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小向ツインズは旅の恥をかき捨てる  作者: ありの みえ
2章 異世界行ったら素人料理でも絶賛Umeeeされるものだと思ってた
14/24

アホンダラじゃないよ

 部屋から出る、ということで、魔法棟内で着るようにと言われていた制服のローブへと着替える。

 花蓮かれんはもうアレンジして着る気なようで、部屋着にしていたスパッツとミニスカートだ。

 私は花蓮と逆の印象を与えることを目的に、制服はアレンジせずに着る。

 膝下までのスカートに、いつでも花蓮と入れ替われるようにスパッツも穿いていた。

 

「……誰もいないね」


「昼間だからかな? みんな《新月の塔》で働いてるんだよね?」


「そうかも?」


 《新月の塔》で働く魔法師は国家公務員のようなもの、と理解している。

 昨夜のお姉さま方も《新月の塔》の魔法師なのだから、つまりは社会人だ。

 昼間から社員寮である魔法棟にいるわけもない。

 

 廊下の静かな様子に、なんとなく足音を忍ばせて歩く。

 召喚された際には学校指定の上履きを履いていたのだが、今は編み上げブーツだ。

 学校の上履きは、学校の制服と一緒にクローゼットで眠っている。

 

 二日目とはいえ、初めての場所で落ち着かない。

 昨日に引き続き花蓮と手を繋ぐと、花蓮は力強く手を握り返してくれた。

 階段を上って図書室があるという五階につくと、すぐに観音開きの扉が見える。

 人がいる気配がなかったので恐々と扉を開いて中を覗くと、すぐ横から声がした。

 

「こんにちはー」


「「ひゃあっ!?」」


 予期せぬ位置から聞こえてきた声に、花蓮と揃って素で悲鳴をあげる。

 思わず扉を閉めて廊下まで逃げてしまった。

 が、扉の前で固まっていてもどうにもならないので、改めて扉の向こうにいた人物へと挨拶をする。

 

「えっと、こんにちは」


「ごめんなさい。大きな声を出してしまって」


 花蓮と並んで謝ると、私たちに声をかけてきた人物はほっこりとした笑みを浮かべた。

 やはり、子どもにしか見えない双子が並んで謝る姿というのは、いろいろと来るものがあるのだろう。

 大人たちのこういった反応には、子どものころに慣れてしまった。

 

わたくしの方こそごめんなさいね。驚かせてしまったかしら?」


「人がいると思わなかったから。びっくりした」


 ね、リン? と花蓮が話を振って来たので、無言で頷いておく。

 子どもと見られるのだから、子どもの振りをしておく方が良い。

 

「人がいる気配が判らなかったのは、ここが図書室だからよ。遮音の結界が張られているの」


 扉を境に音を遮断しているため、中の音は外へ聞こえないし、外の音も中に聞こえないのだ、と司書を名乗る女性が教えてくれた。

 

 ……女の人ばっかり?

 

 日本の図書館でももう少し男性がいた気がするのだが。

 見える範囲に司書は六人いて、その全員が女性だ。

 なんとなく不思議な気がして、周囲を観察しながら司書と花蓮の会話に耳を澄ませる。

 

 ……そういえば、お風呂も女性用の方が広かったよね?

 

 魔法師は女性の方が多いのだろうか。

 そう思ったままに聞いてみたところ、司書には「当たり前だ」と笑われてしまった。

 女性の方が魔法は得意なのだから、魔法師の数も圧倒的に女性である、と。

 魔法棟の司書は並べられている本の性質上、専門職ではなく《新月の塔》の魔法師が務めている。

 そのため、結果として女性ばかりになるらしい。

 

 ……魔法師は女性の仕事なのか。

 

「あれ? じゃあ、レアンドロさんは?」


 男の人なのに《新月の塔》で一番強いのだろうか、と花蓮が浮かんで当然の疑問を口に出すと、司書はにやりと笑った。

 

「レアンドロさんは、ああ見えて女の人なんですよー」


「え? でもアホンダラは『兄上』って呼んでたけど」


「レンちゃん、アンドレだよ。アホンダラじゃないよ」


「あれ? そうだっけ?」


 さすがに私たちの保護者でもあるレアンドロの弟に対し、それは失礼すぎるだろう、と訂正を入れる。

 訂正を入れはしたが、レアンドロの弟に対する扱いも大概だった気がするので、あまり気にしなくてもいいのかもしれない。

 

 ……そういえば、アンドレさんって私たちに『隷属』してるんだっけ?

 

 とはいえ、主従関係にあるらしいからといって、やはり『アホンダラ』は言いすぎだろう。

 あまりいい印象のないアンドレではあったが、それでも名前を故意に間違えるのはなんとなく違う。

 しかも、その響きには悪い意味があるのだ。

 使わない方がいい言葉である。

 

「……それで、貴女たちがレアンドロ様から通達のあった双子かしら?」


「たぶん、その双子です」


 どんな通達があったのか、と聞いてみると、見習いの制服を着た双子の子どもが図書室に来たら好きに本を見せても良い、と言われているそうだ。

 蔵書の性質上、あまり誰にでも見せられるものばかりではないが、私たちなら大丈夫だろう、と。

 お勧めの本もいくつか用意されているようだ。

 どんな本かと聞いてみたら、魔力制御と基本の魔法式が載った本だった。

 どちらの本も、この国では魔力を持って生まれた子どもが十歳ぐらいまでに学ぶものらしい。

 

「ここの本は一人につき三冊まで貸し出し可能よ。ただし、持っていっていいのは自分の部屋まで、ね。禁書とかもあるから、魔法棟の外への持ち出しは禁止されているわ」


 ただし、貸し出し期限内に必ず返却するように、と釘を刺される。

 研究職の魔法師の中には、本を借りたまま一年以上返しに来ない困った人物もいるのだとか。

 

「新聞は受付にあるから、読みたかったら司書の誰かに声をかけてね」


「……新聞、あるんだ」


 なんとなく近代社会の象徴のように感じていたのだが、この世界にも新聞はあるらしい。

 しかし、ローマ風呂のように古代から風呂もあったのだから、新聞だってあるのかもしれない。

 冷静に考えれば、時代劇でよく見る瓦版だって、新聞の一種には違いがないのだ。

 

「新聞ぐらいあるわよ。いったいどんな田舎から……あ、いや……なんでもないわ。忘れて」


「なんですか?」


「なんでもないの。嫌なことを思いださせちゃってごめんなさい」


「?」


 なんとなく一方的に会話を終了されてしまい、花蓮と揃って首を傾げる。

 新聞の話をしていたはずなのだが、司書の話によると、私たちが嫌なことを思いださせられたらしい。

 まったく身に覚えがないのだが、なんだか気を使われているようなので、そのまま司書の話に乗っておく。

 気になることは、あとでエンマかレアンドロにでも聞けばいい。

 むしろ、この二人のどちらかが根回しした結果なのだと思う。

 

 この国について知るためには、まずは新聞を読んでみよう、と司書に声をかける。

 私が新聞を読んでいる間に、花蓮には図書室の蔵書の傾向を調べてきてもらうことにした。

 

 この世界の新聞は、それほど情報が早くないようだ。

 せいぜい一週間に一度の発行で、街の行事や事件、事故、王族の各地への視察等、どちらかと言えば広報誌のイメージに近い。

 あとは大事件が起こった時に号外もでるようなのだが、やはり新聞と聞いて想像するものとは少し違った。

 

 ……まあ、この国がどんな国か、は判るからいいんだけどね。

 

 新聞の最新号は貸し出しできない、とのことで、まずはこれを読むことにした。

 前号、前々号は借りることができるので、あとで読めばいい。

 

 

 

 

 

 

 ……うん?

 

 まずはザックリとでもこの国の歴史を知りたい、と記事を読む。

 いくつか気になる単語が出てきたので、頭の片隅へとそれらを並べた。

 気にはなるが、情報が少なすぎて妄想の域を出てくれない。

 

「リン、部屋に戻ろう」


「……わかった」


 蔵書の偵察にいったはずの花蓮が、分厚い本を胸に抱えて戻って来た。

 輝かんばかりの笑みを浮かべているので、司書たちには面白い本を見つけて喜んでいるように見えるだろう。

 私の目からみれば、花蓮の笑顔はなんだか不穏だ。

 いつもニコニコと笑っている花蓮だったが、これは笑いすぎだ。

 作った顔だというのが、すぐに判った。

 

 花蓮は見つけてきた分厚い本とレアンドロ推薦の本を二冊借り、私は新聞を遡って三号分借りる。

 貸し出し手続きをしてくれた司書へ愛想よく手を振ると、手を繋いで図書室を出た。

 

「……なにかあったの?」


「なにもないけど、なにか見つけちゃったかも?」


 とにかく部屋に戻ろう、と手を引く花蓮に黙って従った。

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