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帝国の人質として連れて来られた王女は、敵国の皇太子によって聖女の力に目覚める  作者: 清川和泉
第1部 不遇な人質王女

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第27話 初めての買い物

ご覧いただき、ありがとうございます。


 それから、クレアとアーサーは前もって用意をしておいた平服に着替えて先ほどのブティックを出ると、同じく平服を身につけ民に紛れた護衛騎士と共に市場に降りた。 

 というのも、「どこか行きたいところはあるか」と聞いたアーサーに対して、クレアは遠慮がちに答えたのが市場だったのだ。


 クレアは、余計なことを言ってしまったかもしれないと気を揉んだが、到着し降車した途端、周囲の喧騒を肌で感じたからか思わず顔がほころんだ。


「殿下! 街です、お店です!」

「ああ、そうだな」


 当然であることをつい言ってしまったが、それほどクレアにとっては大きな出来事だった。


 何しろ、クレアはこれまで皇女宮に軟禁状態だったのだ。

 先ほどの高級ブティックもどこか王宮の延長線上のように感じていたので、ここの賑わいは人や物が交流する場所として映り、喧騒が心地よかった。


「これから見て回ろう」

「よろしいのですか?」


 アーサーからのその申し出はとても意外に感じたので、思わず上ずった声になってしまった。


「ああ、構わない。それから……」


 コホンと咳払いをして少しの間視線を彷徨わせる。


 アーサーのそのような仕草は初めて見るからか、彼の現在の感情がどういうものなのか判断しかねるが、とりあえず怒ってはいなさそうだなと思った。

 そして耳元に唇を寄せて囁くように言った。


「ここでは私のことを殿下と呼ぶのは控えて欲しい。できれば……そうだな。偽名がよいのだが、君が考えてくれないだろうか」


 吐息が耳にかかって思わずドキリとする。

 初めて異性にこのように近寄られたし、そもそも吐息がかかるのは非常に心臓に悪いと思った。


(か、顔が熱くなってきたわ……)


 クレアの思考は停止しかけたが、アーサーの言葉を理解すると今度は身体が固まった。


「あの……私が名前を決めても良いのですか? とても恐れ多いのですが……」

「ああ、構わない。仮の名前だから君が気楽に呼べる名前をつけて欲しい」

「気楽に……」


 ふと、アーサーに視線を移すとある名前が浮かんだ。


「……では、リウス様はいかがでしょうか」


 途端に今度はアーサーの動きがピタリと止まった。どうしたのだろうか、もしかしたらその名前はあまり好みのものではないのかもしれない。

 遠い国の物語で、確か彼の名前と同じ国王の名前からとったのだが……。


「君、もしかして、私のことが分かるのか?」

 

 分かるとは、認識しておるかとのことだろうか。


「? は、はい。殿下のことは存じ上げておりますが……」


 じっと、自分を見られて普段はかかないような汗をかき、身構える。


「この様子では……自覚があるわけでは……ないんだよな」

「何のことでしょうか」

「いや、こちらの話だ。その名前でよいが、呼ぶときは敬称は不要だ。それではそれでいい。君の名前は私が決めてもよいか?」 


 そうか、当然自分も名前を偽名で通した方が良いのか。


「はい、よろしくお願いします」

「君の名前はナディアはどうだろうか。君のイメージから浮かんだ」

「ナディア……。よい名前ですね!」


 それにしても、クレアのイメージとはどういうものなのだろうか。後でこっそりナディアという名前を調べておこうと思った。

 ただ、響きがとても素敵なのでたちまち気に入ったのだった。


 そして、二人は私服の護衛に囲まれながら市場の喧騒を横目に様々な露店を見て回った。


「でん、リウスさま……、リウスさん! とても良い匂いがするのですが、あれは何でしょうか!」


 思わず敬称を再度言い直したので不審に思われていないかと心配になったが、どうやらアーサーの様子は変わらないようだ。


「ああ、あれは鶏の串焼きだよ」

「くし焼き……ですか?」

「ああ、良かったら食べてみるか?」

「よろしいのですか?」

「ああ、問題ない」


 そう言ってアーサーは護衛に視線を移した。

 護衛は毒を感知する魔道具を手に持っており、それは有害な物質を自動的に感知してくれる物らしい。


 そして、アーサーはわりと手慣れた手つきで店主に声をかけて串焼きを二本注文し、銅貨を手渡した。


「はい、熱いから気をつけて」

「……ありがとうございます!」


(当然のように、私の分の串焼きも買ってくださった……)


 これまでこんな風に誰かから親切にされたことなどないから未だに免疫がないが、純粋に嬉しかった。


 そして市場の隅のベンチに腰掛けて二人で串焼きを口にした。

 熱々なので驚いたが、その味は絶品だった。

 

「美味しいです、皇太子殿下!」

「そうか、良かった。ただ、ナディア、名前」

「ああ、そうでした!」


 食べ終えた後は、改めて二人で市場を見て回る。

 見たこともない果物や野菜類が店頭に山積みにされた威勢のよい店主のいる店、煌びやかな装飾品が露店にずらりと並ぶ店。

 見ているだけで心が躍るようだった。


 二人で見て回った後、アーサーはクレアに護衛を残して十分ほど外すと言い残して人垣を分けて進んで行った。

 その間手持ちぶさたを感じながらも、周囲の露店を眺める。すると、ふと近くの店に置いてある装飾品が気になった。


「あの、この装飾品は何でしょうか? とても綺麗ですね」

「ああ、これは剣につける装飾品だよ。剣の柄につけて飾るんだ」

「へえ、そうなのですね」


 品々を見ると一つ蒼色の石の装飾品が際立って目に入った。アーサーにとてもよく似合うだろう。


「あの、こちらを包んでいただけますか?」

「あいよ!」


 気がついたら店主に声をかけていた。

 予め侍女から持たせてもらっていた財布を取り出して銅貨を手渡す。生まれて初めて一人で買い物をした瞬間である。


「毎度あり!」


 紙袋を両手に抱え胸の高鳴りを抑えきれずにいたが、アーサーの反応を考えるとクレアは楽しみで仕方がないと思ったのだった。

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