【BL】ハリーとオニキス
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
ディスケンス家からの帰りの馬車の中、オニキスはなんとなくハリーの機嫌が悪いような気がして話しかけずにいた。なぜならガーネットと楽しくお茶を飲んでいるのを見たハリーの目が、笑っていなかったからだ。
ミラー家へ着いてエントランスに入ると、ハリーは意を決したように突然オニキスの腕をつかんで、自分の方へ向かせた。
「オニキス、今日はガーネット嬢とどんな話をしたんだい?」
オニキスは、やはりハリーは自分がガーネットと親しくしたのを、気に入らないのだと思った。
「言っておくけどな、彼女とはなんにもないぞ!」
ハリーはそれを聞くと苦笑した。
「まさか、僕が君とガーネット嬢との仲を疑っているとでも?」
オニキスは、それ以外なにがあるというのだ。と思いそっぽを向いて口を尖らせる。
「じゃあなんだって言うんだよ」
するとハリーは動きを止め、じっとオニキスを見つめる。
「いや、君が余計なことをガーネット嬢から聞いたのではないかと思ったんだ。それにしても……君の反応は一々可愛くてたまらないね」
そう言うと、オニキスの両肩をつかみ軽くキスをした。突然のことにオニキスは顔を赤くしながらハリーに抗議する。
「おまっ、だから急にそういうことすんなってば!」
ハリーはそれを聞くと、オニキスの腰をつかみ抱き寄せしっかりホールドすると、更に数回軽くキスをした。そして、オニキスの顔をしばらくじっと見つめ、頬を撫でると顎の下に指をあて上を向かせ、深く口づけた。
オニキスは急なことに、抵抗もできずにハリーの上着をぎゅっと握るしかなかった。
やっと唇が解放されると、オニキスは恥ずかしさから腕で顔を隠した。
「お前なにすんだよ! 本当に! そういうのはあれだ、あの、ベッドっていうか、あっいや、そうじゃなくて……とにかくこういう所でしたらダメだってば!」
ハリーは、顔を隠すオニキスの腕をどけると、愛おしそうにじっと見つめた。
「時々、君のことを閉じ込めてしまいたくなることがあって困るよ」
そして、オニキスを抱き上げる。オニキスは慌てた。
「ハリー、まてまて、まだ十七時前だ。仕事の時間のはずだろ? だめだって」
ハリーは胸ポケットから懐中時計を取り出すと時間を確認する。確かにオニキスの言う通り時計の針は十六時四十分を指している。
仕事とプライベートはしっかり分ける。最初に二人で決めた決まりごとだった。最近ではハリーによって、ほとんどあってないような約束ではあったが。
ハリーはオニキスを床に立たせる。
「確かに決まりごとは守らないといけないね、じゃあ執務室で少し仕事の話をしよう」
そう言ってオニキスの手を引いて執務室に向かって歩き始めた。
執務室に入るとオニキスはいつもそうしているように、座っているハリーに向き合うように机に軽く腰掛け、ハリーを見下ろした。
ハリーは椅子にゆったり座り、足を組んでオニキスを見上げて微笑む。
「さて、今日は君の言った通りそれなりのチームに召集をかけたが、君の作戦を聞きたいな」
オニキスは歯を見せて微笑む。
「おっ、流石ハリー話が早くて助かるぜ。作戦は簡単だ。大前提として、イスマって検査官が信用できる人物と仮定した作戦になるけど」
そこで、ハリーが口を挟んだ。
「その件については問題ないよ。調べたところによると、そのイスマと言う検査官はこの作戦に向いていそうな人物だとわかったからね」
オニキスは驚く。
「お前もう調べたのか、本当に仕事が早いな。まぁ、そこが要だからそれを聞いてほっとしたぜ」
オニキスはにやりと笑うと話を続ける。
「んじゃ話をもどして。イスマには奴らと接触して、サイデュームでも取引ができないか持ちかけてもらう。そこで出てくるのが金持ち貴族と太いパイプを持ってる、男爵家の馬鹿息子様の俺!」
そう言うと、オニキスは胸を張った。
「イスマには俺は馬鹿だから扱いやすいって触れこんでもらって、まぁ、そこは本当だから演じるのは簡単だな。んで、俺がわざと奴らに有利になるような取引を何回かして、騙されたふりをして油断させる。そうやって油断した隙に情報をつかんで、最後はハリーたちに一網打尽にしてもらうってとこかな」
ハリーは腕を組み、しばらく考えた。
「そう簡単にいくかな? それに、君はかなり危険な橋を渡ることになるよね?」
オニキスは肩をすくめた。
「悩んでる暇はないだろ? デマントイドの王女様はいつまでも待ってくれないだろうし」
オニキスの言う通り実際問題、確かに他の作戦を準備する暇などない。ハリーは渋々頷いた。
「わかった。その代わり君に危険が及ぶようなら、すぐに作戦は中止するよ?」
オニキスは苦笑した。
「なんだよ、俺そんなへましそうか? ハリーは拿捕の時に、一個隊集めて後ろで控えていてくれればいいって」
ハリーは真剣な眼差しになって、じっとオニキスを見つめると、突然オニキスの腕をつかみ思い切り自分の方へ引き寄せた。
オニキスはバランスを崩しハリーの胸に思い切り飛び込む形になった。
「うわっ、なんだよ」
ハリーはそうして膝の上に乗ったオニキスを抱き締める。
「君は何でも一人で抱え込もうとするから心配なんだ。僕にはもう少し頼ってくれてもいいんじゃないかな?」
オニキスは力を抜いて、ハリーに体をゆだねた。
「頼るとか、そういう問題じゃないんだ。俺はハリーの役に立ちたいんだよ、いつでもハリーの隣に肩を並べて立ってたいんだ」
ハリーは更にぎゅっとオニキスを抱き締める。
「わかっている。君がそういう人間だってことはわかっている。だからこそもう少し頼ってもらいたいと思うんだよ。今回の作戦にしたって、なにも君がいく必要はないよね? なんだったら、僕だって放蕩息子として名を馳せているから、その役は君じゃなくて僕でもいいんじゃないのかな?」
オニキスは慌ててハリーから体を少し離すと、ハリーの顔を真剣な眼差しで見つめた。
「絶対にだめだ! ハリーは俺なんかより何かあったときの影響力だって半端ないんだぞ! わかってんのか? そんな奴を行かせられるかよ! 俺は絶対に行かせないからな!」
ハリーは微笑む。
「僕の気持ちがわかった?」
オニキスは一瞬たじろんだが、ほっとした顔になる。
「良かった、行くつもりはないんだな? ならいいや」
そう言って、微笑んだあとばつが悪くなり、そっぽを向きながらぼそぼそと言った。
「わかったよ、お前の気持ち。でも、これも俺の仕事だしさ。俺、こんなことでしかお前の役に立てないだろ? だから」
ハリーはオニキスの唇に指をあて、話を遮る。
「君は自己評価が低くていけないね。僕にとって君は唯一無二の存在なんだよ。そばにいてくれるだけでもいい、こんな危険な仕事して欲しくないぐらいなんだ。でも、君はそれを良しとはしないだろう? その気持ちもわかってるつもりだ。でも、もう少し自分を大切にしてほしいよ」
オニキスは少し反省した。確かにそうかもしれない。
「ハリーごめん。でも今回は行かせてくれよな」
すると、ハリーは頷き満面の笑みを見せた。
「もちろん、でも今回は僕も一緒に潜入するよ。僕らはパートナーだろ?」
そう言われ、オニキスは不満そうにハリーをじっと見つめた。だがハリーの表情から強い意思を見て取ると説得を諦めた。
「わかった、一緒に行こう」
ハリーが満足そうに頷くと、ちょうど壁の柱時計が十七時を告げた。
「さて、仕事は終わりだよね。ここからはプライベートな時間だ。君は今日はガーネット嬢とどんな話をしたのかな?」
そう言ってハリーはオニキスの顎に手をあて、自分の方へ向ける。
「何って、大したことじゃないぞ? ガーネット嬢とオスカーの馴れ初めとか、そんな話だよ。ってか今日ガーネット嬢から話を聞いてて思ったんだけどさぁ、端から見たらガーネット嬢がオスカーに完全包囲されたってのに、ガーネット嬢本人は全くその事に気づいてないんだな。オスカーは完全な策士だぜ」
そこまで話すと、オニキスは少し考えてから話を続ける。
「それと、前から思ってたんだけどさ、お前弟に家督を継がせたくてわざと遊び歩いてたろ。そう言う意味ではお前も策士かもなぁ」
ハリーは驚きオニキスの瞳を見つめる。
「オニキス、やっぱり君は凄いね。その事に気づいたのは君が初めてだ」
そう言って思い切りオニキスを抱き締める。そして、オニキスに軽くキスをすると、突然声を出して笑いだした。オニキスは驚いてハリーに訊く。
「なんだよ、ハリー何がおかしいんだ?」
ハリーは笑いをこらえながら答える。
「だって、おかしいじゃないか。そんなことにまで気がつくのに、君ときたら僕に包囲されていたことには気づかなかったんだから」
オニキスは顔を真っ赤にした。
「なっ! それどういう意味だ!?」
そう言って、オニキスはハリーから思い切り体を離した。
「ほら、危ない。オニキス、落ちてしまうよ」
オニキスはそれどころではないとばかりに、腕をつかむハリーの手を振りほどこうとする。
「いや、ちょっと待て包囲ってなんだよ!」
そんなオニキスを楽しそうにハリーはつかむ。オニキスは笑いながらそれを振り払う。そんなことをふざけて繰り返していると、そこに咳払いが聞こえた。見るとドアを開けて乳母のメアリーが立っていた。二人はドアが開いたのにも気づかなかった。
「坊っちゃん、もうそろそろお夕食のお時間です。遊んでいないで、早く準備なさってください」
ハリーとオニキスは顔を見合せ、メアリーを見ると
「はい、今行きます」
と返事をした。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。




