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帝国の人質として連れて来られた王女は、敵国の皇太子によって聖女の力に目覚める  作者: 清川和泉
第3部 幸せのために

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第48話 アーサーと再び街へ

ご覧いただき、ありがとうございます。

今話から第3部が開始となります。1日開きましてすみません!

 それから三日後。

 アーサーの入手した情報によると、トスカの状態は芳しくはないとのことであった。


 幸い意識はあるのだが、高熱が続いているために回復魔法を使用できる宮廷魔法使いが動員されて、魔法をかけ続けているらしい。

 だが、回復魔法はあくまで体力を回復させる効果があるのみで、病の原因を直接取り除けるわけではないために病状の改善には至っていないのだ。


 また、例の魔法の香水の効果は直接病には効かないらしい。

 というのも、皇宮の敷地内に建てられた「魔法研究所」に所属する研究員に香水の解析を依頼したところ、香水の効果は宮廷魔法使いが使用する回復魔法とほぼ同等、もしくは香水の方が若干上との解析結果がでたからだ。


 なので、体力は回復するのだが病状の改善には至っていないのだった。

 ちなみに、先の分析結果を把握した上で実際にググモ熱の患者に使用してみたところ、やはり体力は回復したのだが、病状の改善にまでは至らなかったとのことだ。


 加えて皇都の外れにあるスラムでは、依然としてトスカが感染しているググモ熱が流行しているのだが、最低限の食糧を配給するのみの処置しかなされていないままらしい。

 

 クレアはアーサーが街へ赴く手筈を整えるまで、自分ができることをして過ごそうと皇太子妃教育にいっそう励み、第二宮で働いている者へ庭園で育てた薔薇を使用したクッキーやポプリを作り配るなどをして過ごしていた。

 彼らに手渡す際に、皆に喜んでもらうことができたことをクレアは嬉しく思う一方で、トスカやスラムに住む人々のことが気に掛かっていた。


 そして、クレアはアーサーと共にアンナの実家の魔法道具へと訪れた。

 二人は共に魔法の杖で変身し、それぞれナディアとリウスという偽名を用いている。アーサーは第二宮の下男だと説明をした。


「あら、ナディアさんこんにちは! あなたが持ってきてくれた水のおかげで、ご覧の通り店は繁盛しているさね! 本当にありがとう‼︎」


 マリの言葉どおり店外にはズラリと人々が列をなし、店内にも客が溢れていた。


「わあ、すごい……! 順調のようですね!」

人伝(ひとづ)てで評判が評判を呼んでね! 店としてはほとんど宣伝はしていないんだけれど、近所のお婆さんやお孫さんたちに配ったら好評で、あっという間にお客さんたちが押し寄せてきたってわけさ」


 そう言って再びマリが接客を始めると、同行しているアンナも手伝い始め、クレアとアーサーも顔を見合わせて各々できることをして手伝った。


 そして、一時間ほどが経ち客がはけるとマリはクレアとアーサーに茶を出して改めて歓迎した。

 マリはアーサーを見ると口元を緩ませてクレアに耳打ちをする。


「そちらの美丈夫は、第二宮の下男の方ということだけど、ナディアさんの恋人かい?」

「い、いえ!」

「おや、違うのかい? そうだと思ったんだけどね」

 

 この場にはマリの娘のアンナもいるのだが、アーサーの相手がアンナではなく自分だと思ったのはどうしてだろうと、ふとクレアは思ったがみるみる頬が熱くなってきたのでそれ以上考えるのはやめた。


「なるほど。病に効く魔法道具のレシピね……」

「はい。私のお祖母様が先日から持病を悪化させて寝込んでしまいまして。何かよい道具はないものかとご相談に上がったのです」

「それは大変だ! そうだねえ、うーん」

 

 ちなみに、本来の「皇女がかかっている伝染病に効く方法を探したい」という理由は混乱を招く恐れがあり伏せる必要があったので、架空の祖母の話を作ったのである。

 マリは、代々受け継がれてきた魔法のレシピが書いてある分厚い本を取り出して、パラパラと何枚かページをめくった。


「そうだ、これなんてどうだろう。これもまた原材料が分からなくて、手付かずだったものなんだ」

「そうなのですね。えっと……」


 件のページには「万能魔法薬」と書かれており、材料には「綺麗な水、月見草」と書かれていた。


「月見草と書かれているんだけどね、様々な種類の月見草や、なんならナディアさんが持ってきてくれた水を混ぜて生成してみたんだが、これまた失敗してね」


 そう言い終わった途端に、ドアベルの音が響いたので、マリと一言クレアとアーサーに断ってからアンナが店頭へと移動して行った。

 すると、アーサーは興味深そうにレシピのページを読むとポツリと呟いた。


「月見草か」


 そして、自然な流れでアーサーは椅子に座ると再び思案する。


「アーサー様。何か、心あたりがおありなのでしょうか?」

「リウス」

「……! そうでした」

「それに……、今の君はあくまで仮にだが下女で俺は下男なんだろう? もっと気やすい言葉で会話をした方が自然だと思うんだけど」

「……!」


 早速、言葉を崩したアーサーに、クレアは全力でたじろいた。


「そ、それは、その。私には少し難易度が高すぎるといいますか……」

「そうか。それなら俺の方から少しずつ崩していくが、よいか?」

「は、はい!」


 それは、あくまで市井にいる時の限定的なものであれば心臓が持つが、第二宮でもこのような様子だったら胸の高鳴りはしばらく鳴り止まないだろうとクレアは思ったのだった。

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