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帝国の人質として連れて来られた王女は、敵国の皇太子によって聖女の力に目覚める  作者: 清川和泉
第2部 ひとときの自由

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第45話 心からの叫び

ご覧いただき、ありがとうございます。

 先ほどまでの温和な笑みを浮かべていた様子とは打って変わって、ブルーノはクレアに氷のような瞳を向けた。


「それにしても、人質の王女風情が身分違いも甚だしい。どうして皇帝陛下は、お前なぞ皇太子の婚約者に指名したのだ。全く理解に苦しむ」

「ブルーノ様!」


 瞬間、イリスは扇子を口元に当ててブルーノに対して声を発した。通常なら貴族の令嬢がそのような声を上げるなどまかり通ることではない。

 だが、イリスは一切臆した様子を見せずブルーノに鋭い眼差し向けた。


「まさかイリス嬢。私に意見するのか」

「いいえ。ですが、今のブルーノ様の仰りようは、あまりにも聞くに耐えませんでしたので」

「ふん。それは、イリス嬢が何か勘違いをしているんじゃないのか」

「あら。わたくしはあなた様の言葉を言葉通りに受け取ったまでですわ。むしろ、あなた様の常識が、遥か彼方斜め上方向にあるのではなくて?」


 イリスは、真っ直ぐにブルーノを射抜くような視線を向けている。


「相変わらず口が達者だな。私の婚約者でなければとうの昔に追放してやったものを」

「あら、わたくしを追放? 果たしてそのようなこと、あなた様の力で実際に可能なのでしょうか」

「ふん、お前の減らず口を塞いでやりたいわ」

「まあ、それは褒め言葉として受け取っておきますわね。ブルーノ様がこのように褒めてくださるのは滅多にないことですから」


 クレアは、二人の烈火の如く交わされる会話に唖然としながらも、先ほどのブルーノの言葉に対して思考していた。


 何を、言われたのだろう。そうだ、人質の王女風情がと言われたのだ。

 認識すると同時に恐ろしさが襲ってきた。それはおそらく、あまり面識もなく、これまでに会話をほとんどしたことがない相手からただ否定的な言葉を言われたからだ。

 

(何と返せばよいのかしら……。そもそも、このような場面で言い返す資格が私にはあるのかしら……)


 意識が遠のきそうだったが、なんとか途切れないように気を強く持つように努めた。


「第一皇子様。恐れながら、わたくしが皇太子殿下の婚約者になることを、皇帝陛下がお決めになられたというのは……」

「なんだ、そんなことも知らなかったのか。まあ、これは私が極秘に入手した情報だがな」


(……? アーサー様が私と婚約を持ちかけたのは、あくまでもイリス様とブルーノ様との婚約が破棄されるまでの繋ぎのものだったのではなかったのかしら……)


 鈍る思考をなんとか働かせながらそう巡らせると、どうにも腑に落ちない疑問が浮かび上がったが、目前のブルーノの刺さるような視線を受けるとどうしてよいのかがわからなくなる。

 

 恐怖心が押し寄せてくるが何かを反論しなければならない。そう思うのだが、口が動かないのだ。


「兄上。先ほどの言葉は撤回していただきたい」


 いつの間にか戻ったのか、アーサーがクレアの隣に立っていた。


「生意気な、妾の子の分際で」


 クレアの心中で長いこと渦巻いていた感情が、ブルーノが投げかけた言葉により明確に姿を現した。

 自覚した途端、(ああ、そういうことだったのね)とクレアは妙に冷静に納得した。


「ひとつ、よろしいでしょうか」


 そうは言ったが、ブルーノの様子ではクレアに発言権が与えられるとはとても思えないのでブルーノの返答を待たずに口を開く。


「妾の子であることは、何か悪いことなのでしょうか」

「何っ⁉︎」


 ブルーノは勢いよく立ち上がり、大きく目を見開いた。だがクレアは物おじせずに真っ直ぐ彼の瞳を見た。


「そもそも、皇家の血を絶やさないために、皇帝は正妃以外の妃を娶っているはずです。それなのに正妃以外の子供は認めないというのは、皇族として如何なものかと」


 それは、クレアの心の中の叫びだった。

 クレアは、成長するにつれて講師から彼女がここに連れて来られた経緯の説明は受けていた。

 クレアが人質の王女になってしまったのは全くの不可抗力なのに、皇女や皇子らからは何かにつけて「人質のくせに」と言われる。その度に理不尽さが心中に溜まっていった。


 最初からクレアが愚弄される理由などないはずなのに、皆口を揃えて同じように罵倒する。


 自分のことなら我慢ができた。だが目前でアーサーが愚弄されているのを目の当たりにすると、これまで堪えていた想いが一気に溢れ出てきたようだった。

 アーサーの境遇とクレアの境遇が重なったように感じたのだ。


「お前! 皇太子の婚約者になったからって調子に乗るな‼︎」

「わたくしはそのようなつもりは、一切ございません」


 物おじせず背筋をピンと立てたクレアの姿は、淑女の鑑のようである。

 その様子を受けてなのか、ブルーノはクレアを睨めつけながらも言葉を紡ぐことができないでいた。


「クレア、帰ろう」


 アーサーはクレアの肩に手を置いた。彼の温かい体温を感じられると、乱れていた心が落ち着いていくように感じる。


「はい、アーサー様」

 

 クレアはアーサーの手を取って、立ち上がったのだった。

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