第11話「女神さまのおかげ」
「よし、今日は前よりもスパイスの数を増やしてみようか」
「増やすの?楽しみっ!」
料理をするためキッチンに立つ俺の隣に、ピッタリとくっついて離れないセレナ。
その表情は今日も期待に満ち溢れていて、これから始まるカレー作りの工程が見れるのを楽しみにしている様子だった。
例えるなら、まるでアシカショーを見に来た子供のようだ。
これから何が始まるんだろうと、ずっとワクワクしている子供のそれだった。
「セレナは、辛いのが好きなんだよね?」
「ええ!舌にピリピリってくるぐらいが丁度良いわ!」
「じゃあ、今日はカイエンペッパーを多めにしよっか」
セレナのご希望に応えて、俺は辛さを加えるカイエンペッパーを多めにしてスパイスを配合していく。
まぁ言ってしまえば唐辛子の粉末だから、入れれば入れる程辛くなる代物だ。
だから俺は、以前セレナはうちで4辛を頼んでいた事を思い出し、大体同じぐらいの辛さになるように調整した。
こうして俺は、買ってきた食材を食べやすいサイズに切り分けてから炒めつつ、スパイスを加えて煮込む。
すると、見た目も香りもすっかりカレーになった事に、目をキラキラさせながら喜ぶセレナ。
「凄いわ!本当にカレーになった!」
「そりゃ、カレー作ってるからね」
「でも凄いわ!固形ルーなんて使ってないのに、カレーになってるんですもの!」
「あはは、そっか。まぁそのうち、セレナにも作れるようになるさ」
「本当にっ!?」
自分にも作れると言われた事が余程嬉しかったのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶセレナ。
本当にこの子はカレーが大好きなんだなと、何だかそんなセレナを見ていると俺まで嬉しくなってきた。
それから暫く煮込んだところで、カレーが完成した。
今日は合わせてご飯も炊いておいたため、炊き立てのご飯でカレーを食べる事が出来る。
鼻歌を歌いながらお皿にご飯をよそうセレナは、それはもう上機嫌だった。
今回のカレーは牛肉に男爵、そしてセレナに合わせて辛口に仕上げたこのカレーが一体どんな味わいになっているか、俺も食べるのが楽しみだった。
◇
「聡くん……これ……」
「うん……」
俺とセレナは、お互い最初の一口目のスプーンを咥えながらお互いの顔を見合わせる。
「うまいっ!」
「美味しいっ!」
そして俺達は、同時に言葉を発した。
――なんだこれ、めちゃくちゃ美味しい!
いや、作ったのは自分なんだけど、これは正直驚いた。
溶け込んだ男爵のおかげで、辛めに仕上げたカレーもマイルドに味がまとまっており、そして牛肉を使っている事でチキンやポークとはまた違う油の良い風味が味を引き立てていて、普段店で出すカレーとは違うけどこれはこれで普通にアリだった。
「聡くん、やっぱり貴方は天才よ!」
「いや、それを言うならキッカケをくれたセレナのおかげだよ!」
お互い無類のカレー好き同士、たった今新たなカレーが生まれた感動と喜びを分かち合う。
そして最後には、何故か握手を交わした。
何故握手をしたのかは自分でも意味が分からないが、この感動を分かち合うためにはこうして握手する事が今は最適に思えた。
こうして無事大成功に終わったカレーをあっという間に平らげた俺達は、一息つきながら暫く食の喜びに浸った。
◇
「それじゃ、今日は楽しかったよ。それに、ご飯もご馳走様」
「ううん、ご馳走様はこっちのセリフだよ。師匠のカレーは、夢と希望でいっぱいよ!」
「そ、そうかな?じゃあセレナさえ良ければまた作りにくるよ。それじゃ」
「ええ、楽しみにしてるわ!気を付けてね!」
こうして俺は、セレナの家をあとにした。
遊びに行くのは今日で二回目だったけど、前回よりも緊張しなかったなと自分なりに進歩している事が嬉しかった。
これまで同世代の女の子とほとんど絡みの無かった俺だけど、もしかしてついに俺の青春も始まったのだろうか?
しかも相手は、あの五条セレナだ。
はっきり言って、相手が斜め上過ぎるしあり得ない状況だと自分でも思う。
それもこれも、運命的な出会いをしたとか、実は幼馴染とか云々あったわけではなく、キッカケはカレーだなんて我ながら笑えてくる。
でも、俺の唯一の取り柄とも言えるカレーがキッカケで仲良くなれたのだから、これはこれで運命なのかもしれないなと思うと、その滑稽すぎる運命に笑いが込み上げてきた。
別にセレナとどうなりたいとか、そんな高望みをしているわけではない。
ただ今は、俺みたいな凡人でもそんな特別な女の子と仲良くなれている事が嬉しかった。
美味しくカレーが出来ました。
カレー食べたくなってきますね。
ちなみに作者は、コ〇イチではビーフソースにチェンジする派です。




