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その裏でオニキスたちは

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 珍しくハリーとオニキスがディスケンス公爵家にオスカーを訪ねてきた。

 ハリーはエントランスに入ると、挨拶もそこそこに


「先日オッタモ港での取り引き内容で、面白いものを見つけた」


 と用件を切り出した。オスカーはなにかを察したのか、真面目な顔になると頷き、二人を伴って自分の書斎へ歩きだした。


 ガーネットは自分の出る幕ではないと思いながらも気になってしまい、オスカーの書斎の前で聞き耳を立てた。

 中からオニキスがオスカーに説明している声が聞こえる。


「グリーン貿易の積み荷の検査官がいつも同じなんだ。あそこは小さい港だろ? そんな偶然は全くない、とは言い切れないよな。でもなんだか気になっちまって、過去数十年分調べたんだ」


 ガーネットがオニキスの仕事の周到さに驚いていると、オスカーも驚いているようだった。


「過去数十年分? お前よくそんなに調べたな」


 今度はハリーが答える。


「オニキスは素晴らしいだろ? それに繊細なところもあってね」


 ハリーの話を遮るようにオニキスが話の続きを話し始める。


「とにかく! 調べてみたら本当に年に一度か二度ぐらい、他の検査官が積み荷をチェックしてることがあって、その度に積み荷の量が出航したときよりも減ってるんだ。増えてるなら密輸を疑うだろうけど、減ってるぶんには問題ないだろう? それもそんなにたいした量じゃないんだ。だから誰も気にしてなかったみたいだな。だけど、俺はどうにも気になっちまってさ、んで、グリーン貿易を徹底的に調べたんだ。そしたら麦なんかの穀物を扱ってる小さな組織で、トップは一見どこにも属していない平民のキー・オットマンと言う女性だった。だけど、この女性ってのが、デマントイド王国のカーリン王女の愛人ルーク・オットマンの妹だった」


 しばらく沈黙が続きオスカーが口を開いた。


「デマントイドか……きな臭いな。で? 他に何がわかった?」


 今度はハリーが答える。


「デマントイド側はオッタモ港が小さな港で、目につかないようにするのに最適だったこともあって利用したのだと思うが、でも、あと一つ注目すべきは場所なんじゃないかと思ってね」


 するとオスカーがハッと気づいたように言った。


「パイロープか! あそこはパイロープ王国と近く、更にパイロープ側は山脈が海岸沿いに連なっているから警備も手薄だ。それに最近パイロープにどこからか禁止薬物が流入しているって話を聞いている。もしかすると……」


 そこまで聞いたところでガーネットは、バランスを崩してしまい、ゴン! とドアに額をしたたか打ち付けた。


 オスカーは話を中断し、ゆっくりドアを開ける。そして廊下に額を押さえて座りこんでいるガーネットを見つけると、ため息をついた。


「君は何をしているんだ」


 ガーネットは痛む額を押さえて、涙目になりながら弁解する。


「お茶の準備が必要かと思って……」


 ハリーが後ろから穏やかに声をかける。


「いいじゃないか、話を聞くだけなら問題はないだろう?」


 オスカーは納得いかない顔になると


「ガーネットを危険なことに巻き込みたくなかったんだ。だがこうなったら仕方ない。どうせ君のことだから最初から全部聞いていたのだろう?」


 と言うと、ガーネットの手をつかみ立たせ、ドアに打ち付けた額を手で優しく撫でた。


「痛そうだ、大丈夫か? 赤くなっている。可哀想に。後が残ったら大変だ、冷やすものを持ってこさせよう」


 そう言って、ガーネットの額に触れるか触れないかぐらいのキスをした。


「額に傷を作るなんて、君は本当にチャーミンクだね」


 と、笑うと使用人に冷たいタオルを持ってくるよう指示した。ガーネットを書斎へ招き入れ椅子に座らせると、使用人の持ってきたタオルで額を冷やした。そこで、会話が再開した。


「まずは証拠を掴まないと、相手はあのデマントイドだ、秘密裏にことを進めなければならない。オニキス、お前がさっき言っていた、グリーン貿易の経営者の素行調査と、カーリン王女と愛人の件は、物的証拠は掴んでいるのか?」


 オニキスはニヤリと笑って言った。


「実はずっと前に、おふくろがその情報を掴んでてさ、ずっと調べてたんだ。何かの役に立つだろうって。だから証拠は元々持ってるんだ。正直、今回の件でオットマンって名前が出てきた時にはビンゴ! って思ったぐらいだ。んな訳で、あとは密輸の証拠だな」

 

 オスカーは頷いた。


「オニキス、上出来だ。兄貴はオッタモ港近辺の土地に詳しい。積み荷を下ろすか船上でやり取りするなら、どの入り江か見当がつくか?」


 ハリーは微笑むと


「オニキスに書類の話を聞いた後に、思い当たる場所を見張っていてね。先日船上で何かやり取りしているのは確認できたよ。だけど、もっと証拠を集めた方が良さそうだね。これだけじゃ甘い。それに現場も押さえた方がいいんじゃないかな?」


 するとオスカーは眉根を寄せた。


「今現在デマントイドの王子と王女が来ていて、少しばかり厄介なことになっている。できれば時間をかけずに有益な証拠を掴みたい。本来なら潜入捜査させるのがいいんだろうが、そんな時間はなさそうだな。幸い場所はわかっている。とにかく毎日見張って現場を押さえるしかないだろう」


 ガーネットは前世で見たドキュメンタリー番組で、海外の捜査官が使っていた手口を思い出していた。口を出してはいけないと思いつつ、黙ってはいられず手を上げた。三人は一斉にガーネットを見た。そして、オスカーは微笑み頷く。


「ガーネット嬢、発言を許そう」


 オスカーに発言許可をもらったので、ガーネットは満足そうに微笑み返しうやうやしく一礼すると、口を開いた。


「ディスケンス公爵、発言許可をありがとうございます。(わたくし)はこういったことについて門外漢ですので、皆様からしたらおかしなことを言っていると思われるかも知れませんが、ご容赦下さいませ。オニキス様、そのグリーン貿易を調べて積み荷が減ってると指摘した検査官は、毎度違う検査官ですの?」


 急に話を振られたオニキスは、面食らったような顔をしたが、少し考えたあと答える。


「俺の記憶に間違えがなければ、ここ数年は確か連続でイスマと言う検査官がそのことについて指摘していたと思います」


 ガーネットは微笑んだ。


「そのイスマと言う検査官の素行調査をして、その結果、イスマが信用に足る人物ならばその人に潜入してもらえばよろしいんですわ。『積み荷が減っていることから密輸に気がついた』と言う体で潜入すればよろしいですわね。以前からいた検査官なら、相手からの信用も得やすいですし。素人を使うことにリスクはあると思いますけれど」


 オスカーはうっとりガーネットを見つめた。


「君はどこにそんな素晴らしい才能を隠していたんだい?」


 そう言うと、ガーネットの手を取り手の甲にキスをし、体を抱き寄せしばらく見つめた。

 ガーネットは恥ずかしくなりうつ向くが、オスカーはガーネットの顎を持ち上げて自分の方を向かせた。ハリーはわざと咳払いをして話の先を促す。

 オスカーはハリーの咳払いで我に返ると、からだの向きをこちらに直し、オニキスの方を見て言った。


「こういった情報戦はオニキス、お前の方が強い。なんとかできそうか?」


 すると、オニキスは歯を見せて笑った。


「任せておけよ。そのイスマと言う検査官が繋がりを持ってくれれば、それを足掛かりに潜入はできると思う。ただそっち方面に玄人な人手が欲しい。ハリー、人選も含めてチームを作って寄越せるか?」


 ハリーは頷く。


「そういった作戦に向いているチームがいるから召集しよう。それに密輸船の拿捕も任せて欲しい」


 オスカーはオニキスとハリーの顔を交互に見て言った。


「よろしく頼む。こちらはその情報を王太子殿下と最大限に有効利用出きるよう考えなくては。最終的には、王太子殿下の外交手腕にかかってくるだろうな。とにかく時間がない、急ぎ取りかかろう」


 そう言うとオスカーは執事を呼び王宮に使いを出すよう手配した。次いでハリーも執事に外套を持ってくるように申し付けると、オニキスに向かって微笑んだ。


「僕は少し寄らなければならないところがある。オニキス、君は少しここで待っていてもらえるかな?」


 オニキスは頷くと


「無茶すんなよ」


 と言って、ハリーの頬を撫でた。ハリーはその手を取ると、オニキスの腰に手を回し引き寄せ、口に軽くキスをしてオニキスを見つめた。


「危険なことはしない。愛しい人、心配しないで待っておいで」


 そう言うと、ハリーはオニキスの唇を指で撫でた。オニキスは


「おま、周り人いるから!」


 と耳まで赤くして、腕で顔を隠した。だがハリーはそんなことお構いなしに、オニキスの頭を撫で


「行ってくるよ」


 と、赤くなってる額にキスをし、部屋を出ていった。オニキスはしばらく、顔を隠して立っていたが振り向くと


「今見たことは忘れてくれ……」


 と顔を赤くしたまま言った。ガーネットは心の中で、もちろん忘れません! 前世で二人の推しじゃなかったけど、間近でみれて眼福でしたー!! と、叫んだ。


 ガーネットが瞳を輝かせてオニキスを見ていると、オスカーがガーネットの顔を自分の方に向かせた。


「私も出かける、その前に邪魔物もいなくなったことだし、さっきの続きをしよう」


 と、ガーネットの口をふさいだ。急なことだったので、抵抗するまもなく長く深いキスをされた。しばらくしてやっとオスカーが体を離し


「君が才能に溢れているのもわかっている。だが私は、君を危険なめに遭わせたくない。あまり色々なことに首を突っ込んではいけないよ? わかったね?」


 そう言うと、ガーネットをギュっと抱き締めた。


「ごめんなさい、気を付けます」


 そう言ってガーネットもオスカーを抱き締め返した。その後ろで、オニキスは目のやり場に困り窓の外を眺めていた。


「では王宮に行ってくる」


 と、言うとオスカーは部屋を出ていった。ガーネットはオニキスに


「オニキス様がいらっしゃるのに、失礼しました」


 と謝った。オニキスは首を振り


「とんでもない、俺たちも失礼をしました」


 と頭を下げた。そして、オニキスが頭をあげると、二人顔を見合わせて苦笑した。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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