第49話 月見草
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そして、第二宮へと戻り夕食後に改めてクレアとアーサーは話し合うことにした。
場所は執務室にしようと思ったのだが、月見草が咲いている中庭へと変更し移動する。
「わあ、綺麗ですね」
月見草は庭の隅の隅でひっそりと咲いていたが、夜にしか花を咲かせないという白色の花は月の明かりに照らされており幻想的である。
「ああ、とても綺麗だ」
熱い眼差しがクレアの瞳に向けられる。
思わず頬が熱を帯びていくが、綺麗なのはあくまでも月見草と言ったのだと冷静を保つように努めた。
「先ほど宮廷魔法使いに書簡にて意見をもらったんだが、月見草は月の魔力を感じ取りやすいらしいな。それに、月の光は強い魔力を含んでいると聞いたことがある」
人払いをしているためか、アーサーは普段よりも少々くだけた言葉遣いをした。
満月が綺麗な夜の庭園で二人きりでいるとあの夜のことを思わず思い出してしまいそうだ。
「そうなのですね。……確かに何か力が溢れてくるような、そのような気がします」
だからなのか、無意識的に気がついたら屈んで月見草を指で撫でていた。
すると、突然眩い光が周囲を照らした。
まさかと思いクレアは自分の手のひらに視線を向けると、そこには光の残滓が残っていた。
「この光は、あの時と同じ光か……?」
アーサーは目を大きく見開き、クレアの手元に視線を向けた。
クレアも自身の自分の手元を見やった後、先ほど触れた月見草が気になり確認すると──
キラキラと光り輝く月見草に、思わず目を奪われた。
月見草の色は白色からピンクへと変色しており、纏う雰囲気からも先ほどの月見草とは別もののように感じる。
「綺麗……。アーサー様、もしかしら、この月見草なら万能魔法薬が生成できるかもしれません」
「ああ。だが、この月見草は一体どういう状態なんだ……?」
疑問を口にしたと同時に、付近からぽきりと枝が折れるような音がした。
「誰だ!」
咄嗟にアーサーが声を掛ける。
アーサーの隠密であるクロや護衛騎士が周囲の警部に当たっているので滅多な人物は忍びこむことはできないはずであるが、アーサーは懐に手を当てて臨戦態勢を整えた。
「──申し訳ございません」
物陰から現れたのは、クレアの侍女であるリリーであった。
リリーはクレアがアーサーと庭園を散策している様を遠くから眺め二人に不穏な事態が起きていないかを常にチェックしていたはずだ。
リリーは深く頭を垂れ、自発的には一言も発しなかった。
「頭を上げてよい」
「はい。ありがとうございます、殿下」
瞬間、クレアは顔色が蒼白になり自分自身が血の気が引いていくのを認識した。
(先ほどの光を……リリーに見られてしまったわ…。どうしましょう、なんて説明をすればよいのか……)
アーサーはチラリとクレアの方に視線を向けると、小さく頷く。
「先ほどの光を見たか」
「……はい」
「そうか」
ここで、下手に誤魔化すことはあまり得策とはいえないだろう。
何よりもアーサーは敢えて「光をみたか」と具体的に聞いたのだ。それを誤魔化すことは虚偽の申告をするということとなり、リリーの立場が悪くなることに繋がりかねないからだ。
アーサーはそれは分かっているのだろうが、状況が状況なだけに白黒ハッキリとさせたいのだろう。
「……ここで見たことは他言無用だ。分かれば行ってよい」
クレアは思わずアーサーの方に視線を向けた。
アーサーはリリーに特になんのペナルティを負わせず解放すると言ったのだ。それはおそらくリリーならば信用に足りると判断したからなのだろう。
リリーは一礼をしてから立ち去ろうとしたが、立ち止まってクルリとこちらへと向き直した。
「失礼を重々承知の上で、お伺いをしたいことがございます」
アーサーは真っ直ぐとリリーに視線を向けた。リリーは顔を背けはしなかったが、緊張をしているのか全身が小刻みに震えている。
「なんだ」
「……クレア様は、『創造の力』をお使いになられるのでしょうか」
リリーの言葉の意味をどう受け取ってよいのかが分からず、クレアはしばらく身を固めていたが、「創造」という言葉が徐々に飲み込めてくると、何か自分の中で絡まっていた糸が解けていくような感覚を覚えたのだった。




