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 ――貴族の子弟たちが送迎の馬車に乗り込むのを横目に見ながら、帝校の門を潜った時から不安な顔をしているローラが口を開く。


「家族に報告かぁ。お父さん嫌がるだろうなぁ……。帝校に通うのも反対してたし……」

「戦いに出るのではないのですから理解してくれますよ。それよりも問題はお父様です」


 帰路につきながらシャルティとローラは家族の了承について語り合う。


「ああー。カインパパ絶対反対するよねぇ……。一日離れるだけでも機嫌悪くなるのに、一週間なんて発狂しちゃうんじゃない?」

「……そうなんです。しかも今日はたぶん、女性の方とお会いになっているでしょうし家にいるかどうか……」


 シャルティは今朝のカインを思い出す。


 ――すると綺麗さっぱり髭を剃り、どこか気分が浮つき鼻の下を伸ばしたスケベ顔をしていた父の顔。


 母や妻といえる相手がおらず、男手一つでシャルティとサージュを育ててくれている事には偽りなく感謝しているし尊敬もしている。


 しかしだからといって、数多の女性と関係を持つのは如何なものか……。


 まだ三十八歳という脂の乗り切った男盛り。


 武に秀で、顔も悪くない。金にも困っていないとくれば、女に困らないのも分かる。


 それが男性の本能でもあることは、この年齢にもなると理解もできる。しかし親が派手な女性関係を持っていることは倫理的にアウトだし、そもそも娘としては生理的に受け入れられない。


 母のエカテリーナを愛していたのではないか。


 なんなら顔が似ている自分でもいいのに……と考え、顔を赤くし慌てて思考を変える。


 ――ダメだ。家族に対して一番抱いてはいけない感情だ。


 解ってはいるのだ。カインの魔法の根幹は犠牲魔法。生命の循環がなんとかと言っていたが、詳しくは覚えていないし理解もできていない。


 とりもなおさず、カインが魔法を使うには女性と体を重ねる必要があるらしい。それによって絶大な力を得るという、身体強化の極地。


 代償は――子を残せないということ。本人は天然の避妊だと強がってはいたが、その瞳に愁いを携えていたのが印象的だ。


 せめて特定の人物―――例えば自分とかにしてくれたらいいのに、と思い再び頭を振る。考えてはいけない。いけないったらいけないのだ。


 ……カイン。血の繋がりはなく、幼少のころから見知った顔。


 母を愛し、母の為に力を振るい、母の為に私を育ててくれている。


 〝母〟という接点がなければおそらく見向きもしてくれなかったような豪傑。


 ところどころウザい時もあるが、やはり〝好き〟という感情は本物だ。


 それが家族としてなのか、異性としてなのかは未だあやふやにしているが……。


「カインパパもお盛んだよねぇ……。うちのお父さんとは大違い。スコッティ姉さんもベタ惚れだし。ねね、シャルシャルぅ? やっぱりカインパパって凄いの? ――夜の方は……?」


 ローラもやはり年頃の少女。そういったことには興味津々。


 シャルティの腕を抱き、囁く感じでここにはいないカインの性事情を調査する。


「――し、知りませんっ! 娘の私に聞きますか……っ⁉」


 家族の情報など暴露しない! といった感じで拒否するシャルティ。


「えぇ~? ホントにぃ~?」


 しかしなおも引き下がらないローラ。今の彼女はまさに好奇心で動いている。


「……ま、まぁ? 聞くところによると、そ、その……朝まで寝かしてはくれない……そうですよ……?」

「――キャ~……っ‼」

「ナ、ナイショですよ! 誰にも言っちゃあダメですからね……っ」


 年頃の少女の好奇心には、娘の淡い覚悟でも歯が立たなかった……。



 途中でローラと別れたシャルティは家に帰るが、予想通りカインの姿はなかった。


「……まったくもう……! 下半身だけはだらしない人なんだから……っ!」


 文句を垂れるシャルティの眼前には、既に仕込みが終わっている夕食用のポトフと、置手紙が一通。


『今日はレイラに会ってくる!』


 大きく、右上がりの文字。間違いなくカインのものである。


 ――レイラ。


 初めて会ったのは十年前。


 当時は新人受付嬢でミスも多く、カインを恐れていた。しかしいつからか男女の関係となり、出世街道を爆進し今や史上最年少でギルド本部長という幹部の地位を得た。


 カインを想っているという点では、レイラもスコッティと同じくシャルティにとってはライバルである。しかしレイラは過度に距離感を詰めるようなことはせず、シャルティやサージュがいる時は、一切女の貌をしない。


 ベッドの上では知らないが……。


 だからそういう関係性を保っているところは好ましく思っている。スコッティのように家族の和を乱すことはしないから。


 まぁ、スコッティは単純にどこか抜けているだけで悪意はないのだが……。


 なんてことを考えながら速やかに準備を整えたシャルティは、カインの置手紙に上から横線を引いて、その下に帝校の決定に従って騎士団の支援をすること、一週間程度は帰れないことを書く。


 そして玄関で、


「……戦いに行かなくてよかったぁぁ……」


 と弱音を吐く。


 これから一週間は常に周りに人がいる状況。ミスは許されない。弱音を吐くことなどもってのほか。自分は〝女王エカテリーナ〟の娘であり、〝英雄カイン〟の娘でもあるのだから!


「――よしっ! 行ってきます!」


 家族と会えなくて寂しいのはシャルティも同じ。家にいないことでかえって決意がブレなくて良かった、なんて考えながら夕日に照らされながら帝校に向かう。

お読みいただき、ありがとうございます!


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