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有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜  作者: 秘翠 ミツキ


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六十五話〜超大型駄犬〜



 そろそろ寝ようかと考えながら廊下を歩いていると見るからに泥酔しているユーリウスと出会した。

 そういえば昨日、街から屋敷への帰りの馬車で「明日は友人と食事をしてくるので、遅くなる」と言われた。

 エレノラが友人? 愛人の間違いでは? と首を傾げるとそれに気付いた彼は「男性の友人だ。君にもその内紹介する」と言っていた。


「あらユーリウス様、今お戻りですか?」


「……ああ」


 声を掛けると彼は返事をしながら蹌踉めく。


「ユーリウス様⁉︎」


 反射的に手を伸ばすと肩を掴まれた。そしてそのまま凭れ掛かり顔を埋めてくる。


「少しだけ、こうさせてくれ……お金は払う……」


 相当飲んだのだろう。辛うじて会話は出来ているが、夢現に見える。

 エレノラは呆れてため息を吐いた。

 

「まさかこんな所で寝るつもりじゃないですよね? どれだけ飲んだんですか? 飲まれるのは構いませんが、自己管理は確りなさって下さい。ユーリウス様、歩けますか? ほら、私の肩に掴まって下さい」


「……ん」


 フラつくユーリウスに肩を借し彼の自室へと向かった。

 どうにか部屋に辿り着くとベッドの上に下ろし、彼はそのまま倒れるようにして転がった。

 その姿に既視感を覚えまたため息が出た。

 あの時は体調不良だったので仕方がないが、酔っ払いの世話をするなど冗談じゃない。


「エレノラ、どこに行くんだ……」


 兎に角この酔っ払いに水を与えなくてはと踵を返すが手を掴まれる。


「スチュアートにお水を頼んできます。ですからユーリウス様は大人しくしていて下さい」


 エレノラは掴んでいる手を解き、冷ややかな視線を向けた。だが酔っ払い相手には効果はゼロだ。


「ダメだ、行くな」


「我儘言わないで下さい、子供ではないんですから」


「ダメだ」


「ユーリウス様」


「頼む、私を置いて行かないでくれ……」


 だが今度はスカートの端を掴まれる。

 直ぐに手を放させようとするがその瞬間、ふと懐かしさを感じ手を止めた。

 生家の駄犬を拾ったばかりの時は、側を離れようとするといつもスカートの端を咥えられていた。

 その事を思い出してしまい思わず目を細める。

 

「仕方がないですね。でももう生家に駄犬はいるので、これ以上は困るんですけど」


 しかもこっちの駄犬は全く可愛くない。

 エレノラはスカートからユーリウスの手を放させるとそっとベッドの上に戻した。

 だがまた手を掴まれてしまう。


「全く、世話の焼ける超大型の駄犬だわ」


 結局、ユーリウスが眠りに就いた後、スチュアートがやってくるまでの一時間程側に付き添っていた。






 その翌朝、二日酔いであろうユーリウスと廊下で出会すと開口一番に謝罪をされた。

 余りに素直過ぎて心配になっていると、報酬の入った封筒を手渡され、更に「暫く街へ行けない」と告げられた。


 ユーリウスとはこれまで計七回一緒に街へと出掛けている。

 一回の報酬が高額なので随分と稼げた。

 このままなら祝い金を待たずに借金返済も夢じゃないのでは⁉︎ と思っていただけに残念ではある。

 まあ本人が行きたくないのならば仕方がない。最近ではユーリウスが知りたがっていた平民の暮らしにも折角慣れてきていた所だったというのに、気が変わったのだろうか。


 初めは食べ方も分からなかった屋台での食事も、そつなく食べれるようになった。

 まだ鼻にソースがついてしまう事もあるが、面白いので構わないだろう。

 それに当初屋台で購入する際に金貨を出していたが、二回目以降からはちゃんと銅貨などを用意してきた。駄犬にしては優秀だ。


 そして最近はどうやらミルと仲良くなりたいらしく、あの手この手でアプローチをしていた。


 ある日の事ーー


『ほ、ほら、枝だぞ』


……。


 ミルは凄い顔でユーリウスを見て、本気でそんなんで遊ぶと思ってるん? みたいな顔をしていた。


『ほら、ドリアンだ』


シュウ? シュウっ‼︎‼︎


 また別の日。珍しいフルーツを取り寄せたらしいユーリウスは、店頭でそれを受け取ると得意気にミルに差し出した。そしてミルに大激怒されていた。あれは臭いが強烈だった。明らかに周囲の人達も引いていた。喜んでいたのはユーリウスと店主だけだ。


『ほら、友達だ』


……。


 またまた別の日は、等身大モモンガのぬいぐるみを持ってきた。

 顔や身体がかなり歪んでいる。更に目と鼻の位置が絶妙におかしい……。

 ミルは白い目でユーリウスを見る。

 ユーリウス(クズ)、本当に目ついてるん? みたいな顔をしていた。

 そんな中、ユーリウスは今までで一番落ち込んで見てた。その様子にピンとくる。


『もしかしてこの縫いぐるみ、ユーリウス様の手作りですか?』


『なっ、いや、その……』


 分かり易い。


『面目ない……』


 しゅんとなり落ち込む姿がまるで子犬が耳を垂らしているように見えた。

 

『ミルがいらないなら、私が貰ってもいいですか?』


『は? それは構わないが……いや、だが思いの外、駄作に……』


『ふふ、よく見ると愛嬌があって可愛いです』


 心の中でまだ実物は見ていないが、父が騙されて買った頭が三つある犬の魔除けより効果がありそうだと笑った。


 その後もめげずにユーリウスはミルと仲良くなろうと努力していた。

 未だに嫌がられているが、意外と粘り強いと感心をしている。



『て、手を……繋いでもいいか?』


 ふと先日の事を思い出す。

 挙動不審な様子で遠慮がちに手を差し出してきた。


『別料金です』


『分かっている……』


 そう言って手を握った。

 真っ直ぐ前を向き全くエレノラを見ようとしないのに、手だけは確りと握りながら歩いて行く。その横顔は照れているのか赤く見えた。

 きっと平民のデートを体験したかったのかも知れないが、無理する必要はないのにと笑ってしまった。そして少しだけ可愛く思えた。




「最近は、若旦那様とデートには行かれないんですね」


 最後にユーリウスと出掛けてから十日余り。あれから彼と顔を合わせる事が殆どなくなった。朝夕と庭に出没する事もない。


 そんなある朝、エレノラが身なりを整えていると少し残念そうなボニーからそんな事を言われた。

 いくらデートじゃないと否定をしてもデートと言われ続けるので、もはやそこは諦めて聞き流す。そんな事より意外だった。

 当初、ボニーや他の使用人達は絆されないようにと忠告をし敵意剥き出しだったが、もしかしてお土産のせいだろうか? と眉を上げる。

 別にユーリウスの株を上げる為ではなかったが、意外な所で効果が表れているようだ。


「そんなに頻繁には難しいけど、これからも皆にはちゃんとお土産は買ってくるから心配しないで」


 正直、自腹だとかなり厳しくはあるが、日頃頑張ってくれているボニー達使用人に細やかではあるが楽しみをあげたい。

 馬車馬も大変だと内心ため息を吐く。


「確かにお土産はとても有り難く皆喜んでおりますが、そうではないんです。毎回、お二人がお出掛けしたお話を聞くのが楽しみになっていたので、それが残念で……」


 最近はめっきり愛人に会いに行かず真っ直ぐ屋敷に帰宅するユーリウスに対して、お土産効果も加わりかなり好感度が上がっている様子だ。

 

「また出掛ける事もあるかも知れないし、その時は話を聞いて」


「はい、楽しみにしております」


 何となく話をしていただけなので、まさかそんなに楽しみにしてくれていたとは思いもしなかった。

 

(いっその事、こっちから営業してみるとか?)


 毎回ユーリウスから誘われていたので、たまにはエレノラから誘うのも良いかも知れないという気分になる。


(まだまだ稼ぎたいしね!)


 そんな事を考えながらエントランスへ向かっていると、なんだか騒がしい事に気付いた。


「申し訳ありませんが、若旦那様は不在です。お引き取り下さい」


「使用人如きが私に意見するつもりですの? まあいいわ。私はユーリウス様ではなく、エレノラ様に会いに来たんです。さっさと取り次ぎなさい」


 階段の下を覗くとそこにはフラヴィの姿があった。

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