表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラれた悪役令嬢は、モブに恋をする  作者: あさがお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

 側にいなくなって初めて分かる。

 このポッカリと胸が空いてしまったような寂しさは、オースティンに振られた時には、感じたことのないものだった。

 アランに嫌われてしまった、もう会えないと思うだけで、胸が張り裂けそうに痛んでしまう。

 こんな気持ちは初めてだ。

 ずっと分からなかったけど、今なら分かる。

 私は……


「アランに恋をしたんだわ」


 ぶわっと風が吹いてきて、エルダの髪を巻き上げた。

 乱れた髪で視界が塞がれてしまい、エルダは手で髪を整えた。

 こんなボサボサになった姿を見られたくないが、今すぐにでもアランに会いたくなった。

 ちゃんと謝って、想いを伝えたい。

 会ってくれないかもしれない。

 それなら何度でも会いに行く……


 心に決めたエルダが手に力を込めて顔を上げたその時、ボート乗り場にアランが走って入ってくるのが見えた。

 願望が幻になって見えているのかと、エルダは目を瞬かせた。


「エルダ!」


 エルダを見つけたアランは、ハァハァと息を切らしながら、汗だくで走ってきた。

 どうしたのと言おうとしたら、アランに両腕を掴まれてしまった。


「行かないでくれ!」


「え?」


「お願いだ、エルダ。殿下への当てつけでも何でもいい! 僕が高望みしてしまったから、側にいてくれたらそれで良かったのに……だからお願いだ、好きなんだ、行かないでくれ」


「え……行かないで……って、どこに?」


 ぐらぐらと肩を揺らされて、エルダは目を白黒させたが、アランの言っている話が分からなかった。


「だ……だって、これから半裸のイケメン達を愛でる水上パーティーが開かれるって……。この列はそれに参加するための……だよね?」


 周囲で何事かと話を聞いていた人達から、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

 エルダが首を振って違うわと言うと、アランは顔を真っ赤にして口に手を当てた。


「もしかして……ティアラかしら?」


「そ、そう。ティアラさんが家に来て、エルダがパーティーに参加するから、止めるなら今だって言われて……ここに……」


「……やっぱり。ティアラは私とアランを会わせるために、そんなことを言ったみたいね。前に、アランとボート乗り場に行った話をしたから……それで、気を利かせてくれたのかな」


 アランは深く息を吐いた後、力が抜けたのか、ガックリと地面に座り込んでしまった。

 ちょうどそこで、ボートの順番がエルダに回ってきた。


「せっかくだから、一緒に乗らない? 話したいこともあるし」


 そう言うと、アランは僕もと言って頷いた。

 エルダは係の人に声をかけて、一人乗りから二人乗りに変更してもらった。

 前回は二人して池に入ってびしょ濡れになったので、これでやっとデートのやり直しができることになった。


 ボートに乗って漕ぎ出すと、水面はまるで魔法をかけられたみたいに七色に輝いた。

 おかげで夜であっても明かりは必要なくて、お互いの顔がはっきりとよく見えた。

 しばらく水面を進んでいくと、アランがパッと顔を上げて口を開いた。


「本当はよく知っていたんだ。エルダのこと。告白してくれるずっと前から……。エルダがオースティン殿下に熱い視線を送っていたのも、よく見ていた」


「え……」


「あ……あの時、告白してくれた場所に行ったのは偶然だけど、よく中庭で散歩していたでしょう? 僕の教室から、よく見えていたからそれで……」


「……そうだったのね」


「エルダは殿下に一生懸命話しかけていたけど、殿下は近くを通る別の女生徒の方を見たり、あくびをしたり、あまり関心がなさそうだった。エルダは反応が悪い殿下を見て、寂しそうな顔をしていた。あんなに熱い視線を受けながら、ひどい人だなって思っていたんだ」


 思い返せば、完璧に攻略していたと思っていたが、一人で先走って、燃えていたのはエルダだけだった。

 オースティンは一緒にいても、あそこにいる子可愛いねなんて、普通に口にしていた。

 エルダは自分に都合の悪いことは見ないし、聞かないようにしていたのだ。

 舞い上がっていたのは自分だけで、他の人から見てもそうだったのかと、恥ずかしくなった。


「見る度に、あんな風に、熱い視線を送ってくれたらどんなにいいかと、羨ましいと思うようになった。殿下に向かって、エルダが笑いかけていると、どうしてそこにいるのが自分じゃないんだろうって……自分だったら、あんな寂しそうな顔をさせない……なんて傲慢なことを……思ってしまって……」


「アラン……」


「エルダの告白だって、本当は気持ちがないことは分かっていたよ。きっと殿下の気を引くために、近くにいたヤツに声をかけたんだろうって……。でも、それでもいいと思ったんだ。エルダと一緒にいられるなら、知らないフリをしておこうって……。それなのに、一緒にいると、どんどん好きになって、自分の方を見てほしい、好きになってほしいって……もう止まらなくなって。屋上で二人が一緒にいるところを見て、エルダにやっぱり殿下がいいって言われるのが恐くて、逃げてしまった」


 アランが最初から気がついていたことを知って、エルダの胸はチクっと痛んだ。

 こんな優しい人を利用してしまった自分を恥じた。

 

「キッカケはそうよ、その通り。長い間、憧れていた人だったから、フラれて、もうどうでもいいって、自分勝手に告白するなんてことをしてしまった。本当にごめんなさい」


「僕はそれでいいんだ、謝ることは……」


 反論しようとしたアランを見て、エルダは目を伏せて首を振った。


「いいえ、最低なことよ。アランの優しさを利用してしまったわ」


 俯いたエルダの手を、アランは自分の手で包んでくれた。

 この人は、どこまでも温かくて優しい人、胸がくすぐったくなる思いになって顔を上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ