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帝国の人質として連れて来られた王女は、敵国の皇太子によって聖女の力に目覚める  作者: 清川和泉
第3部 幸せのために

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第61話 母親からの打ち明け話

ご覧いただき、ありがとうございます。

「クレア、お話があります」


 国王である父親から、縁談話を持ちかけられた当日の夜。

 クレアは、クレアの母である王妃ノーラに古城の母の私室へと呼び出され、母と向かい合い椅子に座っていた。ハーブティーの爽やかな香りが、沈んでいる気持ちを和らげてくれるように感じた。


「それは、どういったことでしょうか」

「あなたの力についてです」


 クレアは目を見開いた。


「あなたはもうすぐ嫁ぐ身ですから、力について説明をしておきたいのです」


 思わずクレアの思考は止まりそうになったが、おそらく今を逃せばもう二度と母とこの話をすることはできないだろう。

 だが、クレアはどうしても別件で話をしておきたいことがあった。


「お母様。その前に、私の乳母のメリッサの話をしてもよろしいでしょうか」

「……はい。メリッサには、誠に気の毒なことをしてしまいました……」


 メリッサについては、クレアがユーリ王国に到着した当日に話をしていた。

 帝国側がメリッサのことをどう伝えていたのか気にかかったが、どうやら彼女が亡くなった当時、すぐにメリッサが亡くなったことやその原因、弔い場所などを細かく記した書簡が送られてきたそうだ。


 ユーリ王国側は、その件に関してはメリッサに対しての配慮への感謝の辞を送り対応をしたらしい。


 元々、メリッサは不本意な理由で連れて来られ敵地で自給自足生活を強いられた上に、最期には流行り病で亡くなった。

 メリッサのことを想うと、今も酷く胸が締め付けられて目の奥がツンとする。


「メリッサのことはあなたの責任は一切ありません。全ての責任は、当時ブラウ帝国の宣戦布告を真に受けてあなたたちを疎開させることを決定したわたくしたちにあります」


 ノーラは真摯な視線を向けた。


「お母様……」

「メリッサ自身にもう謝罪はできません。ですが、わたくしたちはメリッサへの謝罪と感謝を、この先も忘れることはないでしょう」


 この言葉に救われた気がした。

 ずっとクレアの心中で燻っていたメリッサへの罪悪感が自分一人だけではなく、誰かと共有することができて心が少しだけ軽くなったように感じたのだ。


「実は、わたくしの侍女のポーラは、メリッサの妹なのです」

「そうだったのですか!」


 驚いたが、言われて腑に落ちたところもある。確かに、両者は目元がそっくりだし雰囲気も似ていた。

 ポーラに初めて会った時のあの感覚はそのためかと思った。

 

「はい。ポーラは、姉は帝国で自分の使命をやり遂げた、私の誇りだと言ってくれました。……わたくしはその想いを一生忘れずに生きていきます。……だからどうかあなたは自分を責めないでください」


 瞬間、向かいに座る母親の胸に勢いよく飛び込んだ。


「お母様……」

「ごめんなさい、クレア。本当にごめんなさい」


 ノーラはクレアを力強く抱きしめて、背中をさすった。クレアはしばらく嗚咽を漏らしていたが、とうとう堪えきれなくなって涙が溢れだす。


 クレアはスラムの様子を思い浮かべるが、もう一度ノーラに視線を戻した。


「お母様。お伺いしたいことがあります」

「何でしょうか」

「私の創造の力についてです」


 ノーラは、思わず両手で口元を塞いだ。


「それも知っていたのですね……」

「はい」


 クレアは、これまでの経緯を全て打ち明けた。


「そうだったのですね……」

「申し訳ありません。国の秘術といえる力だったのかもしれませんが、消失してしまいました」

「いいえ、よいのです。むしろそれでよかったのかもしれません」


 ノーラによると、「創造の力」はユーリ王国の前身であるカサブランカ王国の王族、それも若い女性に受け継がれてきた力らしい。


「カサブランカ王国の王族は、再生の魔法を使用できるのではなかったのですか」

「それも知っていたのですね。はい、その通りです。再生の魔法は今から五世紀ほど前に実現した魔法でした。ですが、かつてのカサブランカ王国の王族らは周辺国からの脅威を防ぐために、かつての王国の宮廷魔法使いらが再生の魔法を下地にありとあらゆる研究をして『創造の力』に変化させたといいます」

「そうだったのですね」

「はい。ですが、その力を使用できる才能を持つものが生まれる確率はごく僅かしかありません。……このことは極秘なのですが」


 ノーラは、更に詳細をクレアに説明した。


「実は、我が国の地下には力を受け継ぐための魔法陣を描いた部屋があるのです。王女であれば幼い頃に皆その部屋に連れて行き力を授ける儀式を行います」

「そうだったのですね……! ですが、それは本当に王族でなけれはいけないのでしょうか」

「ええ、伝承ではそのようになっていますが、過去に試さなかったわけではないようです。ですが、やはり王族のみが持っている何かがあるらしく、王族ではない人々では失敗に終わったそうです」


 そして更に母親の話によると、自身の娘である王女らも皆二歳になった頃に慣例通り儀式を行ったそうだ。

 それはマーサを含めて行ったらしいが、唯一クレアだけが魔法陣の反応があったらしい。


「そうだったのですね……」

「このことは、我が国きっての極秘事項です。決して誰にも知られないように対策を行ってきたのですが、何故かブレア帝国の皇帝に知られてしまっていたようです」

「皇帝に……」


 これで、全ての糸が繋がったように思う。


「クレア、あなたには苦労をかけましたね。……嫁ぎ先であなたが平穏に暮らせるように尽力をするつもりです」

「お母様……。ありがとうございます」


 自分がこれから嫁ぐ相手であるボアラ公爵のことを思うとまだ未知数なところも多いので暗雲が立ち込めるようだったが、その思いを振りはらおうと思考するとふとあることが過った。


「創造の力は、一度失ったら復活することはできないのでしょうか」

「そうですね……。そのように聞いてはおりますが、唯一数世紀ほど前にブレア帝国に移住を強いられた創造の力を二度開花させたご先祖様がいらっしゃったとは聞いています」

「創造の力を二度……?」

「はい。ただ伝承のみで記録はほとんど残っていないのです」

「左様でしたか……」


 どこかおとぎ話のように感じたが、クレアはまだ希望は残っているのではないだろうかと漠然と思ったのだった。

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