒険譚等、公式サイトに関わりのある場所だけの様だ。
接続出来ないものは仕方ないので、私は掲示板を覗く事にし、絶対に私関係だと思われるスレタイを全力スルーしながらワード検索していく。
そう時間を掛けること無く、知りたい事が知れそうなスレッドを見つけた。
初期ステータスに関してのQ&Aが出た時に出来たスレッドの様で、初期DEXとAGIの数値を言い合い自慢してるものみたいだ。
それをザッと見て行き、スレッドで見つけた最大値がDEXは27でAGIは36。
スレッドの中で、AGIは反射神経が良いと高くなるんじゃないかと言う仮説が立っていて、DEXは数字が散けている訳でもなく、いまいちわからないといった反応だった。
私は黙ったまま、掲示板の画面からプレイヤー情報の画面に視線を移す。
そこにある数値がかわってる訳も無く、DEX58のAGI27の数値が見て取れた。
AGIはそんなもんかなって思える数値だけど、DEXはなんだこれである。
私は小さく唸りながら、思わず右手の平を見つめる。
そこには、現実と謙遜無いグラフィックで表示された、あたかも生身の様な──。
「まぁ、低いよりかはいっか……」
高い理由がわからないと言うのが若干気持ち悪いけど、高くて何か問題があるわけでも無い。
ステータス説明の通りなら、DEXの数値補正は〈調合〉に効果的でもあるし、気にし過ぎて楽しめなくなるのは馬鹿らしい。
「よし! 明日は〈調合〉試そっと」
私は意気込んで石段から立ち上がると、ログアウトする為にギルドハウスに向かう事にした。
レベル1
SP ──0
STR──3
VIT──3
INT──5
MND──4
DEX──58
AGI──27
〈剣Lv3〉〈受けLv2〉〈疾駆Lv1〉〈潜伏Lv2〉〈感知Lv5〉〈探索Lv2〉〈識別Lv1〉〈採取Lv1〉〈調合Lv1〉〈抽出Lv1〉
称号:
《駆け出し冒険者。
まだ見ぬ光景を夢見る冒険者。まだまだ駆け出しだけどね》
《注目の的。
数多くの人に同時に見つめられた。いやん》
《歩む者。
至る為に歩き始めた者。それはまだ一端にも満たない》
サブ称号:
《アインツと友達の。
一なるモノとフレンドになった証》
《クリティカルを体験した。
一撃の快感。癖になりそう》




