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有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜  作者: 秘翠 ミツキ


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五十八話〜報酬〜




 屋敷に戻ったユーリウスは力なく自室のベッドに倒れ込む。


「あんな顔もするんだな……」


 自分は殆ど彼女から笑顔を向けられた事がないというのに……。


 あれから街に到着したユーリウスは往来で二人の姿を見つけると後を付けた。

 隣に並んで歩く二人はまるで恋人同士にしか見えない。

 朗らかに微笑むエレノラとそれを愛おしそうに見つめるアンセイムを見ているのが苦しくなった。

 


「っーー」


 思い出すだけで辛い。

 そもそも夫がいる身で、他の男とあんなに親しげにするなどあり得ないだろう⁉︎ そう苛立ちながらも、それなら自分は何なんだと思い唇をキツく結んだ。



 今日のエレノラを見て、彼女の本質を垣間見た気がした。

 往来で転んだ子供を当たり前のように助け起こす姿や人が落とした物を追いかけてまで拾って手渡す姿、杖を付いた老人が段差のある店に入ろうとするのに手を差し伸べる姿ーー


 ふと体調を悪くしたユーリウスを気遣ってくれたエレノラを思い出し、自分は何も分かっていなかったのかも知れないと思った。



 エレノラは装いや振る舞い、考え方など全てがフラヴィや他の貴族の女性達とは違う。それをユーリウスはただの田舎者だと馬鹿にしていた。

 

 もしフラヴィや他の貴族の女性達が今日のエレノラと同じ場面に遭遇したら、彼女達はどうするだろうか? 同じように手を差し伸べるだろうか?


 そこでふと思い出す。

 以前、フラヴィの買い物に付き合わされ街へ赴いた時、馬車から降りると走ってきた子供が彼女に打つかった。するとフラヴィは小さな悲鳴を上げた後、自らのドレスが汚れていないかを心配し苛々しながら埃を払っていた。

 

『大丈夫か?』


 そんな中、ユーリウスがよろけた子供に声を掛けるとフラヴィが怒った。


『ユーリウス様、酷いですわ。私の心配はして下さらないのですか? 折角のドレスが台無しにされたんですよ』


 彼女の言葉に目を向ければ、白地のスカートに僅かに土の汚れがついていた。

 そんなやり取りをしている間にいつの間にか子供はいなくなり、その後は不機嫌なフラヴィを連れ新しいドレスを買いに行く羽目になった。

 ただその時は面倒くさいと思っただけで、フラヴィの言動に違和感など覚えなかった。何故ならきっと他の女性達も同じ場面に出会せば似たような言動をするからだ。

 それならエレノラならどうするだろうか。

 きっと当たり前のように子供に駆け寄り「大丈夫?」と心配をする姿が容易に想像出来る。そして走ると危ないと注意をしながらも優しく笑うだろう。


 ユーリウスはこれまで貴族らしくある事に責務や義務を感じそれを美德だと考えていた。

 だが今はエレノラのせいで分からなくなってしまった。

 

 彼女はアンセイムに好感を抱いている。

 その内アンセイムを男性として好きになる、いや昼間の様子からして既に好きである可能性が高い。だがそれでも彼女を手放したくないと思う自分はやはり傲慢なのだろう。



 今更だと分かっているが、まだ間に合うだろうか……ーー

 



「え、正気ですか?」


「それはどういう意味だ」


「ユーリウス様がわざわざ私とお出掛けしたいとか信じられません。もしかして、体調が悪いんじゃないですか⁉︎」


「体調は頗る良好だ」


 翌日、ユーリウスは帰宅すると意気込みながら庭へと向かった。

 そしてエレノラとの関係を改善する為に、次の休日に街へ一緒に行かないかと誘ってみた。

 言い出すまでにかなり時間を要したが、どうにか言葉にする事が出来きたと胸を撫で下ろしたのも束の間、反応が悪い。


「私と一緒は嫌だというのか?」


「……私はこう見えて忙しいんです。ユーリウス様の気まぐれに付き合っている時間はありません」


 そしてキッパリと断られた。

 アンセイムはよくて曲がりなりにも夫である自分はダメなのかと苛立つ。

 ふと今朝出仕した際にいつになく機嫌の良かったアンセイムの姿が脳裏に浮かんだ。

 更に昨日のユーリウスの動向は護衛から報告がいき知っている筈のアンセイムからは、今日一日意味深長な言動をされた。

 あの哀れみを感じる勝ち誇った笑みを思い出すだけでも怒りが湧き起こる。

 だが本来の目的を思い出し、これではダメだと冷静さを取り戻す。

 今の自分はアンセイムよりかなり不利な状況だ。遅れを取る所かマイナスかも知れない。

 だからこそ、この一歩は大きい。

 どうしてもエレノラとの約束を取り付けたい。

 ユーリウスは頭をしぼる。

 ふと以前膝枕にたいして「次からは有料です」と言われた事を思い出し妙案を思い付く。


「それなら報酬をだそう」


 ユーリウスの言葉にエレノラは、尖らしていた口を元に戻してこちらを見た。

 どうやら興味があるみたいだ。


「それとは別に好きな物を何でも買ってやる」


 今度は目を見開く姿に、もうひと押しだと追撃をする。


「因みに報酬はこれくらいでどうだ?」


 取り敢えず適当な金額を提示してみるが、エレノラは固まった。

 相場が分からず高級遊女を一晩買えるくらいの金額を提示したが、もしかして安過ぎたかと焦る。


「不満ならーー」


「行きます‼︎ 何処へでも行かせて頂きます‼︎」


 エレノラは目を輝かせながら食いついた。

 ユーリウスは、どうにかエレノラとの約束を取り付ける事に成功をしたと歓喜した。





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