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優しき修羅の愛  作者: 日向満家
本編
45/61

45話

      四十五


      夫


 家には誰もいなかった。やはりあの沙月は本物だったのか。あんなところで何をしていたのだろう。私は彼女を追いかけようと、再び扉から外に出た。そこにはなぜか、呉谷がいた。

「ついに、こうなったな」

 あきれたような、憐れむような、あざ笑っているような、そんな表情だった。

「何を知ってるんだ。お前は」

 私の声には明らかな怒りがこもっていた。いつの間にか歯を喰いしばっていたせいで、口の周りが強張る。

「何も知らないんだな、お前は。お気楽なやつめ。だから愛想つかされたんだ」

「何かはあると思っていたさ。ただ、本人が言いたくないことなら無理に聞き出すべきじゃない」

「だからお前はいつまでも沙月に愛してもらえないんだ。お前みたいな、機械みたいな人間と結婚しなくちゃいけなかった沙月が可哀想だよ」

「うるさい、黙れ! 沙月を分かったような口ぶりで語るな! ずっと意味の分からない行動をとっておいて、いきなり出てきて好き勝手なことを言いやがって」

 しかし、こうは言ったが呉谷の言葉は確実に真実を捉えていた。私の芯をえぐっていた。呉谷が、そんな勝廣に追い打ちをかける。

「何も言わなくても、沙月は助けを求めていたんだ! どれだけ悲痛な思いだったか。お前のその無関心が沙月を追い詰めていったのが分からないのか?」

 呉谷も珍しく感情が昂っていたが、私の怒りの方が、はるかにそれを上回っていた。私は呉谷の襟首をつかみ、勢いよく私の家の塀に押し付けた。

「沙月に何があったんだ」

 呉谷が語った内容は、私にとって目がくらむような事実だった。



      妻


 勝廣は沙月を抱きしめたまま言った。

「呉谷から話は聞いた。君が昔、過ちを犯していたって俺が君を見捨てるわけないじゃないか。それが原因で今、厄介な男たちに付きまとわれているらしいが、もう大丈夫だ。俺がなんとしてでも君を守るから」

 勝廣は沙月の目を見ようとしたが、沙月はまだ勝廣の目を見れなかった。呉谷でも、沙月があの二人組に何回も身体を許し、さらに挙句の果てに沙月が人を殺したことなど当然知る由もない。

 勝廣の言葉は全身が震えるほど嬉しかったが、もう事態は動いてしまっていた。沙月はまず、自分自身の罪から逃げなければならない。それは誰かの保護を受ければ済むような、単純な話ではなかった。

 さっき、勝廣と顔を合わせた頃には止まっていた涙が、再びあふれていた。勝廣は少し慌てる。

「どうしたんだ? もう大丈夫だって言っただろう」

 沙月は涙を目にいっぱい溜めたまま、しっかりと勝廣の目を見つめた。

「ごめんね。やっぱり私、一緒にはいられないの……」

 沙月はそう言って自分の腕を間に入れて勝廣の手をほどいた。

「え……」

 沙月は、振り返ることなく小走りで、改札の中へ入っていった。

 勝廣は追いかけてこなかった。

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