逃げ出した的なお話
【田崎光の場合】
「また遊びに行っていいですか?」という質問に頷いてしまったため、藤宮さんから「今週の土曜日遊びに行っていいですか?」と聞かれた時、どうしても断る言い訳が思い浮かばず無言で頷いてしまった。
女が怖い俺としては、藤宮さんに嫌われたいという一心で、かなり冷たく接しているつもりなのに、なぜか藤宮さんには好意的に受け取られているらしく、いつも変わらずニコニコしている。
それでも、前世失敗した俺の本能が、なんとなく藤宮さんのほほ笑みに違和感を感じてしまい、俺は藤宮さんに警戒心をとけないでいた。
土曜日、なぜか母が藤宮さんが来ることを知っていて、問いただすといつの間にか藤宮さんとLINEをする仲になっていたらしい。
母親を懐柔してまで俺に近づこうとする彼女に怯えながら、藤宮さんが来るのを待っていると、来客を知らせるチャイムにビクッとする。
仕方なしに玄関まで迎えに行くと、いつもの可愛らしい笑顔を浮かべる藤宮さんがいた。
部屋へ案内してソファに座るが、何を話したらよく分からなくて気まずい沈黙が部屋を支配する。
(着信音)
救いの着信音とばかりに電話を受けると、友人からで、貸してた漫画をいますぐ返して欲しいとの連絡だった。友人は俺の家まで取りに行くと言うので慌てて自分が持っていくと言って強引に電話を切った。
「藤宮さん、ゴメンね。実は友達に借りてた本をすぐに持って行かないといけないから、しばらく待ってて貰えるかな?」
「はい。」
「本とかゲームとか勝手にしててくれていいから。」
そう言って、本を紙袋に詰めて、逃げるように部屋を出た。
【藤宮椿の場合】
田崎家に行って少しでも田崎くんと仲良くなる計画を立て動き出した私は、まず親友の亜美と一緒に着ていく洋服を買いに行った。
洋服を買いに行く理由は単純で、私がロリータファッション愛好者なためそういう洋服しかほとんど持っていないからだった。
ロリータファッションで会いに行っても良いが、引く確率の方が圧倒的に高いため、誰もが好みそうな清楚系カワイイ系を親友の亜美に選んで貰う予定だ。
私が選ぶとどうしても趣味に走ってしまうため、まともな感覚な人に選んで貰うことにしたのだった。まあ、自分のような人間と親友をしている時点で、まともかはかなり怪しいが、ファッションに関しては私のよりも一般の感覚を理解しているはずなので大丈夫だろう。
そして翌日、私は友人に選んでもらったピンクのカットソーと白のレースのスカートを着て、戦場へと赴いた。
家のチャイムを鳴らすと、田崎くんのお母さんがものすごい笑顔で迎えてくれた。
田崎くんの部屋へはいって座ったものの、元々コミュ障気味の私はどうして良いか分からず、変な沈黙が続いてしまう。
そこへ田崎くんのスマホがなり、電話をすると田崎くんは出て行ってしまった。
「本とかゲームとか勝手にしててくれていいから。」
という言葉だけ残して。
残された私は本当に困ってしまった。それは一人にされてしまったということではなく、私の好きなものばかりに囲まれていることに対してだ!
誘惑に負けないように、何と無くスマホをいじって気を紛らわせるが…
5分で禁断症状が!!!
きっとしばらく帰って来ないから、適当なところでやめれば大丈夫!と自分に言い訳をして、机の上に無造作に置かれたゲームのソフトを手に取り、ゲーム機の電源をONにした。




