第55話 告白
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クレアがスラムで倒れた後、アーサーはクレアを抱き抱えてすぐに彼女を馬車に乗せて発車させた。
第二宮へと戻ると、彼は自らクレアを彼女の私室へと連れて行った。
第二宮の専属医の見立てによると、外傷もなく何かの病にかかっているわけではないらしい。
疲労の蓄積によるものと診断され、周囲の献身的な看護もあってか倒れてから三日後にクレアは目覚めた。
「クレア、本当によかった……」
目覚めた時はアーサーが看護をしており、クレアの手を握っていたら目覚めたのだ。
「アーサー様……」
「君が目覚めてくれて本当によかった……」
クレアが倒れ目覚めるまでのこの三日間は、この世の終わりが訪れたのかと思うほど心中が凍りついたように感じながら過ごした。
「アーサー様、……ご心配を……おかけしました……」
「君は一切悪くない。君が無事ならそれでいいんだ」
「アーサー様……」
クレアはそっと微笑むが、その笑みは力がないように感じる。加えてどこかこれまでとは彼女が纏う雰囲気が変わったようにも思う。
「ゆっくり養生して欲しい」
「ありがとうございます、……アーサー様」
それからクレアは徐々に体力を戻していった。
二日後にはベッドから起き上がれるようになり、翌日からは日常生活が送れるようになった。
なるべくアーサーは毎食をクレアと共に摂るようにし、近ごろ街で流行っている話題や皇宮での出来事などを話題に会話をし、クレアはそのどれも興味深そうにあいづちを打ちながら聞いてくれるが、食事の量は以前の三割ほどしか摂れていない。
顔色もすぐれないようであるし、何よりも時折何かを考え込むような表情をするのが気にかかった。
「クレア」
「はい」
「もしよかったらこの後、私と中庭を散策しないか」
クレアは目を見開いたが、そっと微笑んだ。
「はい、もちろんです。……実はアーサー様にお話をしたいことがあるのです」
「そうか。では食事が終わったら中庭にいこう」
「はい」
アーサーはクレアが何か重要なことを打ち明けたいのだと感じたが、どんなことでも受け止めようと思ったのだった。
◇◇
三日月が照らす第二宮の中庭で、アーサーとクレアはベンチに腰掛けていた。
クレアは力なくアーサーの肩にもたれ掛かっている。
十分ほど沈黙が続いた後、クレアが意を決して口を開いた。
「アーサー様。私……力が、創造の力が使えなくなってしまったようなのです」
「……そうか」
クレアの鼓動は先ほどから高鳴っていた。
目覚めてから三日後、自立して生活することができるようになってからクレアは綺麗な水を創り出そうと、いつものように私室で創造の力を使おうとした。
だが、何も出現しなかったのだ。何度も試みてみたのだが、結局今に至るまで一度も力が発動することはなかった。
クレアは青ざめた。あの不思議な力は無限ではなかったのか。
あの力のおかげで伝染病を治めることができたのだが、力が無くなってしまえば再び病が広がってしまうかもしれない。
そう思うと焦るのだが、それでも力が発動することはもう無かった。
「力がなくなったのは君の責任ではない。君はこれからも、俺の婚約者としてここで暮らして欲しい」
その言葉は、クレアの喪失感で溢れた心に優しく浸透していった。
(こんなにも優しい言葉をおかけしていただけるなんて、私は今とても幸せ……)
心から欲する言葉をかけてもらえたと思うと、クレアの瞳から涙が溢れていた。
「クレア、俺は君が好きだ」
「アーサー様」
アーサーはクレアと口付けを交わした。
庭園の噴水が、魔法のライトで何色にも照らされて色鮮やかだ。
クレアの心中は幸福感で満たされていく。
「私もアーサー様が好きです」
「クレア……」
それから、二人はしばらくベンチにもたれかかって時を過ごした。
まるでこれから二人の身に起こることを予感しているかのように、少しでも同じ時間を共有しようとしたのだった。




