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有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜  作者: 秘翠 ミツキ


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四十三話〜良い人〜



「ユーリウスの事をそんな風に言うのは、国中探しても君くらいだろうね」


 一頻り笑ったアンセイムからそんな事を言われる。


「彼の人気は相変わらず健在故、結婚は遠慮したいが一晩過ごしたい女性は数知れない。そんな彼に相応しいと言われれば、普通は喜びそうなものだが……君は随分と不服そうだ、興味深い」


 更にクロエからは真面目にそんな風に言われエレノラは苦笑した。





「ーーなるほど、薬草の種か。それなら私の知り合いに頼んでみようか」


 話が少し脱線してしまったが、落ち着いた所で本来の目的をクロエに話した。すると意外にもあっさり了承して貰える。


「良いんですか⁉︎」


「勿論。困っている女性を放って置くなんて出来ないよ」


 クロエの笑顔が眩しい、やはり良い人だ。

 ただ頭の中には「ただより怖いものは無い!」と警鐘がなる。


「だが一つ良いか?」


 顎に手をやり悩んでいる様子を見せるクロエに、やはりこの流れはお金を要求されるに違いないと息を呑む。その一方で出来る限り値切らなくてはと自分に活を入れた。


「はい、何ですか?」


 取り敢えず営業用の満面の笑顔で応対するがーー


「何故、薬屋を開きたいんだ? 趣味かなにかか?」


 てっきり仲介料を請求されるのかと思っていたが違ったと取り敢えず安堵した。


「……」


 ただ返答に困る。

 クロエの気持ちは分かる。誰だって疑問に思う筈だ。名門貴族である公爵家の嫁が自力で薬屋を開こうとしているなど前代未聞かも知れない。

 そしてその理由がまさかお金に困っているなどと夢にも思わないだろう。

 エレノラは笑顔のまま固まった。


(え、これって正直に話さないと教えてやらないよって意味⁉︎ でも……私の生家は伯爵家でありながら、ど田舎貴族な上に貧乏で、収入はそれなりにあるのに、伯爵である父が良くも悪くも人が良く、収入の半分以上を教会や孤児院への寄付や貧しい人々への施しに使ってしまうから伯爵家は万年火の車で、屋敷の維持費すら厳しく、使用人も数人雇うので精一杯だし調度品などは買い替える余裕すらなく、仕方がないので近隣の森で薬草などを採って売ったり、家庭教師をして稼いでどうにか凌いでいる状態だったのに、いつの間にか父が知人の借金の保証人になっていて、更にその知人は逃げてしまい借金を引き継ぐ事となり、でもない袖は振れないと頭を悩ませていた時にブロンダン公爵家との縁談話が舞い込み、祝い金を貰えると言われたから借金返済の為にユーリウス(クズ)に嫁ぐ事になって、でも祝い金が貰えるのは実際は一年後の挙式後だから利息もかなり必要で、しかも最近お人好しの末の弟が詐欺に遭って更に更にお金が必要だから、薬屋開いて一儲けしようと思っています! なんて、言えない……)


 頭の中にこれまでの事の経緯が走馬灯のように駆け巡った。その間僅か二十秒程。


「なるほど、随分と込み入った事情があるようだ」


「ユーリウスと結婚した経緯が気にはなっていたが、僕の想像の遥か上をいっていて驚いたよ」


「あ、あの……まさか、私、全て口に出していましたか……?」


 確認するのが怖いが、聞かずにはいられない。


「ああ、それはもう確りと。心内ではユーリウスの事を”クズ”って呼んでいるんだね」


(爽やかな笑顔でそんな事言わないで〜‼︎)


 背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。


「いえ、その、それは……聞かなかった事にして下さい‼︎」


「はは、考えて置くよ」


「そんな〜……」


 やってしまった……。

 穴があったら入りたい、しかも弱みを握られてしまったと放心状態になる。


 その後エレノラは「反省する時間を下さい‼︎」と言って小屋を飛び出した。

 外に出て大きな木の下に蹲み込み頭を抱えていると、アンセイムが迎えに来てくれる。


「大丈夫、ユーリウスには内緒にしておくから」


「ですが、口止め料は……高いですよね?」


 前回とは逆の立場になってしまった。

 あの時は、口止め料として調合用の道具を一式買って貰ったが、エレノラにそんな余裕はない。


「そうだね……それなら今度、お茶に付き合ってくれるかい?」


「え、それだけで良いんですか……?」


「勿論、それだけの価値は十分にある。それより冷たい地べたに座っていたら風邪を引いてしまうよ。さあ、戻ろう」


 優しく微笑んだアンセイムから差し出されたその手をエレノラは感動しながら取った。

 

(アンセイム様、なんて良い人なの‼︎)


 

 

 小屋の中へ戻り、クロエにも口止めをしておく事を忘れてはいけないと頼み込む。

 だがそもそもクロエはユーリウスとはほぼ関わりがないと聞いて胸を撫で下ろした。


「それにしても、本当に面白い子だ、気に入ったよ。私で良ければ他にも何か手を貸そう」


「本当ですか⁉︎」


「ああ、だが流石に無条件という訳にはいかないが」


「寧ろその方が安心です。ただより怖いものはありませんから……」


「はは、益々気に入った」

 

 クロエからは薬草の種の入手経路のみならず、薬の売買契約まで結んで貰える事になった。



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