第23話 心地のよい目覚め
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翌朝。
カーテンの隙間から、太陽の日差しが差し込んでいる。
光がいつもよりも低い位置から差し込んでいる。
普段なら日当たりの悪い西向きの物置き部屋で寝ているので、陽光自体が殆ど差し込んでこないのだが、どうしたのだろうか。
そもそも、ベッドがとても寝心地が良い。
いつもはギシギシ音を立てる朽ちたベッドで寝ているので身体中が痛いのに、今はふかふかとした心地の良い感触が優しく身体を包んでくれた。
「う……ん」
何故、いつもと違うのだろう。
無意識にぼんやりと思っていると、コンコンとノックの音が室内に響いた。
「おはようございます、クレア様。お目覚めでしょうか」
透き通った女性の声に反応して勢いよく起き上がった。
そうだ。確か昨日は皇太子の住む第二宮へと訪れ、思わぬ周囲の人々からの厚意を受け、広くてフカフカのベッドで眠ったのだ。そうクレアは巡らせた。
「クレア様、入室してもよろしいでしょうか」
「は、はい! どうぞお入りください……!」
「失礼いたします」
広大な部屋なので、声の主が扉を開いてからクレアところまで辿り着くのに少々時間が掛かった。
「お目覚めはいかがでしょうか」
そう声を掛けたのは、昨日眠る時にも付いてくれていたリリーだった。彼女の元気そうな姿にクレアは安堵の息を漏らす。
昨日初めて会ったというのに、彼女がいてくれると強い安堵感を抱るようだった。
「クレア様、おはようございます。よくお眠りになられましたか?」
「はい……! それはもうとても良く眠ることができました!」
寝所が替わると、寝つきが悪くなると聞いたことがあるのだが、クレアの場合はこれまでのベッドが寝心地が悪すぎてむしろ普段の十倍以上寝つきが早かったのだった。
「それはよろしゅうございました。それでは、これから皇太子殿下と朝食が控えておりますので身支度を始めさせていただきます」
「…………え? それはどういう……」
詳細を訊く間もなく、リリーは手に持つハンドベルを鳴らすと扉が開かれて、数名のドレスを身に纏った女性が入室して来た。おそらく侍女なのだろう。
「クレア様。こちらの侍女は、急遽今日付でクレア様の侍女に付いた者たちです」
青い髪の女性と栗色の髪の女性、ブロンドの女性の三人だった。
皆顔立ちが美しく、まさしく気高き貴族の令嬢と称するのに相応しかった。
「「「以後お見知り置きを、クレア様」」」
「は、はい! よろしくお願いいたします!」
どこかまだ夢心地だったが、あれよあれとと侍女に促されてクレアは身支度を整え始める。
人肌のお湯で洗顔した後は、寝間着を脱いで二人がかりでコルセットを締めてもらった。
そして好みの色を聞かれると、室内の扉から行くことのできる衣装部屋まで移動をしてドレスを選んだ。
今日はエメラルドグリーンの爽やかな色のデイドレスを選び、リリーと青色の髪のアイリスという名の侍女に着付けてもらった。
そうして、白粉や紅を差した後に髪を編み上げ後ろでクルクルと小さくまとめた髪型にしてもらうと、目前の姿見には見たこともない綺麗な女性が立っていた。
驚いて動きを止めて、これは自分自身だったのかと思った。
昨日も驚いたが、普段は綺麗なドレスとは縁もなく、化粧など施す許可も降りていなかったので中々慣れそうにもなかった。
翡翠のイヤリングとネックレスを身につけると、身支度は終わったようだ。
これまで殆ど人に身支度などしてもらったことがないので、慣れずに始終身体を固くしてしまう。
だが、それがわかっているのか侍女たちは時折声もかけて気遣ってくれたのだった。
(とてもありがたいわ……。けれど、とても私の身の丈に合っているとは思えない……)
昨日までは、侍女の立ち振る舞いをすることさえ許されていないのに、突然今日から世話をしてもらう立場になった。
それには、嬉しさよりもまず申し訳なさが込み上げってきたのだった。
だが、リリーに促されて立ち上がると何か形容詞し難い熱のようなものが込み上げてくる。
「それではクレア様、参りましょう」
「……はい」
そうして、クレアは食堂へと向かったのだった。




