第69話 聖騎士仕様の言葉が重かった
「流石に珈琲はなかった」
翌朝、どんよりとしたクロードさんが日課の訓練と言いつつ、朝食を買って戻ってきました。
もしかして昨日私が気に入っていたから、エレンシア商会で購入しようとしてくれたのですか?
クロードさんが珍しいと言っていたので、簡単に手に入るものではないと理解していますよ。
それに新しいもの好きの貴族の集まりで話題になったと耳にしたことがないので、この国にはまだ入ってきていないのかもしれません。
「珈琲は珍しいものなのでしょうね。いつか手に入ればじっくりと研究したいと思っているだけですわ」
「大丈夫だ。聖王国から取り寄せるように言っておいた」
え? 聖王国? 珈琲も聖王国経由でしか手に入らないのですか?
「もしかして、聖女関係のものですか?」
「まぁ、そうだな。五百年前の聖女様がチョコレートと同じように作り出したものだな」
そう言えば、クロードさんは五百年前の聖女のみ敬称を付けているのですね。それ以外は聖女と言っていますのに。無意識かしら?
「それでは、楽しみにしておきますわ」
届くのは、いつになるのかわかりませんが。
「あ、そうだ。五日後に、エレンシア商会が商品を届けてくれるのだが、何処までなら入っていい?」
「ああ、クロードさんが注文していたものを部屋に入れるという意味ですか?」
商会の人が持ってくるということは、かなり大物ということですね。家具とかベッドとかでしょう。
「中庭と地下に入らないのであれば、いいですよ」
「え? 地下があるのか? 地下があるって聞いていないが?」
言っていませんよ。もちろんクロードさんも立ち入り禁止ですよ。
「私の作業場です。毒草とかも普通に置いてあるので、クロードさんも入れません。入って肺がただれても文句は聞きませんから」
「あ、魔女がヤバいというのは昨日のでよくわかった」
本物の魔女を目の当たりにして、魔女というモノの認識が変わったのでしょう。
クロードさんが遠い目をしています。
「今日は、昼からラファウール魔導師長さんのところに行きますので、食事が必要なら十分とっておいてください」
聖獣の分まで食べなければならないクロードさんは昨日、家にたどり着く頃にはお腹の虫が合唱していました。
たぶん聖獣のお腹の音も混じって聞こえてきたのではと思っています。
ええ、本当に合唱していましたから。
聖騎士は本当に割が合わないと思いますわ。
「ああ、今日は昨日狩ってきた魔牛を食べる」
クロードさんはカウンターの中に入ってきて、小さなキッチンの前に立ちました。
前から思っていたのですが、もう少し大きなキッチンにしたほうがいいのでしょうか? しかしそれだと店舗の部分が狭くなるので、この大きさが無難なのですけど。
お肉が焼ける匂いが店舗内に立ち込めてきた頃、突然店の扉を叩く音が響いてきました。
連動して扉の上に付けられたベルも鳴っています。
こんな朝早くから誰かしら?
「はい。何か緊急に物入り用ですか?」
私は鍵を開けて扉を開きます。そこには見覚えのある白いシスターの服を着た人物が立っていました。
「匿って!」
「は?」
「早く中に入れてよ!」
強引に入ってくる神官騎士のエリアーナさん。いったいどうされたのですか?
「客ではないのでしたら、お帰りを願いたいのですが?」
「は? だったら買えばいいのよね? ここって何を売っているの!」
必要がないものを購入していただかなくてもいいのですが。
それにしても、匿ってというのはどういう意味なのでしょう。
「あ! 素敵な御方! 今日こそお名前を教えてくださるかしら?」
そして肉を焼いているクロードさんに近づいて、カウンター越しに話しかけているエリアーナさん。
だから、何をしに来たのですか!
「まだ、お店を開けるには早い時間なので、お引きとりをお願いしたいのですが?」
「うるさいわよ! ブス! 顔にアザが出るなんて、本当に気味が悪いわね」
まぁ、これは元夫のロイドと婚約してからなので、顔にアザが浮き出ているぐらい何も問題にはなりません。
どちらかと言うと、低い唸り声が聞こえてくるクロードさんの方が気になります。
これはきっと、ご飯を作っているところを邪魔されていることに、怒っているのでしょうね。
「アザは呪いを引き受けたので仕方がないことですわ。帰っていただけないのでしたら、幻惑の魔女に連絡を……」
「やめてよね! あの性悪魔女。私に働けというのよ! 神官騎士にまでなった私によ!」
……それのどこが性悪なのでしょうか?
ただで居候をするつもりなのかしら?
「神官騎士エリアーナ殿」
「はい! あなたのエリアーナです。素敵な御方」
これは二重人格でしょうか?
この態度の変わりようには驚きます。
「妻の悪口はやめていただきたい。それから私は妻に金貨100枚を渡しています。それでも足りないと思っていますよ」
はい、金貨100枚をいただいていますが、そんなにいただいても使い道がありません。
私の店はそこまで困窮していませんから。
「異界の勇者の呪いから、苦しみから解放され、生きることができているのです。これからの人生そのものを妻に捧げても足りないと思っていますよ」
聖騎士仕様のクロードさんの言葉はとても重かったです。
そこまでしていただかなくてもいいですわ。




