番外編
— レオ・バルべのその後 —
「レオ、今日のお茶会でね、ケイファード伯爵夫人が私に嫌味を言ってきたの」
俺は執務の手を止め、息を吐きながらミラを見た。
「でね、私、あまりに怖くて泣いちゃったの。そしたらね、夫人ったらね……」
「……セラ。夫人はどんな嫌味を言ったんだ?」
「え? えっとね、『ケーキスタンドは下の段から食べるんですの』って言われたの!
他にはね『ナプキンで口をごしごし拭くなんてありえないですわ』とか『カップの持ち方が酷いですわ』って言われたの! だって、私だって頑張っているのに。酷いよね」
俺は指で机をトントンと叩き、重い気持ちを吐き出すようにゆっくりと息を吐いた。
ミラ、それは貴族として当然のマナーだ。君は貴族になってもう三年以上経っている。そろそろ基礎的なマナーを覚えてくれ」
「だってっ。でもね、夫人はとっても意地悪なんだからっ」
ミラは目に涙を溜めて俺に訴えてくる。
その姿はとても可憐で癒される、と思ったのは結婚して最初の数か月だけだった。
いつまで経ってもマナーを覚える気がないセラに段々と熱も冷めていく。
お茶会や舞踏会へ行く度に他の貴族からは苦言を呈される。抗議が向けられないのは、ミラ嬢の後ろ盾が王家ということだからだ。
ここまで酷いとは思ってもみなかった。
結婚してすぐに父たちは匙を投げた。
何かあればセラを領地へ寄越すようにとだけ言って領地に戻ってしまった。
俺はセラを横目にジネット嬢のことを思い出す。
彼女は今結婚して三人目の子供を身籠っているという話だ。風の噂では夫婦仲睦まじく過ごしているらしい。
……俺があの時、間違えなければきっと彼女の隣は俺だった。
オルガ・サラフィスに激しい嫉妬を覚える。
公爵の愛妾の息子の分際で。
あいつが幸せになって俺は幸せになれないんだ。
くそっ。
「ねえったら! レオ、聞いてくれているのっ!?」
「ああ、聞いている。ミラ、今度、父たちの居る領地に行こうか」
「本当!? 私、王都から出るのは初めてなの。旅行に行けるなんて嬉しいわ」
「ああ、そうだな。父たちもセラが来ることを喜んでいるからな」
「ふふっ。楽しみ♪」
「ああ、俺も楽しみだ」
— ジネットのその後 —
「ジネット、大丈夫か?寒くないか?お腹は減っていないか?」
「もうっ、オルガ様ったら心配しすぎです。最近は執務ばっかりでたまには身体を動かさないと鈍ってしまいそう」
「なんだ、そんなことか。鈍ったって問題ない。今日も俺とマリリンでオーガを二十体倒してきた。いつだって俺はジネットが一番大事だ。そのためならいくらでも頑張れる」
「嬉しい。でも、無理はしないで。私、オルガが居なくなったら生きていけないわ」
「ああ、俺だってそうだ。ジネットが居ないこの世界は生きていてもつまらない」
オルガはそう言って、私をそっと抱きしめた。
!?
「今、動いたわっ!?」
彼は私の言葉に目を見開いてお腹に手を当ててくる。
「本当だ。ジネットのお腹がポコポコと動いているな。ジネットのお腹をこんなにも蹴るとは元気な証拠だ。将来が楽しみだな」
私はオルガの愛に包まれて、今までにないほどの多幸感を覚える。
本当に幸せです。
【完】
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