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小向ツインズは旅の恥をかき捨てる  作者: ありの みえ
2章 異世界行ったら素人料理でも絶賛Umeeeされるものだと思ってた
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妖精のいるオーブンってすごいね!

 焼くことについては、エンマにお任せだ。

 というよりも、オーブンの勝手が判らなさすぎて、おとなしく教わる側に回るしかない。

 オーブンの中には妖精がいるようなのだが、妖精は人間わたしたちには姿を見せてくれないのだ。

 コツを聞く為にも、エンマの仲立が必要だった。


「……いま、音がした?」


「音がしたね。音したよね?」


 ね、と確認を込めてエンマの顔を見上げる。

 オーブンからの物音は、予めエンマがオーブンの妖精と取り決めていた合図だ。

 パウンドケーキは焼いている途中で一度表面に切れ込みを入れたい、とあらかじめ言っておいた。

 そのため、程よい焼き具合になった、とオーブンの妖精が中で薪を転がして音を立ててくれたのだ。

 

「ちょっと膨らんでる気がする」


「……お二人とも、少し離れていてください」


「はーい」


 手際よくエンマが鉄鍋を取り出し、ナイフで表面を十字に撫でる。

 長方形のパウンドケーキ型であれば一度線を引くだけでいいのだが、今回の鍋は円形だ。

 そもそも切れ込みを入れる必要があるのかどうかも怪しい。

 

「今度は焼けたら教えてください」


 鉄鍋をオーブンに戻し、エンマがオーブンの妖精へと声をかける。

 エンマは精霊だから妖精と会話できるようなのだが、私たちには不可能だ。

 私たちがオーブンを使う時には、慣れるか側を離れずに見守る必要があるだろう。

 

 ……まあ、言わなくてもリンが見守りそうだけど。

 

 くんくんと時折鼻を鳴らして、花梨がオーブンを見守っている。

 おとなしい印象に反して花梨は食いしん坊なところがあるので、中でこげる前に気がついて教えてくれるだろう。

 

 しばらくオーブンの前で待っていると、再び中から薪の転がる音がした。

 期待を込めてエンマを見上げると、笑いを堪えた顔をしてエンマがオーブンから鉄鍋を取り出す。

 私の感覚としては焼き時間が短い気がしたのだが、鉄鍋の中身は綺麗な狐色に焼けていた。

 気になっていた切れ込みも、まるで手裏剣のような割れ方をしていて可愛い。

 

「妖精のいるオーブンってすごいね! 綺麗に焼けてる!」


「妖精さん、ありがとー!」


「リン、気が早い。まだ味見してないし」


 パウンドケーキの香りに、花梨のテンションが上がる。

 オーブンに向かって礼を言ったかと思うと、もう一度感動のままにお礼を言っていた。

 大事なことなので二度言ったらしい。

 

「ちょっとアレみたいだよね。昔絵本で読んだ……フライパンでケーキを作るネズミのお話!」


「ああ、あれ! あれ食べてみたかったんだよねぇ……。そっか、小さな鉄のフライパンで焼けば見た目そっくりなのが出来たのか!」


「異世界に来て、まさか子どものころの夢が叶うとは思わなかった!」


 パウンドケーキが冷めるのを待つ時間で、使った道具を洗おう、とエンマに見守られながら魔法で水を呼ぶ。

 飲み水には向かないが、片付ける手間がなくなるため、洗い物には向いているといわれた魔法の水だ。

 桶に水を溜めてボールや泡だて器を洗っているうちに、エンマが小鍋でミルクを温めてくれる。

 なにやらいい香りのする蜂蜜をひと匙入れて、ホットミルクの完成だ。

 パウンドケーキのおともだろう。

 

 

 

 

 

 

「あ、違いますよ、エンマ。四等分に切ってください」


「四等分、ですか?」


 はて? とエンマが不思議そうな顔をしているので、頭数を目の前で数える。

 私、花梨、エンマ、それからオーブンの妖精で四等分だ。

 みんなで作ったので、みんなで食べる。

 

「小さなケーキですから、私たちまでただいてしまうと、カレン様たちの分がなくなってしまいますよ」


「食べたくなったら、また作るからいいよ。オーブンの使い方も早く覚えたいしね」


 その時はよろしく、とオーブンに向かって話しかけてみるのだが、特に妖精からの返事はなかった。

 ただ、そういうことなら、とエンマが切り分けたパウンドケーキをオーブンの保温部屋へと入れる。

 すると、次に蓋を開けた時にはケーキが消えていたので、私と花梨の挨拶は受け入れられたのだろう。

「そういえば、こちらのケーキはバターの変わりにオリーブオイルを使わなくてもよろしかったのですか?」


「パウンドケーキはやっぱバターでしょ」


「……ん。パウンドケーキはバター。カロリー的には替えた方がいいんだろうけど、バター。そこはバター。譲れない……」


誤字脱字はまた後日探します。

昨日の残りなので、短いです。

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