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有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜  作者: 秘翠 ミツキ


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三十六話〜細工〜



「本日は若奥様の為に、沢山美味しいケーキを焼きましたので楽しみにしていて下さいね」


 ユーリウスとお茶をする為に身支度を整えてをいると、ボニーからそんな事を言われた。

 畑の為ではあるが正直乗る気ではなかったエレノラは、その言葉に少し気持ちが軽くなった。

 きっとボニー達が気を回してくれたに違いない。本当にこの屋敷の人達は良い人ばかりで、いつも感謝ばかりだ。




 罰と言っていたので警戒していたが、今の所特に変わった事は何もない。ただ普通にお茶をしているだけだ。これなら半月など楽勝だろうとエレノラはケーキを口に運びながら思った。


 嫁いできてからお茶会をするのはこれで二回目だ。

 一人でお茶をしている時に、何度かロベルトに乱入された事はあったが、自由奔放な人なので適当に飲んで食べて帰って行く。到底お茶会とは呼べないだろう。

 ふと弟達や教え子とのお茶会を思い出して懐かしくなる。和気藹々とした雰囲気で話も弾んで楽しかった。だが、ユーリウスとのお茶会は全く楽しくない。別に話したい訳ではないが、フラヴィのお茶会の時とはまた違った空気の悪さを感じている。


 無言でひたすらお茶を飲むユーリウスを尻目に、エレノラはケーキを完食した。

 側で控えているボニーがこちらの様子を窺っている事に気付きお代わりを頼むと、彼女は嬉しそうに了承してくれるが……ユーリウスはそれを制止し更に人払いまでした。


「お茶の席で、菓子のお代わりを要求する女性など聞いたことがない。出された分だけ食べるように」


 どうやら都会ではお代わりはしてはいけないらしい。

 生家では金銭的余裕がない為、毎日お茶会が出来る環境ではなったのでたまのお茶の席ではお茶請けである甘い物はお腹いっぱい食べていた。

 少し物足りなさは感じるが、郷に入れば郷に従えというし仕方がない。

 それより弟達の事を考えたら、詐欺にあった事を思い出してしまった。あれからまだ返事はきていないが、被害総額を聞くのが怖過ぎる……。


「今日だけだ。次はない」


 そんな事を考えているとユーリウスはまだ手を付けていない自分のケーキの皿を何故かこちらへと差し出してきた。


「え、いりません」


 突然どうしたのだろう。意味不明だ。

 まさかお茶を飲み過ぎてお腹が膨れてしまい食べられなくなったから押し付けようしてるのだろうか? いやこのクズ男の事だ、そんな単純な話ではなく絶対に裏があるに違いない。


(もしかして……‼︎)


 このケーキに何か細工がされているのかも知れない。


(お代わりを阻止したのはお代わりを欲している私に、この細工されたケーキを食べさせる為で、人払いをしたのは目撃者を作らない為……)


 ただ流石に毒ではないと思う。

 ()るなら、以前一緒に食事をした時に()っている筈だ。という事は……下剤とかの類いかも知れない。

 予期せぬ事態に、慌てて皿を突き返した。


「それはユーリウス様の分ですから、食べれません」


 だが再び皿が押し戻されてきた。エレノラはそうはさせまいと押し戻してやる。

 

「私がいいと言っているんだ」


「ダメです、ユーリウス様の分です」


「いいから黙って受け取れ」


「嫌です! 人様の分を奪ってまで食べれません!」


「いいと言っているだろう⁉︎」


「ですから、あ……」


 ケーキの皿を移動させながら押し問答を繰り返す内に、皿の上のケーキはパタリと倒れ崩れる。綺麗にデコレーションされていたケーキは見るも無惨な姿になってしまった。

 その光景に二人の手はようやく止まった。


(ボニー達が折角作ってくれたのに……。そんなケーキに下剤まで仕込むなんて……許せないわ‼︎)


「新しい物を持ってこさせ……」


 流石に席を立つのは行儀が悪いが、そんな事今はどうでもいい。

 食べ物を粗末にするなんて許せない。

 エレノラは立ち上がるとユーリウスの元へ行き、フォークを掴み崩れたケーキを載せた。


「口を開けて下さい」


「は? 何を言って……」


「口を開けて下さい」


 責任を持ってこのケーキはクズ男に全て食べさせる‼︎

 僅かに開いた口の中にケーキを突っ込んだ。


「っ⁉︎ ーーな、何をするんだ⁉︎」


 ユーリウスは反射的に咀嚼し飲み込む。

 そして焦る反応を見て確信をした。やはりこのケーキには細工がされていたのだと。


「これは責任を持ってユーリウス様が食べて下さいね」


「何の冗談だ。こんな崩れた物を私に」


「ユーリウス様はお一人で召し上がれないみたいなので、またあ〜んって致しましょうか?」


 全く往生際の悪い事だ。

 綺麗に平らげるまで見張っててやる。

 それでも食べれないというのなら、幼子の如く食べさせるしかない。

 

「……」


 だが諦めたのかユーリウスはフォークをエレノラから受け取ると黙ってケーキを完食した。








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