第37話 魔力測定
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クレアは自室へと戻ると、侍女長のサラにアーサーと面会を希望する旨を伝えた。
すると、それは突然の申し出であるのにも関わらず、アーサーから晩餐の前に執務室へと来るようにとの連絡を受けたのだった。
そして、早速アーサーに先ほどの庭園での出来事を説明すると、アーサーは目を大きく見開きしばし無言になった。
「あの、アーサー様」
「薔薇が、咲いた……?」
普段はあまり表情を崩さないアーサーだが、流石に驚きを隠せない様子である。
「はい」
そう言ってクレアが差し出したのは、見事な薔薇の花だった。前もって一輪持ち出していたのだ。
「……ひょっとして、例の力が作用したのか」
「分かりません。ただ、ジョーロで水を撒いていたら突然発光して……」
「……そうか」
アーサーは執務椅子に座ったまま、何かを深く考えこむような仕草をしている。
「ともかく、庭師のトムに『不思議な力が働いた』と事情を説明するわけにもいかないだろう」
アーサーは、執務机の引き出しから小瓶を取り出しクレアに見せた。
「この魔法の栄養薬を、俺から受け取ったと説明をするんだ」
「魔法の栄養薬ですか?」
「ああ」
何でも、それは帝国屈指の魔法使いらが専用の特殊な液体に直接魔法力を込めたもので、ふりかけると植物の成長を早めるのだそうだ。
そのような魔法の薬があることに、クレアは内心驚いた。
「ともかく、きっと君の力によるものだろう。それにしても、その力はどういったものなのだろうな」
「……はい」
クレアは、胸の鼓動が高鳴っていくのを感じた。
「前回は破れた衣装を元通りにし、今回は植物の成長を促進させた。俺の推測では、君は再生の魔法が使えるものかと思ったが、そうとは言い切れないようだ。何か共通の点はないだろうか」
「再生の魔法ですか?」
「ああ。それは、かつてこの大陸に存在した幻の魔法と言われている」
アーサーの話によると、その魔法は「壊れたものを見事に再生する」もので、かつてユーリ王国の前身であるカサブランカ王国の王族のみが使用することができたらしい。
「カサブランカ王国……」
「どうやら君の祖国のユーリ王国の王族は、そのカサブランカ王国の血流を汲んでいるらしい」
あれからアーサーなりに資料を取り寄せて、色々と調べ推測を立てたとのことである。
「君は、再生の魔法を使用することができる数少ない魔法使いなのだと思ったのだが」
アーサーは、今度は机の引き出しから手のひらサイズの時計のようなものを取り出した。
「これは携帯型の魔力測定器だ。これで魔力を測れるんだが、測定してもよいだろうか」
「はい、かまいません」
返事をしつつ、胸の鼓動が高まるのを感じた。
アーサーの指示により手のひらを広げると、彼が測定器をかざすとチリリンという音がした。
「どうやら、やはり君に魔力はないようだ」
「左様ですか……」
魔力がないのに魔法のような力が使える。
考えてみると、どうにも不思議で腑に落ちない話だった。
「そもそも、魔力があるから魔法を使えるというわけではないが、魔力がなければ魔法は使えないというのが通説だ」
「左様なのですね」
そういうものなのだろうとは思っていたが、改めて説明をしてもらうと、ますますクレアの力は何なのだろうと思う。
「それに、気になる点は君の力は再生の力だけではないことだ。先ほど薔薇を持ってきただろう」
その言葉に、クレアはハッと気がついた。
「はい。薔薇は再生というよりも成長しました」
アーサーは頷いた。
「再生魔法ではなく、特別な何かなのだろうか」
「特別な何か……」
そういえば以前乳母が「クレアには希望がある」と言っていた。もしかしたら故郷に帰ればクレアの力の正体が判明するのかもしれない。
「ともかく、現状では推測しか立てられないな。俺も調査しておく」
「ありがとうございます」
返事をしたものの、アーサーの言葉のあることが気にかかり、彼にそのことを訊ねてみたい衝動に駆られた。
「あの、アーサー様」
「何だろうか」
「以前から訊いてみたかったのですが、……アーサー様はご自身のことを『俺』と呼ぶのですね」
「あ、ああ。そうだな」
予想外の質問だったのか、アーサーは少々言葉を濁らせた。
「……元々、公の場でなければ俺と言っていたんだ。君は気心がしれているし構わないかと思ったのだが」
瞬間、クレアの瞳が輝いた。加えて潤んでもいる。
「……そうだったのですね」
「悪い、君が嫌なら戻すが」
「いいえ! そのままがよいです!」
クレアは珍しく机に両手をつき、アーサーの机に身を乗り出した。
「差し支えがなければ、そのまま俺って言って欲しいです!」
普段とは違うクレアの様子にアーサーはたじろくが、深く頷いた。
「君が望むならそうしよう」
「はい」
クレアはなんて大胆なことを言ってしまったのだろうかと思ったが、アーサーの笑顔をみると後悔の念は薄れていったのだった。




